最近、「マネー・ローンダリング(資金洗浄)」という言葉を頻繁に目にするようになってきました。日本のマネロン対策は先進国の中でも遅れているのが実情。

金融機関は、2028年に迫る国際審査までに具体的な対策を急いでいます。マネロン対策の現状と、その対応を支援する注目企業5社を紹介します。


安全な金融取引を守る「マネロン対策」銘柄5選:NEC、SCS...の画像はこちら >>

日本のマネロン対策、なぜ急務なのか?

 ここ最近「暗号資産がマネロンに用いられた」「別名義の銀行口座をマネロンに使用した」など「マネロン」という単語を頻繁に目にするようになったと思います。近年増加傾向にあるSNSを用いた投資詐欺と密接につながっていることもありますが、実は、日本のマネロン対応は先進国の中で非常に遅れているのです。


「マネロン」は「マネー・ローンダリング」を省略した用語で、「資金洗浄」のことを指します。例えば、犯罪で得たお金(麻薬取引や詐欺など)をそのまま銀行に預けると、警察や金融当局に怪しまれてしまいます。


 そこで犯罪者は、そのお金をいくつもの口座に分けて送金したり、海外を経由させたり、暗号資産に換えたりして、警察や金融当局の監視の目から逃れ、「きれいなお金」に見せるのです。


 この「マネロン」を防止することを「アンチ・マネー・ローンダリング(AML)」といいます。また、テロリストが活動資金を集めたり送ったりするのを防ぐことを「テロ資金供与対策(Countering the Financing of Terrorism(CFT))」といいます。


 こうしたAML/CFTを国際的に行う機関が「Financial Action Task Force(FATF(ファトフ))」です。日本語では「金融活動作業部会」といいます。FATFは、世界の国々が協力してAML/CFTのルールを決めています。日本もメンバーで、FATFから「ちゃんとルールを守っているか」「実際に役立つ制度になっているか」を定期的に審査されています。


国際審査で「落第点」。国の信用と国民の安全に影響

 日本はこの審査の結果が良くなかったのです。


 2021年に公表された第4次相互審査で、日本は「法律や仕組みは一応そろっているが、実際の運用はまだ弱い」という評価を受けました。つまり、日本は「制度は作ったけど、現場でうまく使えていない」という点で厳しく評価されたのです。


 例えば、銀行や弁護士などが「怪しい取引」を見つけたときの報告が十分に活用されていなかったり、会社の「本当の所有者(実質的支配者)」を確認する仕組みが弱かったりしました。


 このため、日本は「重点的にフォローアップが必要な国」に分類され、次の第5次審査(2028年開始)までに指摘事項に対する具体的な改善を迫られています。猶予はわずか3年しかありません。


 過去、第1次審査(1994年)では「制度がほとんど整っていない」、第2次審査(1998年)では「日本はマネロンに甘い」、第3次審査(2008年)では「体制は十分に機能しておらず、不十分」と散々な評価を受けてきましたので、着実にステップアップはしています。ですが、グローバルスタンダードでは「落第」という評価を受けているのです。


 日本がAML/CFTを怠ると、国際社会から「日本はマネロンに甘い国」と見なされ、海外の銀行が日本の金融機関との取引を敬遠する可能性があります。これは経済や貿易に大きな影響を与えるため、日本経済にとって死活問題です。


 また、AML/CFTをおろそかにすることは、犯罪組織やテロ組織に資金を流すことにつながり、国民の安全を脅かします。

つまり、これは「国際的信用」と「国民の安全」の両方を守るために欠かせない取り組みの一つと言えます。


 一方、AML/CFTとは無縁の健全な利用者からすると、少額の銀行送金なども本人確認書類の提示が求められるなど、使い勝手は悪くなります。実際、銀行窓口やATMなどでも「あれ、こんなに本人確認が必要なの?」と思われる方も多いでしょう。


 0.01%の可能性も見逃してはならないというのが、AML/CFTの制度設計ですので、金融機関は各種サービスの利便性を維持することが非常に難しくなっています。小一時間の買い物ぐらいだったら家の鍵をかける文化がなかった「昭和」のリスク管理の考えは通じなくなってしまったのです。


注目高まる「マネロン対策」関連銘柄5選

 日本の金融機関では、AML/CFTの制度設計が急務となっています。公認AMLスペシャリスト(CAMS)などマネロンの専門的な資格を有している人材を確保し態勢を構築するのも必要ですが、システム化を進めることも重要です。


 そこで、今回は今後注目されるであろうAML/CFTに関連した銘柄を紹介します。東京市場ではまだ注目されていないテーマですので、今後の展開が楽しみな銘柄と考えます。


銘柄名 証券コード 株価(円)
(9月24日終値) 特色 カウリス 153A 2,390 マネロン関連の本命 日立製作所 6501 4,030 多くの企業とAML実証実験を開始 NEC(日本電気) 6701 4,766 金融インフラ構築の知見をAMLサービスに生かす DTS 9682 5,300 米企業と提携し暗号資産関連のリスク管理も展開 SCSK 9719 4,560 AML事業を中期経営計画の基本戦略に位置付け

カウリス<153A>

 AMLおよびサイバーセキュリティー対策事業を展開しています。主に証券会社やクレジットカード会社、暗号資産関連企業などへの導入実績とノウハウの蓄積が強みです。主力の不正アクセス検知サービス「Fraud Alert」は、250以上のパラメータを活用し、金融庁が定めているマネロン・ガイドラインに沿ったモニタリングを実施し、口座不正利用の阻止を行っています。


 先日、大手電力10社と不正な預金口座開設や悪用の防止などといったマネロン対策の業務提携を発表し、株価は急騰する場面が見られました。今後もこうした動きに期待したいところです。


日立製作所<6501>

 日本を代表する産業用エレクトロニクス大手です。今年2月、デジタルアセット取引関連事業者などと共同でAMLの実効性向上と共同化に向けた実証実験を開始しました。同社は「本実証実験の推進と実証対象プラットフォーム・機能の提供、および各社からのフィードバック収集」という中心的な役割を担っていることから注目します。


 実証実験開始の段階ですので収益化の話は当然これからになりますが、日本の金融機関などが必要とするAML関連事業ですので引き合いは多いでしょう。


NEC<日本電気:6701>

 日本を代表する産業エレクトロニクス大手です。同社は、一般社団法人「全国銀行協会」が金融機関のAML/CFT業務の高度化・共同化を図ることを目的として設立したマネー・ローンダリング対策共同機構が提供する「取引モニタリングなどのAIスコアリングサービス」のシステム構築ベンダに選定されています。


 事業構造上、AMLサービスは大きな収益源ではありませんが、長年、金融インフラを支えてきた同社のノウハウを駆使していますので、金融機関からの相談などは多いと考えます。


DTS<9682>

 情報システム導入に関連するコンサルティング事業を展開しています。サイバーセキュリティリスク評価サービスを提供するほか、「AMLion(アムリオン)」というAML/CFTのシステムを証券会社やクレジットカード会社などにも提供しています。


 今年6月、米国の暗号資産に関するセキュリティサービス会社であるTRM Labs社と提携し、暗号資産追跡&リスク管理ツールの提供を開始しました。既存の「AMLion」との組み合わせで暗号資産関連企業を含むトータルな金融取引におけるリスク検知の高度化が期待できます。


 株式市場ではマネロン関連銘柄の一角としては、さほど関心は高まっていないと思いますのでこれから評価が高まると考えます。


SCSK<9719>

 システムインテグレーター専業大手で、親会社の 住友商事(8053) が2025年3月時点で50.59%の株を保有しています。


 銀行やクレジットカード会社、資金移動業者、証券会社などさまざまな金融機関にAMLソリューションを提供しています。

AML事業の中核サービスである「BankSavior(バンクセイバー)」は、金融機関を対象に「取引モニタリング(疑わしい取引の検知)」など金融犯罪を未然に防ぐ重要なサービスを展開しています。


 また、AML事業を中期経営計画の基本戦略として位置付けており、2023年には、子会社が為替取引分析業の許可を第1号業者として取得。2024年から金融犯罪対策ソリューション製品の提供を開始しており、マネロン関連銘柄の一つとして注目します。


(田代 昌之)

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