9月に入ってからの日米株式市場は「オータム・ラリー」とも言える上昇基調をたどっています。足元の株価の割高感はかつてのITバブル時をほうふつとさせる水準に達しています。

また、企業同士で資金を還流させ価値をつり上げる「循環投資」への懸念も一部で浮上しています。来月から本格化する企業決算を前に、そのポイントを探っていきます。


「オータム・ラリー」の裏に潜む相場の論点(土信田雅之)の画像はこちら >>

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 「オータム・ラリー」の裏に潜む相場の論点 」


「オータム・ラリー」っぽくなってきた足元の株式市場

 今週の株式市場ですが、これまでのところ、日経平均株価が連日で最高値を更新しているほか、米国株市場に目を向けても、週初の22日(月)に主要株価3指数(ダウ工業株30種平均、S&P500種指数、ナスダック総合指数)がそろって最高値を更新し、以降は伸び悩んではいるものの、高値圏を維持しています。


 9月に入ってからの株式市場は、相場の割高感や過熱感が指摘されながらも上昇が続き、さながら「オータム・ラリー」になっている印象ですが、その背景には、大手のテック株をはじめ、AI関連企業株が市場をけん引していることや、金融政策イベント通過後のアク抜け感などが挙げられます。


 こうした上昇基調はまだ続きそうなムードとなっていますが、こういう時だからこそ、足元の相場を冷静に整理する必要がありますので、そのポイントなどについて考えていきたいと思います。


ポジティブな材料が相次ぎ、AI関連銘柄を物色する動き

 AIをテーマにした関連銘柄の株価上昇については、今週月曜日のレポートでも指摘した通り、ここ2週間ほどの間に、米国でポジティブな材料が相次いだことが追い風となりました。


▼月曜日のレポート

日経平均、4万5000円台から上を目指せるか?テック株物色がカギ


 具体的に見ていくと、まず、9月9日の取引終了後に発表されたオラクルの決算で、旺盛なAI需要が確認されたことをきっかけに勢いを取り戻し、以降もマイクロン・テクノロジーやアルファベット、アップル、パランティア・テクノロジーズなどの銘柄に対して、金融機関のアナリストが投資判断を引き上げる動きが続きました。


 また、イーロン・マスク氏によるテスラ株の大量購入や、アルファベットが裁判でグーグルの事業分割を回避できたこと、エヌビディアによるインテルへの出資など、ニュースや話題が相次いだことがさらに株価を押し上げました。


<図1>米マグニフィセントセブン(M7)銘柄のパフォーマンス比較(2024年末を100)(2025年9月24日時点)
「オータム・ラリー」の裏に潜む相場の論点(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDIIデータを基に作成

<図2>米主要AI関連銘柄のパフォーマンス比較(2024年末を100)(2025年9月24日時点)
「オータム・ラリー」の裏に潜む相場の論点(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDIIデータを基に作成

 昨年末を100とした関連銘柄のパフォーマンスの状況をチェックしても、これらの銘柄が足元で上昇していたことが分かります。


活況ゆえの割高感とITバブル時の記憶

 その一方で、株価収益率(PER)面で見た株価の割高感や相場の過熱感を警戒する見方も存在しています。


<図3>米S&P500(月足)とCAPEレシオ(長期PER)の推移(2025年9月24日時点)
「オータム・ラリー」の裏に潜む相場の論点(土信田雅之)
出所:Bloombergデータを基に作成

 長期のPERの動向を示す「CAPEレシオ」は37倍台まで上昇しており、歴史的に見てかなりの割高水準となっています。このCAPEレシオの図は以前のレポートでも何度か紹介したことがありますが、そのたびに値が上昇しています。


 もちろん、「割高」イコール「すぐに売り」とはならず、ITバブル時のように、CAPEレシオが高止まりしつつ、株価の上昇が続いていた場面もあり、足元の株高基調がまだ続く可能性はあります。ただし、高いCAPEレシオの値が修正される局面に入った場合には、株価の大幅下落を伴っているため、注意が必要です。


 また、割高ながらも株高が続く構図は、かつてのITバブル時以来ということもあって、当時の状況と比較して、相違点や類似点などの議論がなされる中、足元の相場の過熱感に警戒する声も一部で出始めています。そして、そのキーワードの一つとなっているのが「循環投資」です。


「循環投資」とは?

 1996年から2000年にかけてのITバブル期に問題視された米企業間における「循環投資」とは、IT関連の新興企業やベンチャーキャピタルが、お互いに、あるいは特定の企業グループ内で出資・投資し合うことで、実態以上に企業価値をつり上げていた行為を指します。


 その多くにおいて、企業は新たな価値を生み出しておらず、帳簿上で資金が循環しているに過ぎませんが、「収益性」よりも「将来性」を優先して相場が熱狂していた当時の状況では、企業の財務実態が精査されにくく、株価は上昇を続けたものの、行き詰まりが見えたタイミングでバブルが崩壊する要因の一つになった経緯があります。


 足元のAI相場についても、ITバブル期をほうふつとさせるような巨額の投資が活発に行われていますが、今回も同様に循環的な動きがあるのではないかという懸念の声が上がっています。


 例えば、巨大なクラウドプラットフォームを持つ米大手テック企業(マイクロソフトやアルファベット、アマゾンなど)が、有望なAIスタートアップに巨額の出資を行う見返りとして、そのスタートアップが自社のクラウドサービスを長期的に利用するといったケースです。


 これは一見すると健全な戦略的投資にも見えますが、出資された資金が結局は大手テック企業のサービス利用料として還流する側面も持っています。


 また、エヌビディアがオープンAIに出資し、オープンAIがオラクルのクラウドサービスを購入し、オラクルがより大きなサービスを提供するためにエヌビディアから先端半導体を購入するといった資金の流れも循環的な側面があるのではという指摘もあります。


 もっとも、現在の米大手テック企業は大量の資金を有しているほか、決算でも利益を生み出しているなどの相違点はありますが、AI関連の投資が短期間で急拡大しているため、「AI投資が収益という成果を生み出せないと、将来性や期待感だけではいずれ行き詰まってしまう」という本質は変わらないため、相場の論点の一つとして意識しておく必要があります。


 来週から10月相場入りしますが、中旬ごろから本格化する企業決算シーズンの動向が注目されます。


金融政策の思惑と銀行株

 最後に、日米の金融政策イベント通過後のアク抜け感による上昇についても考えていきます。


 こちらも月曜日のレポートで言及していますが、米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果は、引き続き相場を支える材料にはなるものの、今後の金融政策期待だけでは株価を押し上げていく材料としては、すでに相場に織り込まれていることもあって、弱くなっていくと思われます。


▼月曜日のレポート

日経平均、4万5000円台から上を目指せるか?テック株物色がカギ


 そのため、足元の相場は上昇基調を維持しているものの、時間の経過とともにトーンダウンしていくことが想定されますが、そのバロメーターとして注目されるのが米大手銀行株になります。


<図4>米大手金融機関のパフォーマンス比較(2024年末を100)(2025年9月24日時点)
「オータム・ラリー」の裏に潜む相場の論点(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDIIデータを基に作成

 教科書的には利下げ(金利の低下)は銀行の収益を圧迫するため、銀行株にとっては逆風とされていますが、昨年末を100としたパフォーマンスを確認すると、米大手金融株(JPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴ、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス、シティグループ)がそろって、株価が高水準を保っていることが分かります。


 その理由としては、景気が底堅い中での利下げは、貸出の「量」の増加が見込まれ、利ざやの「質」の低下をカバーできることや、金利低下によって買収や合併(M&A)や新規ローンなどを活発化すること、さらに、トランプ政権による規制緩和の動きが銀行経営の自由度を高めるのではという見方が挙げられます。


 また、FOMC後の米10年債利回りが、低下ではなく上昇で反応していることも影響していると思われます。


 いずれにしても、「今回の利下げが、深刻な景気後退(リセッション)を回避しながら行われる予防的な利下げ」と市場が解釈していることが前提になっていることが重要なポイントです。


 逆を言えば、この前提が揺らいだ時が要警戒となりますが、こうした揺らぎに敏感に反応しそうなのが銀行株になると思われますので、AI・テック株以外にも、その動向をウオッチしていく必要がありそうです。


(土信田 雅之)

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