日経平均株価が最高値を更新する中、「もう割安株はないのでは?」と感じるかもしれません。しかし、市場に見過ごされている「お宝銘柄」はまだまだあります。
お宝銘柄は「まだまだある」
トウシル:最近、日本株が大きく上昇しています。まだ割安株は残っていますか?
西勇太郎さん(楽天証券経済研究所グローバルアナリスト):私はグローバルに株式を見ていますが、世界的に見ても、日本と韓国の株は特に割安な銘柄が多いと感じています。特に日本株は、一部の銘柄がけん引して日経平均株価が上昇している側面が大きいので、市場全体を見渡せば割安に放置されている企業はたくさんあります。
トウシル:日本株はなぜ割安なのですか?
西さん:さまざまな理由が合わさっているのだと思います。人口が減少している国への投資に海外投資家が魅力を感じない、英語での情報が少なく海外投資家に認知されていない、自己資本比率が高いにもかかわらず投資や株主還元に積極的ではない企業が多いことなどが考えられます。
トウシル:特に割安なのはどういった株ですか?
西さん:海外での認知度が低い企業、もしくは海外投資家にとって投資のハードルが高い企業が狙い目です。日本ではよく知られていても、海外での認知度が低い会社は珍しくありません。一方、グローバルに注目されている企業は仮に割安だったとしても、それが海外投資家から発見されて割安さがすぐに解消されます。
業界中位かそれ以下の企業は、機関投資家からの資金が流入しにくい傾向があります。グローバルで業界の上位10社や20社に入っていない企業は海外投資家に注目されにくいため、割安になりがちです。
また、製造業や素材といった業界の企業はあまり注目されていないので狙い目です。水産業のように米国で大きな上場企業がない業種も、海外投資家にとっては比較対象を見つけにくいため割安で放置されていることがよくあります。
反対にテクノロジー系の銘柄は投資家の注目が集中しやすいこともあり、割高な傾向があります。
まずは「PBR」を見てみよう
トウシル:銘柄が「割安」かはどうやって判断していますか?
西さん:まず、重要なのは株価が企業の純資産に対して何倍であるかを示す株価純資産倍率(PBR)です。特に「同業他社との比較でPBRが低いか」「PBRが過去よりも低くなっていないか」という二つの点を、長期投資の視点で投資に適する企業を探す際に常に確認しています。
最近よく聞くようになった「PBR1倍割れ」は分かりやすい割安株の目安ですが、業種によってPBRの水準はまちまちです。そのため、単純に「1倍割れなら割安」と考えるのではなく、同じ業種の競合と比較してPBRが低いかどうかを見るといいでしょう。
企業のPBRが以前よりも低下した場合、何らかの事件を起こしたり、業績が悪化したりするなどにより、市場の評価が下がったことが原因となっているケースもあります。しかし、売り上げや利益が伸びているのにPBRが下がっていて、「なぜ下がっているのだろう?」と疑問を感じさせる企業もあります。
「他の業種の銘柄に資金が流れた」といった理由でPBRが下がっただけで、会社自体には問題がないこともあります。そのため、詳しく調べてみてもPBR低下の明確な理由が見つからない場合、掘り出し物の割安銘柄である可能性があります。
「低PBR・高ROE」の銘柄を探せ
トウシル:なるほど。それでは、PBRが同業他社と比べて低い企業や、PBRが低下していながら大きなマイナス要因が見つからない企業に投資すればいいのでしょうか?
西さん:PBRだけでは不十分で、企業の収益性にも目配せが必要です。なぜなら、毎年赤字を計上し、自己資本が減り続けている企業の場合、将来的にさらに株価が下がるリスクがあるからです。PBRが低いとしても、お買い得な割安株とはいえません。
収益性を見る上で役に立つのが、企業が株主資本をどれだけ効率的に使って利益を出しているかを示す自己資本利益率(ROE)です。例えば、100億円の株主資本を持つ企業が、毎年10億円の利益を生み出す(ROEが10%)のと、毎年1億円しか生み出さない(ROEが1%)のとでは、株主にとっての価値は大きく異なりますよね。
後者の企業は、PBRが1倍割れで買えたとしても、将来的に赤字を計上して株主資本が目減りしてしまうリスクが相対的に高く、割安とはいえないかもしれません。反対に、PBRが低くROEが高い企業は、市場から過小評価されている割安株である可能性が高いと考えられます。
そのため、まずはPBRが低い銘柄をリストアップして、その中からROEが高い企業を選ぶのが割安株探しの効率的な方法です。
トウシル:ROEは8~10%が目安と聞きますが、どのくらいのROEの銘柄を選べばいいのでしょうか?
西さん:ROEはPBRとの関係で見ることをお勧めします。そのために私がいつも活用しているのが、同じ業種の企業のROEを横軸に、PBRを縦軸にした散布図です。
例えば、こちらは主な計量・計測機器製造業の企業のROEとPBRの散布図です。ROEが高いほど、PBRも高く、この二つの指標がおおむね比例関係にあることが分かります。ROEの高さは収益性の高さを示しているので、そうした企業は株式市場でも評価されてPBRが高くなる傾向があります。
<主な計量・計測機器製造企業のROEとPBRの関係>

しかし、こうした比例関係にもしばしば例外があります。例えば、計量・計測機器製造業の中でも、島津製作所はROEの高さの割にPBRが大幅に低くなっています。
こうした銘柄を見つけたら、その企業の事業内容や将来性をIR情報などからさらに詳しく調査しましょう。その上で、本当に「お宝割安株」なのかをよく見極めて投資を検討してみてください。
(呉 太淳)