投資におけるリスクとは「冒す」ものでしょうか、それとも「取る」ものでしょうか。一見するとちょっとした言葉の違いのようですが、この問いを整理できると、自分なりの投資スタンスがはっきりしてきます。
投資のリスクは冒すもの?取るもの?
昔、「投資のリスクは冒すものか、取るものか」という話を読んだことがあります。ずいぶん昔のことで出典を見つけられなかったのですが、おそらく経済小説の作者が、エッセイかインタビューで語っていた話だったかと思います。
そこでは、著者の原稿にあった「リスクを取る」という記述に対し、校正者から「リスクを冒す、では?」と、赤字の指摘を受けたというエピソードが紹介されていました。著者はその指摘を受け、投資に対する一般の意識は「投資=危険」であると改めて感じた、というようなコメントをされていたと記憶しています。
確かに「冒す」という言葉には、危険に立ち向かうという意味合いや、無用の危険にあえて飛び込むというようなニュアンスがあります。「リスクを冒す」という表現も一般的に使われるため、校正者の指摘はあながち間違いではありません。
しかし、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)などで資産運用を行う個人投資家にとっては、「冒す」という表現に違和感を覚えるのではないでしょうか。「冒す」という言葉では清水の舞台から飛び降りる、というような、無茶をしている雰囲気が生じます。
積立投資家が抱く一般的な感覚は、「我々は中長期的な経済成長を信じて、そこにお金を投じているわけで、リスクを『取っている』とはいえ、リスクを『冒している』わけではない」でしょう。
一方、ビットコインなどの暗号資産取引、FXで為替取引をしている人なら「リスクを冒す」のほうがしっくりくるかもしれません。これは、全額を失う可能性を持ちつつ、資産の倍増のような高いリターンを目指しているので、危険度が高いことを「冒す」と表示するとしっくりきます。
短期取引やレバレッジ取引をする投資家であれば、自分たちの緊張感を持ったトレードはまさに「リスクを冒す」だ、と回答するかもしれません。
リスクの意味をどう捉えるか
リスクは一般的な言葉の意味では「危険」となります。しかし、投資においてリスクという言葉をどう捉えるかは、ひとつの教育テーマです。
例えば、確定拠出年金法上における投資教育ガイドライン(法令解釈通知)では、投資教育すべき項目のリストの中で「リスクの種類と内容」の金利リスク、為替リスク、信用リスク、価格変動リスク、インフレリスク(将来の実質的な購買力を確保できない可能性)という項目を例示しています。
「金利リスク」「為替リスク」「信用リスク」「価格変動リスク」そして「インフレリスク」については理解をさせてほしいとしています。
とはいえ、これらは知識としてのリスクの種類に近いところがあって、「購入時点より円高に転じた場合、外国へ投資している投資信託などは元本割れする可能性があります」のような形で理解される、いわばリスク理解の第1ステップといえます。
投資信託の目論見書などには、「投資リスク」についての項目がありますが、リスクの種類や内容を示すとともに、「リスクの定量的比較」の項目が設けられています。
ここでは過去の実績に基づく価格変動を、年間騰落率の推移や、代表的アセットクラスと比較した騰落率の比較図などを示して、視覚的に騰落を示しています。
機関投資家は、各アセットクラスの期待リターンとリスクを数値化し、最適な資産配分(アセットアロケーション)をシミュレーションする際に用いています。標準偏差(ブレ幅)としての理解を意識し始めるとリスク理解の第2ステップに入ったといえるでしょう。
社会経済リスクのコントロールは不可能だが、自身の資産リスクはコントロールできる
改めてリスクについて考えてきましたが、個人投資家が考えたいのは「リスクのコントロールは可能か」という観点です。
社会に存在する投資のリスクは、個人がコントロールできるものではありません。もしリスクをコントロールしてゼロにできるものなら、経済はより豊かに発展しているでしょうが、それはまるで計画経済のような趣があります。また、失敗はありえない社会というのも健全とはいえません。
実態よりも上がりすぎる相場もあれば、逆に実態よりも下がりすぎる相場もあります。
しかし、個人においてはリスクを一定程度コントロールすることができます。例えば、「減らしたくないお金」がある場合、銀行預金にとどめることで元本割れの可能性をほぼゼロにできます(破たんリスクがあるのでゼロではないが、1,000万円までなら全額保全される)。
また、投資資金をFXにいれるか、個別株で売買するか、あるいは投資信託で運用するかの選択も、個人がリスクを抑える選択肢です。
このように、社会に存在する投資リスクは個人がコントロールできません。しかし、自分自身の「資産」の範囲内であれば、自分の選択でリスクコントロールができるわけです。
三つのリスクコントロールを意識してみよう
個人は具体的に、以下三つのリスクコントロールを意識してみましょう。いずれも自身で実践できる運用のリスク管理です。
1.分散投資、特に現預金と投資資金との割合設定
まず、「現預金」と「投資資金」の割合を設定しましょう。銀行預金は物価上昇率に負け続けているところは気になりますが、元本割れはしないというメリットがあります。
投資のリスクをコントロールする第一歩は「そもそも投資のリスクを負わない資産を一定割合確保する」ことです。自身が安心できるキャッシュの確保や、近い将来に支出が確定している資金(教育資金)などの確保を意識し、「現預金:投資資金」の割合を考えましょう。
2.分散投資、特にアセットクラスの分散
次に、投資資金内での分散を考えます。高い期待リターンだけを目指す場合、特定のアセットクラスに集中投資をし、あわせて高いリスクを負うことになります。結果として米国株式が高い利回りを得ることはありますが、必ずしも保証されているわけではありません。
国内株式と外国株式への分散比率、あるいは先進国と新興国への分散比率、株式とその他の資産(特に不動産投資信託(REIT)など)との分散比率などを考えてみるといいでしょう。
株価の急落を真剣に考えた場合は、債券運用を組み入れることが資産全体の急落を抑える要因となってくれます。債券投資は期待リターンを下げますが、リスクも下げてくれる要素です。
3.銘柄分散、特にインデックス運用の活用
個別株で投資をする人の強みは、投資銘柄がインデックスを大きく上回った場合、その利益を全て享受できることです。しかし、逆となった場合は一人負けとなるリスクもあります。
特定銘柄に資産を集中させるリスクを取る場合、情報分析や株価の判断に多くの時間と労力を割く必要があります。
インデックス運用を活用すれば、間違いなく市場の平均値を確保することができます。これは、リスク管理の方法として有意義です。テストで平均点を確実かつ楽に取ることができる方法があるなら、誰でもそれを生かすはずです。投資においても、この方法を生かさない手はないと思います。
近年は特にインデックス運用の低コスト化が加速しました。
カギはやはり「分散投資」
今回提案した三つのソリューション全てに「分散」がつきます。これは、結局のところリスクを抑える方法として「分散」が有効だということに尽きるからです。
そして自身のリスクは自身でコントロールするしかありません。リスクをやみくもに「冒す」のではなく、意識的にリスクを「取る」ものとしたいところです。
(山崎 俊輔)