地下鉄という名前を冠していながら、一部で地上を走る路線があります。なぜこのような建設方式になったのでしょうか。

コストや地形など、様々な要因があります。

地下を走らない地下鉄

「地下鉄」を名乗りながら、まとまった区間、地上を走る路線があります。東京メトロ東西線の南砂町~西船橋間や、都営三田線の志村坂上~西高島平間、大阪メトロ御堂筋線の中津~江坂間などがその例で、車窓はもはや地下鉄ではなく「普通の鉄道」とほぼ変わりません。

 この「地下鉄の地上区間」は、神戸や札幌なども含め、おもに郊外の区間で見られる光景です。

 もともと地下鉄は、都市部の用地取得の問題や、地上における空間利用の制約を避けるために採用されますが、高架線に比べ建設費用は高くなってしまいます。その点、郊外部ではそれらの制約が比較的小さいため、コスト面で有利な高架線として建設されることがあるのです。

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路線距離の半分近くを地上走行する東京メトロ東西線(2017年11月、草町義和撮影)。

 また同様の理由から、高速運行を重視してまっすぐ線路を引くことが比較的容易というメリットがあります。実際、東京メトロ東西線の快速は、地下区間の最高速度が80km/hなのに対し、地上区間では最高100km/hで走ります。

 このほか、車両基地がある関係で、地上に駅が設けられるケースもあります。東京メトロ千代田線の綾瀬~北綾瀬間や、横浜市営地下鉄ブルーラインの上永谷駅、新羽駅などがこれに該当します。

都心のど真ん中で「ニュっと」地上に!

 一方、東京では市街地の真っただ中にもかかわらず、地下を走っていた地下鉄が突然、地上に現れることがあります。

 有名なのは銀座線渋谷駅でしょう。列車は地下から突然ニュっと飛び出し、明治通りをまたぐ地上3階の高さのホームに滑り込みます。2020年1月のリニューアルまでは長らく、明治通りを越えた西側の東急百貨店の内部にホームがありました。また丸ノ内線も、四ツ谷駅、茗荷谷駅、後楽園駅、御茶ノ水駅付近(神田川にかかる橋)の4か所で地上に出ます。

 このような都心部の地上区間が生まれる理由は、東京ならではの複雑な地形が関係しています。東京の地形は主に武蔵野台地と、それを川が侵食することでできた谷によって形成されているため、山手線の内側でも各所で地形の激しい起伏が見られます。

 渋谷の街も渋谷川が長い年月をかけて侵食した谷底にあり、周囲と極端な高低差が生じています。渋谷駅と隣の表参道駅との標高差は約18m、マンション5、6階分にも達します。

 同じく丸ノ内線も台地を流れる谷や深く開削された川を通過するため、急激な標高変化に対応できず、何度も地上に顔をのぞかせるというわけです。

「地下鉄なのに地上区間」なぜ生まれた? 東京では「ちょっとだけ地上」も多いワケ

谷底から市街地を見上げる構造の茗荷谷駅(2019年4月、乗りものニュース編集部撮影)。

 都営新宿線の東大島~船堀間では荒川に加え、旧中川と中川、計3つの川と交差します。そのためこの区間では地上に出て、橋梁で川を渡ります。

なかでも東大島駅は、旧中川をまたぐ形でホームが設置されている珍しい駅。同様の例は、埼京線の北赤羽駅や阪神電車の武庫川駅など数例しかなく、もちろん地下鉄の駅としては唯一です。

 この区間は荒川の河口付近に位置し、地盤も緩いことから、仮にトンネルを掘るとなれば地下深くに通すことになります。都内で荒川を渡る鉄道や道路は橋梁がほとんどで、地下トンネルとなっているのは埼玉高速鉄道しかありません。

 ちなみに、日本で「地下鉄」の明確な定義はありませんが、地下鉄事業者の連携を目的とした日本地下鉄協会という組織があり、大部分が地下を走る埼玉高速鉄道線やりんかい線もこれに加盟しているため、これらを「地下鉄」と呼ぶ見方もあります。

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