相場がバブルか否かは、破裂するまで分からない。米AI株相場では、リード銘柄の多くが業績見通しの裏付けを何とか伴い「バブル未満」として対応してきた。

しかし、足元の高速ラリーでは、気になる兆候がチラホラ。バブルかフロス(小さな泡)か、「転ばぬ先の杖」の目線でチェックする。


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サマリー

●米AI相場は5カ月にわたるラリーで楽観論が強い
●バブルとは見ないまでも、フロスの破裂を警戒させる兆しは散見
●あおられやすく、速く高い相場ゆえに変調の兆しへのキメ細かい目線が必要


米AI株ラリーの現在地

 米人工知能(AI)株相場は、4月後半からほぼ5カ月にわたり、上昇トレンドをたどってきました。まずは、現在地を確認しましょう(図1)。


<図1>米主要AI銘柄の推移(2025/4/4=100)


【米国株】AI株ラリーに見えてきた「キナ臭さ」に注意しよう
出所:Bloomberg

 2025年ここまでの相場の流れは、1月に好スタートを切ったものの、2月には鈍り、3月の自律調整から、4月にはトランプ関税ショックで弱気局面入り警戒水準まで急落しました。


 その後、トランプ大統領の「TACO(Trump Always Chickens Out:トランプは自らの強硬策を、相場下落など悪影響にびびって引っ込める)」を好感して、相場は上昇に転じました。そして、「FOMO(Fear Of Missing Out:出遅れ恐怖)」買いが連鎖する中、トランプ大統領によるAI支援のディールや政策が相次ぎ、5~7月とサマーラリーの様相に。


 8月には足踏みがあり、9月には季節性のダレも警戒されました。しかし結局は、政策、業績、投資など相次ぐ好ニュースに、過剰すぎとも思える好反応を見せ、上昇が続いています。


 さらに、マクロ・ファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)において、雇用に陰りがあるとはいえ、景気が底堅いうちに、米連邦準備制度理事会(FRB)は0.25%の利下げ再開を決定。景気悪化による逆業績相場になる前の利下げは、株式相場に強力な支援になると判断されます。


 こうして、AI相場は強烈なラリーを続けてきました。筆者は、10月以降も、この相場には前向きに取り組む構えです。

ただし、足元の株高については、バブルとは考えないまでも、少なくとも、部分的、タイミング的には、フロスかもしれないキナ臭い兆しが散見されます。


留意するキナ臭さ

 慎重派の筆者は、ラリーを追認しての強気解釈には距離を置くようにしています。そして、ラリーに反するリスク要因、兆しを注視し、それが十分大きくならない限り、投資ポジションをホールドするアプローチです。


 現在、ちょっとキナ臭いと留意している兆しを列挙します。


(1)日替わりローテーション:7月、8月、9月と相場が上伸を続ける中で、上がる銘柄・業種があれば、翌日には軟化し、その代わり、まだ上がっていない別の銘柄・業種が買われる展開が繰り返されました。結果として、クロールで泳ぐ際に右手側の水をかき入れ、次は左手側をかき入れ、全体が前進し続けるような流れになりました。


 例えば、AI半導体の内部では、汎用チップのエヌビディアと内製型チップのブロードコムなどとの間でローテーションが起こりました。


 AI半導体と一般半導体、半導体とAIソフトウエア、AIソフトウエア内ではインフラとアプリ、あるいは、AIと一般テック、テックと景気・バリューでも、さらに単に前日までに上がったものと上がらなかったものの間などローテーションは多岐にわたって起きています。


(2)ニュースに対する過敏性:政策、業績、受注、投資などの好ニュースが出るたびに、それに関係する銘柄が過剰とも思える反応を示す場面が多くなっています。その結果、「FOMO買い」が強められたり、萎縮したり、ローテーション売りに巻き込まれると利益確定売りがかさんだり、相場の値動きが不安定化します。


(3)銘柄個々の値幅の大きさ:速く高まる相場では、ニュース過敏症で急伸してFOMO買いを誘ったり、含み益が膨らんで潜在的に売り逃げ勢を強めたり、値動きが大きくなりがちです。


 相場変動の大きさは、上方であれ下方であれ、「リスクの大きさ」だと評価されます。リスクが高まった投資対象は、リスク愛好の投資家の熱狂で上がっても、保守的な投資家は敬遠するようになります。


(4)9月季節性のダレを押し返す上伸:9月は株式相場がダレやすいとする季節性で知られています。2025年はここまでのところ、それをものともしない上昇相場になりそうです。高いまま月末を迎えれば、7月末~8月初めに見られたようなリバランス売りに見舞われるリスクが想定されます。


 上昇相場におけるリバランス場面は、通常は押し目買いの好機と考えます。しかし、バブルでなくフロス程度でも、その相場自体に売り逃げ圧力が内在している場合、リバランスなどのきっかけで、思わぬ深みにはまるケースがありえます。


(5)循環投資の自己増殖:金融バブルは、投資が投資を呼ぶ自己増殖で膨張する構図が一般的です。現在、米金利は、利下げを再開したとはいえ、まだ引き締め気味と言ってよい水準です。そんな中で、気になるニュースがネットで流布されました。



    ネット上では「オープンAIがオラクルに1000億ドル 」「オラクルがエヌビディアに1000億ドル 」「エヌビディアがオープンAIに1,000億ドル」と、投資がぐるぐる循環していることを揶揄する図解がなされています(正確には、『オープンAIがオラクルと共同でデータセンターに5年で3,000億ドル投資』『オラクルがエヌビディアの半導体を約400億ドル分購入』『エヌビディアがオープンAIに最大1,000億ドル投資』というニュースが出て、個々にエヌビディアやオラクルの株を上伸させました)。


 これらの大手AI勢が提携を表明すること自体は、前向きに評価できる面が多々あるでしょう。しかし、金融は信用、株価も期待という信用で回っていることを勘案すると、自己増殖に対する不信が相場のハシゴを外させるきっかけになるかもしれない、そんな思いがかつてのバブル破裂ケースのきっかけ要因と重なって想起されました。


相場へ落とし込む

 以上の「キナ臭い」兆しは、強く速い相場ゆえの現象であり、その売り逃げ圧をガス抜きする値動きとも解釈可能です。

しかし、筆者の短期投資は、個々の銘柄・業種に投資家が集まって、みこしを担ぐようにして形成されるリズムを解析し、勝算を求めて、どう参加するかの戦術を決めていますが、上述の(1)~(3)で、リズムの抽出がほとんどできなくなっています。


 ただ、2025年好スタート時のAI相場には、価格が上昇しても、先行指標としての取引高が減っていき、そこにキナ臭い値動きが重なってきました。そこで2月から投資ポジションを減らし、3月初めまでに撤収し、4月の急落リスクを回避しました。今回は全体として取引量はまずまずの水準であり、キナ臭くても、買い目線で観察を続けています。


 個別銘柄のリズムがバラバラで捉えにくくても、入れ替わり立ち替わりのローテーションで、相場全体が高まっています。つまり、個別銘柄が捉えられなくても、分散効果のある株式指数や業種別の上場投資信託(ETF)に狙いを定めることも一案です。また、高下の変動に巻き込まれつつも、上昇相場の中軸にあるエヌビディアのような銘柄への着目もあり、と考えています。


 私の慎重派アプローチは、「ズバリいくらまで上がる」「これを買え」といった派手な売買推奨には無縁で、地味に思えるでしょう。しかし、相場は「負けない」ことに徹するゲームと考えています。相場波動(波のような上下動)の下2割の買い参入、上2割の買いやホールドで無理をしないことで、相場の勝率を高めることのみに視座を定めるアプローチです。


*本稿は個別銘柄を推奨するものではありません、投資はご自身の判断と責任において行ってください。


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(田中泰輔)

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