埼玉県にある航空自衛隊入間基地には唯一といえる飛行隊がいくつかあります。なかでもひときわ目立つ赤白のカラーリングが施された飛行機を運用するのが飛行点検隊です。

任務は何なのか、装備する飛行点検機とともに見てきました。

自衛隊では入間のみに所在「飛行点検隊」とは?

 現代の飛行場は、滑走路さえあれば離着陸できるわけではありません。夜間や荒天、濃霧などで視界が狭いなかでも航空機の安全が保たれるよう、離着陸などを支援する航空保安無線施設が飛行場内およびその周辺に配置されています。

 ということは、これら装置や施設が常時、完璧に作動していなければ安全運航は担保されません。そこで定期的な点検を行うために用いられるのが「飛行点検機」です。

 日本で飛行点検機を運用しているのは、国土交通省航空局と航空自衛隊です。前者は民間空港等を、後者は防衛省所管の自衛隊施設を担当しています。そこで飛行点検機および飛行点検任務がどのようなものなのか、航空自衛隊入間基地で取材しました。

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2020年に入間基地に配備されたばかりの最新鋭機、U-680A飛行点検機(2020年9月、柘植優介撮影)。

 そもそも、なぜ入間基地なのかというと、自衛隊の飛行点検機はこの基地にしかないからです。入間基地に所在する「飛行点検隊」が、自衛隊の飛行点検任務を一手に引き受けており、航空自衛隊のみならず陸上および海上自衛隊の航空基地なども実施しています。

 逆にいうと、陸上自衛隊や海上自衛隊には飛行点検を実施する部隊は存在せず、航空自衛隊の飛行点検隊が、全国の防衛省管理下にある43基地164施設の航空保安無線施設すべてを一手に担っているのです。

飛行点検隊に四半世紀ぶり投入! 空自の最新鋭機U-680A

 2020年、入間基地に所在する飛行点検隊に、最新鋭機が配備されました。その名は「U-680A」、飛行点検隊にとっては27年ぶりの新機種です。

 U-680Aは、アメリカの航空機メーカーであるテキストロン・アビエーションが開発したビジネスジェット機「セスナ・サイテーション・ラティテュード」を基に、飛行点検機として所用の改造を施した機体で、最終的に3機配備される予定です。

硫黄島や南鳥島まで!? 全国を飛び回る空自だけの「飛行点検隊」 超多忙なそのお仕事

運用開始からすでに55年近くのベテラン機YS-11FC(右奥)と最新鋭のU-680A(左手前)がエプロンで並ぶ(2020年9月、柘植優介撮影)。

 2020年9月現在、飛行点検隊にはこのほかにYS-11FCおよびU-125の2機種がありますが、前者はU-680Aに置き換えられて退役します。そのためYS-11FCの退役で、飛行点検隊はU-125とU-680Aの2機種体制に移行する予定です。

 YS-11FCが長らく使われてきた理由、それは短距離離着陸性能が優れていたからです。隊員の話によると、南鳥島航空基地などはU-125では滑走路が短くて離着陸できないため、YS-11FCがほぼ専任であったとのこと。

 そのため、新たな飛行点検機の選定では短距離離着陸性能も重視され、航続距離などにも優れたU-680Aが採用されたそうです。

 また機内の点検装置も自動化、コンパクト化が進んでおり、YS-11FCでは大きな箱状の装置をいくつも積んでいたのが、U-680Aではそれよりも格段に高性能になったにもかかわらず、スリムな点検装置1台とプリンターのみだったのが印象的でした。

 ちなみに細かなところでは、オペレーター席のモニター脇にUSBコンセントが用意され、収集した各種データをUSBメモリーなどに移せるようになっていたのも現代的と感じました。

飛行点検にも種類あり 超多忙な飛行点検隊

 飛行点検には種類があり、大きく「設置位置調査」「初度飛行点検」「定期飛行点検」「特別飛行点検」に分けられるとのこと。

・設置位置調査:飛行場などを新設するにあたり、設置位置が適しているかを調査するためのもので、まだ施設がない場所を飛ぶ。
・初度飛行点検:施設が完成し、運用開始に先立って行う最初の点検で、運用をスタートしても問題ないかチェックするもの。
・定期飛行点検;運用中の施設に対して定期的に行う点検。飛行点検隊が常時実施している飛行点検の大半がこれに該当する。
・特別飛行点検:飛行場などで滑走路の延伸や敷地の拡幅、施設の移設など大幅な変更が行われた場合や、施設に重大なトラブルやアクシデントなどが発生し、運用を一時中断したのち再開する際などに行う点検。

硫黄島や南鳥島まで!? 全国を飛び回る空自だけの「飛行点検隊」 超多忙なそのお仕事

入間基地を飛び立ち任務に向かうU-125飛行点検機(2020年9月、柘植優介撮影)。

 いずれも航空機が安全運航するにあたり必要な任務のため、飛行点検隊は忙しく日本各地を飛び回っています。

 実際、取材当日も、せわしなく3種類の機体すべてが入間基地を発着しており、所有機がエプロンにそろうのは早朝を除くとほとんどありませんでした。

 3自衛隊で唯一の任務を担っている飛行点検隊、この部隊はまさしく「縁の下の力持ち」的存在といえるでしょう。

【動画】間近で見ること少ない飛行点検機を中までじっくり
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