街中を走る自衛隊のトラックでは、荷台に隊員が乗っていることがあります。しかし民間のトラックは荷台に人が乗った状態での公道走行は、原則禁止のハズ。
災害派遣や訓練などで、自衛隊車両が一般道や高速道路を走っているのを見たことがある方は多いでしょう。自衛隊のトラックでは、荷台に隊員が乗っているのもよく見かけます。
しかし民間のトラックでは、原則として、荷台に人が乗った状態で公道を走ることは禁止されています。「荷物を看守する場合」や「警察署の許可を得た場合」については、走行時に荷台へ人を乗せることもできますが、これはあくまで例外です。
では、なぜ自衛隊のトラックだと、荷台に人が乗ったまま公道走行が許されるのでしょうか。それは自衛隊の場合、「自衛隊法」という専用の法律で特例が認められているからです。
自衛隊の中央観閲式で、荷台に自衛官を乗せて走る3 1/2tトラック。自衛隊のトラックであれば、この状態で公道を走ることが可能(柘植優介撮影)。
自衛隊法第114条に「道路運送車両法(昭和二十六年法律第百八十五号)の規定は、自衛隊の使用する自動車のうち、政令で定めるものについては、適用しない」と記されています。これにより、自衛隊を指揮監督する立場にある防衛大臣が定めた、防衛省・自衛隊独自の保安基準や整備・検査をクリアしていれば、一般車と違う構造であっても公道走行が許されるのです。
これに基づき、自衛隊はトラックの荷台に人を乗せたり、独自の規格で付属品を取り付けたりしています。
とはいえ、自衛隊法で既存の法律が適用されないからといって、自衛隊のトラックに「定員」が設定されていないわけではありません。
前述のとおり、自衛隊車両は防衛大臣が別途定めた規定に適合することが求められているため、それに則って設計・生産されています。よって自衛隊トラックの荷台も乗せられる人数が決まっています。

3 1/2tトラックの荷台には、人が乗るための折り畳みいす(木製サイドラック)が備えられているほか、乗り降りのためのはしご形ステップが後部のあおり部分に設けられている(柘植優介撮影)。
たとえば、陸上自衛隊で最もポピュラーな6輪タイプのトラックである3 1/2tトラックの場合、「荷台の乗車定員は,3 1/2tトラックは22名、3 1/2tトラック(長)にあっては24名とし、乗員用の折り畳みいすとして兼用できる構造の木製サイドラックを設けるものとする。ただし、3 1/2tトラックの折り畳みいす部及び3 1/2tトラック(長)のサイドラックは、前後2分割したものを設けるものとする。なお、いすとして使用する場合には、ロックできるものとする」(原文ママ)と規定されています。
ちなみに、文中の「3 1/2tトラック(長)」とは、荷台の長い、いわゆるロングボディ車のことです。
また荷台以外に、操縦室(運転席)は定員として操縦手と助手の2名が規定されているため、3 1/2tトラック1台では最大24名、3 1/2tトラック(長)であれば26名が乗れます。
同様の規定は他の自衛隊トラックにもあり、小型の1 1/2トラックであれば、操縦室の定員3名のほかに荷台の定員として14名が、より大型の7tトラックの場合は、操縦室の定員は3名、荷台の定員は32名と決められています。
そのため、7tトラックならば、ちょっとした大型バス並みの最大35名が一度に乗車できるようになっているのです。
市販トラックでも荷台に人を乗せられる?荷台の乗車定員は、様々な自衛隊トラックで定められています。
また自衛隊には、専用構造ではない市販の大型トラックを、ボディカラーを変えるなどして調達している「業務トラック」と呼ばれるものもあります。これについても、一般では荷台に人を乗せることができないため、椅子など設けられていませんが、自衛隊が使うのであれば、道路運送車両法の保安基準が適用されないため、あえて折り畳みいすを増設しているものもあります。

3 1/2ダンプも人を乗せることができるようになっている(柘植優介撮影)。
ちなみに3 1/2tトラックのなかには、荷台にいる人員のために、いすの下に暖房(ヒータ)が設置されているものもあります。自衛隊の仕様書では、設置場所について左側の荷台下、燃料は軽油と明記されています。
これは正式名称「3 1/2tトラック(暖房装置付き)」といいますが、いわゆる寒冷地仕様のため、配備先はおもに北海道や東北地方、北陸地方などに限られています。そのため、場所によってはなかなかお目にかかれない“レア装備”といえるかもしれません。