自衛隊は、国防や災害派遣、国際貢献などの任務にあたるために、必要に応じて装備を更新しています。とくに2020年は従来の艦艇とは異なる、まったく新しい艦が多い年でもありました。

防衛機密の塊といえる艦が相次いで登場

 2020年は新型コロナウイルスが猛威を振るったような未曽有の年でしたが、海上自衛隊にとっては、トピックになった新型艦が多数お目見えした年でもありました。そこで2020年に命名・進水式および就役式を迎えた、ルーキー艦を5つ集めてみました。

最新の音響測定艦「あき」進水(1月)

 年初の1月15日(水)に進水したのがひびき型音響測定艦の3番艦「あき」です。音響測定艦とは、名称のとおり「音響」を「測定」する「船」です。測定する音はおもに潜水艦のもので、これを集めてデータ化します。

2020年 注目の自衛隊ルーキー艦5選 新鋭イージス艦から新...の画像はこちら >>

1月15日に進水した音響測定艦「あき」(画像:海上自衛隊)。

 潜水艦は潜航状態の場合、姿を捉えることができないため、水上艦のように外観や艦番号などで、艦の識別を行うことはできません。そこで、日頃よりスクリュー音を収集し、それと艦種や艦名を紐づけたデータを蓄積することで、これに拾った音を照らし合わせて識別する、という手段をとります。船のスクリューは、同じタイプであっても造船所や加工機械の差によって、微妙に形状が異なります。その差が判別できれば、潜水艦であっても個艦の特定がある程度、可能です。

 ひびき型は従来、1990年代初頭に就役した「ひびき」「はりま」の2隻のみでした。しかし近年、中国の外洋進出が著しいことから、2017(平成29)年度予算で29年ぶりに3番艦が調達されることになり、「あき」が生まれたのです。

「あき」は今後、艤装や各種試験を実施したのち、年明け2021年3月の就役を予定しています。

新鋭イージス艦「まや」就役(3月)

 海上自衛隊待望の7隻目のイージス艦として、3月19日(金)に就役したのが護衛艦「まや」です。

「まや」の最大の特徴は、海上自衛隊の護衛艦で初めて「CEC(Cooperative Engagement Capability、共同交戦能力)」を付与されている点です。これは護衛艦や潜水艦、航空機などがネットワークで結ばれ、各々が捉えた敵情報を共有するというもので、たとえば護衛艦単体では捉えられない超長距離(水平線以遠)の目標情報も、味方のレーダーが捉えていればリアルタイムで目標として識別し、攻撃を可能とします。CECは、自勢力のみならず同盟国同士でもリンクできるため、日米間や日豪間などで情報共有できるようになります。

 なお「まや」は、まや型護衛艦の1番艦です。2番艦「はぐろ」もすでに進水済みで、海上公試(テスト)を終えたのち、年明け2021年3月に就役する予定です。

世界初・海自初となる潜水艦のお披露目

 2020年は日本の潜水艦史においても、ターニングポイントといえる年でした。

世界初の新技術潜水艦「おうりゅう」就役(3月)

 我が国初のみならず、世界で初めてリチウムイオン電池搭載の軍用潜水艦として3月5日(水)に就役したのが、潜水艦「おうりゅう」です。

「おうりゅう」は、そうりゅう型潜水艦の11番艦として建造されたものの、従来のそうりゅう型がディーゼルエンジンと鉛電池、スターリング機関(潜航中も発電機を動かせる非大気依存機関)だったのに対し、「おうりゅう」はディーゼルエンジン+リチウムイオン電池の組み合わせになっています。

 リチウムイオン電池は、鉛電池よりも大容量かつ大出力であるため、潜航時間や水中速力などが大幅に向上しているそうです。

 なお「おうりゅう」は、漢字では「凰龍」と書き、豊富な知識を持つ縁起の良い龍という意味とのことです。

新型潜水艦1番艦「たいげい」進水(10月)

 軍用潜水艦として世界で初めてリチウムイオン電池を搭載したのが前出の「おうりゅう」ならば、その拡大発展版として誕生したのが、10月14日(水)に進水した「たいげい」です

2020年 注目の自衛隊ルーキー艦5選 新鋭イージス艦から新艦種FFMまで 潜水艦史の転換点に

たいげい型潜水艦のネームシップとして10月14日に進水した「たいげい」(画像:海上自衛隊)。

「たいげい」のいちばんの特徴は、リチウムイオン電池の搭載を前提に船体などが最適な状態で設計されている点です。また日本の潜水艦として初めて設計段階から女性区画を設けるなど、そうりゅう型とは大幅に異なる構造を持つことから、艦名呼称が一新されました。

「たいげい」は2022年3月に就役する予定です。

既存の護衛艦とはまったく異なる革新艦のデビュー

 新潜水艦「たいげい」とともに艦名が何になるか大いに話題を呼んだのが、新艦種FFMのトップバッターとして命名・進水式を迎えた「くまの」です。

新艦種FFM 多用途フリゲート「くまの」進水(11月)

「くまの」は、従来の海上自衛隊護衛艦とは一線を画す、多用途性と省力化を図った革新的な艦として11月19日(木)に進水しました。

 同艦のいちばんの特徴は、護衛艦の任務であった対潜水艦戦闘や対空戦闘、対水上戦闘などに加えて、掃海艦艇が担っていた対機雷戦についても従事できる点です。そのため、艦種のひとつである「フリゲート」を意味するFFに、機雷の「Mine」や多機能性を意味する「Multi-purpose」の「M」を合わせ、海自初となる「FFM」という新艦種が用いられています。

 また従来の護衛艦と比べて、船体のコンパクト化や調達コストの抑制、省人化(乗員数90名)にも配慮した設計になっているのもポイントであり、計器類の配置など細かい点まで艦型(クラス)で統一することで、1隻を複数チームで輪番運航する、いわゆる「複数クルー制」の運用を可能にしています。

2020年 注目の自衛隊ルーキー艦5選 新鋭イージス艦から新艦種FFMまで 潜水艦史の転換点に

海上自衛隊で初めてFFM(多機能護衛艦)という分類記号が付与された護衛艦「くまの」(画像:海上自衛隊)。

 なお、海上幕僚監部広報室の話によると、現在、長崎県の三菱重工長崎造船所で建造中の1番艦よりも先行して進水したため、型名は1番艦の命名まで「3900トン型護衛艦」と呼称するといいます。

「くまの」は今後、艤装や各種試験を実施したのち、2022年3月に就役の予定です。

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 なお2021年も、海上自衛隊では各種艦艇の進水や就役を計画しています。

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