特急列車の先頭で光り輝く逆三角形の「特急シンボルマーク」。国鉄が製造したほとんどの特急形車両に付いていましたが、現在見られるは特急「踊り子」「やくも」などごくわずか。

このマークはいつ、どんな経緯で登場したのでしょうか。

特急「踊り子」の185系にもある「特急シンボルマーク」

 JR東日本は2020年11月に、伊豆方面へ向かう特急「踊り子」などで使用している185系電車を、2021年春のダイヤ改正をもって定期運用から引退させる方針を発表しました。現在、185系は「踊り子」のほか、東海道線を走る「湘南ライナー」などで活躍していますが、ダイヤ改正後はいずれもE257系電車がすべての運用を担うことになります。

 185系は、国鉄時代の1981(昭和56)年に登場した、いわゆる“国鉄形車両”です。同系は、白い車体に緑色のストライプが配されるなど、それまでの特急車両とは一線を画すスタイルだった一方で、国鉄特急車両の伝統を随所に受け継いでいました。その一つが、前面中央部に光り輝く逆三角形の「特急シンボルマーク」です。

絶滅寸前「特急シンボルマーク」 60年続く「栄光の逆三角形」...の画像はこちら >>

381系特急形電車の車両前面で輝く逆三角形の「特急シンボルマーク」(2020年6月、伊原 薫撮影)。

 この特急シンボルマークは、1958(昭和33年)年にデビューした151系(登場当時は20系)特急形電車に初めて取り付けられました。当時、国鉄の特急列車はすべて蒸気機関車や電気機関車が牽引(けんいん)する客車列車でしたが、スピードアップのために東京~大阪間を走る「つばめ」や「はと」を電車化することが決定。国鉄初の特急形電車として、151系が開発されました。

「特急シンボルマーク」バリエーションも生まれる

 151系は、スピード感あふれる流線形とし、運転台を上部に設置するという、それまでにないデザインが採用されました。前面中央には、それまでの特急列車と同様、列車名を表記したヘッドマークが取り付けられています。

これに加えて、新時代の特急を象徴するにふさわしいシンボルマークを付けることを決定。デザインは一般公募で集まった約5000点の中から「シンプルでスピード感がある」として選ばれたものを国鉄のデザイナーが手直しして、あの形状となりました。

絶滅寸前「特急シンボルマーク」 60年続く「栄光の逆三角形」現在見られる列車は?

京都鉄道博物館に保存されているクハ489形。151系とほぼ同じスタイルだ(2016年3月、伊原 薫撮影)。

 ちなみに、特急形車両の側面に掲げられていた、国鉄(JNR)を表す「JNRマーク」もこの時に生まれました。「JNRマーク」は、一般公募で選ばれなかったもののうち、国鉄を象徴したデザインのものが原案となっています。特急シンボルマークと同様、長らく受け継がれてきましたが、1987(昭和62)年、国鉄がJRとなったのを機に取り外されました。

 特急シンボルマークは、151系を皮切りに161系や181系、481系など、それ以降に製造された特急形車両で広く採用されました。

 このうち、1967(昭和42)年に登場した581系電車は前面が貫通式とされたため、左右に分かれる外扉に合わせて、特急シンボルマークも2分割。この構造は、同じく貫通式とされた一部の485系などにも採用されました。また、貫通式で外扉がないキハ82系やキハ181系は、扉の幅に収まるよう少し小ぶりのサイズとなるなど、いくつかのバリエーションが見られます。とはいえ、基本デザインは変わらず、今日まで受け継がれてきました。

機関車や私鉄特急にも波及?した「特急シンボルマーク」

 また、この特急シンボルマークを模したといわれているのが、EF66形電気機関車のナンバープレート部分です。それまで一般的だった箱形の車体ではなく、流線形の優雅なデザインで登場したEF66形は、ナンバープレートも車体に直接取り付けるのではなく、流線形に合わせた形の土台と組み合わされました。この土台部分が、特急シンボルマークと同じく、逆三角形のデザインになっているのです。EF66形は、貨物列車の高速化を図るために開発されており、デザイン面でも「貨物の特急列車」を表現したかったのかもしれません。

絶滅寸前「特急シンボルマーク」 60年続く「栄光の逆三角形」現在見られる列車は?

貨物列車の先頭に立つEF66形電気機関車。前面中央のナンバープレート部分が逆三角形でデザインされている(1990年、伊藤真悟撮影)。

 そして、国鉄の特急シンボルマークは他の私鉄各社にも影響を与えています。1960(昭和35)年に登場した東武鉄道の1720系電車「デラックスロマンスカー」や、その翌年にデビューした名古屋鉄道(名鉄)の7000系電車は、いずれも前面にシンボルマークを掲出。両社はそれぞれ国鉄と激しい競争を繰り広げており、スピードや車内設備に加えて、こうしたマークなどにも対抗意識を燃やしたのかもしれません。

 特急形車両として製造された185系も、もちろん特急シンボルマークを付けています。185系は、特急「踊り子」としてだけでなく東海道本線の急行列車や普通列車でも使われる予定だったことから、開閉式の窓や転換クロスシートを採用するなど、その他の特急形車両に比べると見劣りするものでした。そんな185系にとって、特急シンボルマークはまさに「特急用車両である証」だと言えるでしょう。

「特急シンボルマーク」現在も見られる列車は?

 2000年代以降、国鉄形特急車両は徐々に引退が進んだほか、リニューアルなどの際に特急シンボルマークを撤去した車両も増えました。2017年、秋田車両センターに所属していた583系が営業運転を終了したことで、JR東日本で特急シンボルマークを装備しているのは185系だけとなりましたが、それもあとわずかということになります。

 一方、JR西日本が所有する381系電車には、現在も特急シンボルマークが残っています。こちらは現在、岡山駅と出雲市駅を結ぶ特急「やくも」として運行。通常のマークに加え、貫通扉を持つクモハ381形は他車と違って平面状のものが取り付けられているなど、バリエーションも見られます。

 ただし、こちらも行く末は決して明るくありません。JR西日本は、2022~23年度に381系を新型車両で置き換える計画としています。新型コロナウイルス感染症の影響で、この計画が変更される可能性はあるものの、381系に引退の時が近付いていることは間違いないでしょう。

 特急列車の前面に燦然と輝く特急シンボルマーク。60年以上にわたって親しまれてきたシンボルが見られなくなる日も、そう遠くありません。185系車両を見送る時には、このマークにも思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

編集部おすすめ