9月19日、米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席が、今年3回目となる電話会談を行い、両国関係の重要性と対話の継続を確認しました。トランプ氏は、近い将来における習氏との対面での会談に意欲を示しています。
トランプ大統領と習近平国家主席が今年3回目の電話会談
前回のレポートでは、米国と中国の政府代表がスペインのマドリードで4回目の協議に臨み、TikTok問題で「枠組み合意」に達した経緯を扱いました。
2025年9月18日:「 米中、TikTokで『枠組み合意』の行方:中国株高と実体経済低迷の謎 」
その後、米ホワイトハウスはTikTok社の米国事業を米オラクル社が中心となる米企業・投資家連合に移管させると9月22日に発表。
「中核技術のアルゴリズムは中国がライセンス供与すること」「事業を管理する新設合弁会社の取締役会では半数が米国人であること」「バイトダンスは20%未満の出資に抑えること」といった方向性や中身が示されました。TikTok問題は、米中関係のカタチに関わる重大な案件だと私も認識しており、引き続きその行方に注目していきます。
そんな中、9月19日、金曜日の夜(北京時間)、習近平国家主席とトランプ大統領が、今年に入ってから3回目となる電話会談を行いました。会談後、トランプ氏は自らのソーシャルメディアで次のように投稿しています。
「貿易、フェンタニル、ロシアとウクライナの戦争終結の必要性、そしてTikTok取引の承認を含む多くの非常に重要な問題で進展があった。…この電話会談は非常に良いものであり、私たちは再び電話で話す予定だ」
中国政府が発表したプレスリリースも、冒頭で次のように総括しています。
「両首脳は、昨今の中米関係や共に関心を持つ問題を巡って、率直かつ深い意見交換を行った。中米関係が次の段階で安定的に発展するように、戦略的指針を示した。電話は実利的で、積極的で、建設的なものだった」
また、TikTok問題に関しても、「中国政府は企業自身の意思を尊重する。企業が市場のルールにのっとって商業交渉をすることで、中国の法律法規に符合し、かつ利益がバランスされた解決法を導き出すことを望んでいる」と語り、米中首脳として、TikTok問題を解決すること、言い換えれば、TikTok問題が足かせとなって、米中の協議に悪影響が及ぶのを防ごうという意思がうかがえました。
関税協議、首脳会談、台湾有事への示唆は?
これまでも本連載で度々指摘してきましたが、米国と中国という世界第一、第二の経済大国が、経済や軍事、先端技術や地政学など、あらゆる分野で競争を繰り広げつつも、「対抗」ではなく、「対話」を既定路線、方向性として関係性が推移していくことで、国際関係や世界経済が初めて基本的安定性を保証できると考えています。
米中関係が安定する上で、大切なこととは何か?
米中間では日々、ヒト、モノ、カネ、情報が大量に、多角的に飛び交い合っています。それら一つ一つの動向や事象が、米中関係という世界で最大の二カ国関係を形づくっている点は論をまちません。
一方、上記の中国政府が発表したプレスリリースにも記載されているように、それらの動向や事象に「戦略的指針」を示すのは、疑いなく両国の首脳外交、要するにトップ同士の関係と対話です。
その意味で、米中の関税を含むハイレベル協議が持続的に行われている中、トランプ大統領と習近平国家主席が電話会談を行い、それなりに友好的かつ前向きな雰囲気の下、両国関係の重要性を確認し合った事実はとてつもなく大きいでしょう。
注目されるのが、第2次トランプ政権発足以来、初となる対面での首脳会談の行方です。これに関して、トランプ氏は次のように投稿しています。
「私はまた、習主席と、韓国で開催されるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議で会うこと、来年初めに私が中国を訪問すること、そして習主席も適切な時期に米国を訪れることに合意した」
10月31日~11月1日にかけて、韓国で開催されるAPECという多国間外交の場に習氏、トランプ氏がともに出席し、その場で米中二カ国間の首脳外交を行うという意思表示です。
現時点では、米中首脳がいつどこで会うのかに関する公開情報はこのトランプ氏による投稿のみです。中国側からは具体的コメントや立場表明は出ていません。中国としては、トランプ氏に韓国に来るついでに、北京を訪問してほしいと願っているかもしれません。
いずれにせよ、年内に米中首脳会談が開催される可能性は高く、注目すべきでしょう。また、米中首脳外交が現在進行形の関税協議や、アジア太平洋地域における最大の地政学的リスクといえる台湾有事にどういう示唆を与えるのかも、重要な視点です。
米中首脳が良好な個人的関係を含め、定期的に対話をし、二カ国間関係が大きく崩れないようにグリップしている状況が生じるとすれば、そういった状況が続くほど、関税協議の進展を促す、台湾有事の緊迫化を防ぐ、という作用が期待できます。
今回トランプ氏と習近平氏が電話会談を行ったこと、これから両氏が対面で会談すべく、準備を進めていることは、世界経済、およびマーケット側から見れば、グッドニュース(朗報)だということです。
米中のはざまで日本はどう立ち振る舞うべきか?
最後に、昨今の米中間のやり取りや動向が、日本に与える示唆について考えてみたいと思います。
まず、先週金曜日に行われた米中首脳電話会談で、両氏は次のように語っています。
「中米両国は、第二次世界大戦で共に戦った盟友である。先日開催した抗戦勝利80周年行事に、我々は米国飛虎隊メンバーの遺族を招待し、天安門の上から軍事パレードを見ていただいた。中国人民は、米国など反ファシズム同盟国が中国の抗日戦争に提供してくれた貴重な支持を忘れない」(習近平氏)
「中国の抗日戦争勝利80周年記念式典と軍事パレードは非常に素晴らしかった」(トランプ氏)
形式的、象徴的な発言である可能性は高いものの、米中両国の首脳が、「抗日」という歴史的行事・経緯において、相互に呼応し、互いをたたえ合ったという事実は、日本にとってはあまり都合の良いものではないでしょう。
もちろん、戦後80年を通じて、米国にとっては、中国ではなく、日本こそが同盟国であり、日米同盟は中国の不透明な台頭にきっちり向き合い、アジア太平洋地域の平和と安定にコミットするというスタンスに変わりはありません。
ただ、米中のはざまで日本が生き抜くために、われわれは3点留意しておくべきだと考えます。
一つ目に、トランプ大統領には、価値観や地域の安定、あるいは同盟国といった日米関係を形づくってきた視点は薄く、それよりも、外国首脳との個人的相性や化学反応、自らの政権や業績に何をもたらしてくれるかといった短期的視点から、諸外国との関係や首脳との関係をマネージする傾向が強いという点です。
トランプ大統領が同盟国である日本を特別扱いする可能性は低く、逆に、戦略的競争相手である中国に手を差し伸べる局面も十分考えられるということです。
二つ目に、本稿で扱ってきたように、「米中接近」が一定程度可視化される中、日本の官民がどのような距離感とバランス感覚で、米中それぞれと付き合い、あるいは米中関係そのものに向き合うのかという点です。
逆に、米中が企業や市場レベルでも関係性を強める局面が生じたとして、そのときどう振る舞うのか。想定シナリオの一つとして考慮すべきでしょう。
三つ目に、米中がトランプ大統領と習近平国家主席の個人的関係の深化を背景に、より一層接近したとき、台湾問題がどう動くかという点です。
日本では、「台湾有事」と聞くと、米中が台湾海峡で戦争をするようなシナリオを思い浮かべる企業や関係者が多いようですが、必ずしもそうなるとは限りません。
仮に、トランプ氏が習近平氏に、「中国が台湾を平和的に併合すること」を容認する、要するに、米国として軍事介入しないという約束を内々にしたとして(例えば、そのような会話が首脳会談でなされた場合)、台湾海峡を巡る状況が一気に動く可能性も否定できません。その時、日本の官民、国民はそのような事態をどう認識し、行動すべきか。
今のうちから考えておいた方がいいでしょう。
(加藤 嘉一)