海上自衛隊の哨戒機は、機体後部に細長く伸びた部分があります。旅客機が原型のP-3Cも、その伸びた部分は原型になく、哨戒機型のみに見られますが、この部分、実は海上自衛隊が果たす役割のうえで極めて重要なものでした。

海自哨戒機が監視するのは海面だけじゃない

 海上自衛隊が保有するP-3C哨戒機やP-1哨戒機、よく見ると機体後部に何やら細長い尻尾(しっぽ)のようなものを付けています。これは何なのでしょう。

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海上自衛隊のP-3C哨戒機。矢印で指した部分がマッド(柘植優介撮影)。

 そもそも「哨戒機」とは、日本の周辺海域を警戒監視するのが任務の飛行機です。日夜、空から海をパトロールすることで、外国軍艦が変な動きをしていないか、遭難船舶がいないか監視し、状況によっては不審船を探すことなども行います。

 同じような任務飛行は海上保安庁の飛行機も行っていますが、海上自衛隊の機体にしかできないことがあります。それが海面下、すなわち水中を航行する潜水艦の動きを探ることです。

 海上保安庁の飛行機は海中の潜水艦を監視することまではできません。この潜水艦の警戒監視のために、海上自衛隊の哨戒機には尻尾が生えているのです。

自機の磁気による影響を受けないよう尻尾の形に

 海上自衛隊の哨戒機の尻尾、この部分は「マッド」もしくは「マッドブーム」と呼ばれます。マッド(MAD)とは「Magnetic Anomaly Detector」の略で、日本語では磁気探知機といい、磁力で潜水艦を探し出す装置です。

 地球は絶えず磁気を帯びています。この地球が持つ固有の磁気を地磁気といいますが、潜水艦は大きな鉄の塊のため、水中に潜っていても、存在する場所の周辺の地磁気をわずかながら乱します。

哨戒機の「しっぽ」何のため? 機体後端にわざと生やしている理由とは

国産のP-1哨戒機。P-3Cと同じく機体後部にマッドを装備する(柘植優介撮影)。

 この地磁気のわずかな変化をキャッチし、潜水艦を探し出すのがマッドです。ではなぜ機体後端に設置されているのかというと、非常に微かな磁気の乱れでも探知できるように感度を高めた作りになっているため、自機が搭載する電子機器や、それこそ胴体各部の金属から発生する磁気の影響を受けないようにするためです。

すなわち磁気干渉を減らすため、最も影響を受けにくい機体最後部に設置されているのです。

 そのため、海上自衛隊ではP-3C哨戒機の派生型としてEP-3やOP-3C、UP-3Dなどの多用機を生み出し運用していますが、これらは潜水艦探知の任務につかないため、改修の際にマッドは撤去されています。