国鉄の分割民営化にあたり、政権与党が「ブルートレインなど長距離列車もなくなりません」などとする意見広告を出しましたが、現在、ブルートレインは走っていません。なぜ話が違うことになったのでしょうか。
1980年代、国鉄がJRへ分割民営化される流れになると、当時小学生だった私(恵 知仁:鉄道ライター)のまわりでも、大人が「車内改札が、JR会社が変わるごとに来るようになるかも」と言っていたのを覚えています(実際にはそうなりませんでしたが)。
変化を前に、世間には漠然とした不安感も漂うなか、国鉄の分割民営化を推進した与党の自民党が、それに関する意見広告を新聞に出しました。「国鉄が…あなたの鉄道になります。」という見出しの、そうした国鉄の分割民営化に対する不安の緩和などを狙ったと思われるものです。
2009年まで運転されていたブルートレイン「富士」(画像:写真AC)。
そこには「ブルートレインなど長距離列車もなくなりません」と記載されていました。
しかし、1987(昭和62)年4月1日の国鉄分割民営化から約四半世紀、青い車体で夜を駆けた「ブルートレイン」は現在、1本も走っていません。なぜそうなってしまったのでしょうか。
「列車の運行が細切れになるのでは?」という不安特に当時の政権与党の肩を持つわけではありませんが、主たる要因は「国鉄の分割民営化」ではなく、「時代にそぐわなくなった」ことでしょう。
国鉄末期、新幹線は東京~博多間、上野~盛岡・新潟間しかありませんでしたが、現在は北海道・秋田・山形・北陸・九州新幹線も開業。また当時に比べ、航空機もLCCの登場などでだいぶ身近になりました。高速道路網と夜行バスの発達も大きなものがあります。
より速かったり安かったりする他の移動手段の発達などにより、「ブルートレイン」は需要が低迷。
意見広告にあった「ブルートレインなど長距離列車もなくなりません」というのは、当時、国鉄の分割によって「列車の運行が細切れになるのでは?」「長距離列車自体がなくなるのでは?」といった不安があったなか、「分割してもそうならない」ということの主張であり、社会の状況自体が変化した場合は別の話、といったところかもしれません。

いまなお残る寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」(恵 知仁撮影)。
現在ではほぼ姿を消した「夜行列車」も同様に、分割とは関係なく“使命”の終了でしょう。各JR管内のみで運行されていた夜行列車も多数ありましたが、それも姿を消しています。
「ブルートレイン」ではありませんが、その流れを受け継ぎ、いまなお走っている最後の寝台特急が、JR3社ないし4社をまたいで運行されている「サンライズ瀬戸・出雲」であること。国鉄末期にこれを想像できた人は、少なかったかもしれません。