宇宙船の乗り心地はどんなものなのか。これまでスペースシャトルとソユーズに乗った経験があり、間もなく「クルードラゴン」で3度目の宇宙飛行に飛び立つ日本人宇宙飛行士に「乗りもの」としての宇宙船を語ってもらいました。

宇宙船と地上の乗り物の違いは?

 自動車や鉄道などでは聞いたことある「乗り比べ」。宇宙船で行ったことある人は世界中でもごくわずかでしょう。そもそも宇宙船の「乗り心地」、どのようなものなのでしょうか。これまでスペースシャトルとソユーズに乗った経験があり、間もなくクルードラゴンで3度目の宇宙飛行に飛び立つ星出彰彦(ほしで あきひこ)宇宙飛行士によると、「機種によって乗り心地も大きく違う」といいます。

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スペースシャトルの船内服を着た星出彰彦宇宙飛行士(画像:JAXA)。

 星出宇宙飛行士は1968(昭和43)年生まれ。NASDA(現JAXA)が1998(平成10)年から翌1999(平成11)年に実施した4度目の日本人宇宙飛行士の選抜で、864名の中から古川聡さん、山崎直子さん(選抜時の姓:角野)とともに宇宙飛行士候補者となりました。その後訓練を重ね、2001(平成13)年1月に宇宙飛行士として認定されています。

 これまで宇宙飛行の経験は2回。2008(平成10)年にスペースシャトル、2012(平成14)年にはロシアのソユーズに乗っています。そして順調に準備が進めば、2021年4月23日に3度目となる宇宙飛行に出発します。今回、乗るのはスペースX社の「クルードラゴン」で、これに搭乗する日本人は野口聡一宇宙飛行士に続いて2人目となります。

 一度の宇宙飛行でもハードルが高いのに3回も。しかもすべて違う宇宙船に乗るというのはなかなかありません。打ち上げを前にインタビューする機会があったので、これまでに乗った宇宙船について話を聞きました。

――星出さんはこれまでスペースシャトルとソユーズで、そして間もなく「クルードラゴン」で宇宙に行かれることになっています。地上の鉄道や自動車と比べて、宇宙船というのはどんな特徴があるのでしょうか?

 まず地上の乗りものと比べると、とても複雑で多くの人が携わっているというのがありますね。実際の運用をするときに、たとえばクルマだとドライバーが一人いれば運転できますが、宇宙船の場合はそうはいかず、管制官が必要なほか、世界中の中継局や人工衛星の中継なども使います。そういった運用システムまで含めると非常に多くの方が携わって飛んでいる、というのが違いの一つです。

宇宙船の乗り心地は?

――自分ひとりで乗り心地を制御できるものではない、ということでしょうか?

 ええ。そもそも服からして、打ち上げ、帰還、あるいは宇宙ステーションへのドッキングや分離など、危険な動作をするところでは、与圧服を着ています(注:与圧服は宇宙服の一種で、打ち上げ時、ドッキング・分離時、帰還時に宇宙船内で着るもの)。

 これにより、たとえば空気が漏れる、船内の圧力が下がるというような万一の際でも与圧服が身を守ってくれる設計になっています。これを着込まなければいけないというのも違いになります。

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スペースシャトル。
両脇の白く細長い部分が固体ロケットブースター(画像:NASA)。

――揺れや音といった感覚的な面はどうでしょうか?

 スペースシャトルとソユーズで比べると、シャトルは横揺れがけっこうあります。一方、ソユーズはスーっと上がる感じです。両者の違いは、脇に固体ロケットブースター(離陸を補助する火薬式ロケット)が付いているか否かです。もちろん加速度の揺れは常にあるのですが、乗り心地への影響はブースターの方がはるかに大きいです。

――固体ロケットブースター! なるほど、そこが違いになるのですか?

 液体ロケットエンジンの推力は、打ち上がるのと反対方向にまっすぐ働くのですが、固体ロケットエンジンは、中で横方向に燃えることがあります。詰められた火薬の燃え方にバラつきがあるため、横方向の「ガタガタガタガタッ」という揺れが強いのです。スペースシャトルは、燃焼が終わって固体ロケットが離れるまで揺れますが、離れた途端にスーっと揺れがなくなります。

 我々はよく「大型トラックで砂利道を猛スピードで走る感じくらい」と言っていますが、目の前も揺れていますし、たとえばスイッチを押そうとしても間違えて隣のスイッチを押しかねないほどです。

――実感のこもったお答えですね。どのくらい揺れるのか、事前のシミュレーションで体験できるものなのでしょうか?

 音とか若干の揺れは事前にシミュレーションできますが、あそこまでの揺れは模擬していなかったですね。私の打ち上げは比較的揺れが少なかったと言われているので、もっと凄い回があったのかもしれません。

操縦している感じがあるのはスペースシャトル

――クルマにはハンドル、電車は加減速(マスコン)のような運転動作がありますが、シャトル、ソユーズ、ドラゴンで、最も操作している感じがするのはどれでしょうか?

 それはスペースシャトルだと思いますね。飛行機のような操縦桿(かん)が付いているので、特に着陸の時は滑走路に降りるという操作感は一番あるんじゃないでしょうか。

 基本的に、打ち上げ時は“乗っているだけ”なんですよ。これはどの機体もそうです。地上で打ち上げをして、コンピューターが計算をしながら目的とする軌道まで飛んでいくので、飛行士は何かあったとき、例えば緊急脱出をするとか、緊急着陸地に降りる、といった際にはそういった作業にかかることはありますが、何もなければずっと見ているだけです。

 ほかに操作するのは宇宙ステーションとのドッキングの時で、スペースシャトルは手動でやっていました。ソユーズは自動運転が基本ですが、場合によっては手動に切り替えて行うことが可能です。「クルードラゴン」も基本的には自動ですね。若干手動で行えるところもありますが、ソユーズほどではないです。

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ロシアのソユーズ宇宙船(画像:NASA)。

――着陸はどのような感じなのでしょう。ショックの違いもありますよね?

 スペースシャトルは操縦桿を握って滑走路に降りることができます。

これ、実は自動でできるんですが、パイロット上がりの宇宙飛行士は自分の腕の見せ所なので、皆さん必ず手動で着陸していました。

 一方、ソユーズは基本的にみんな自動ですね。万一の場合には若干の手動操作がありますが、パラシュートが開いて降りてくるため、風任せな部分があります。着陸のショックは間違いなくソユーズの方が大きいです!

 一方、シャトルはタイヤ付きのグライダーとして滑走路に降りるので、ソフトランディングです。パイロットの腕前で、ハードな着陸になるかソフトな着陸になるかが決まってきます。ソユーズの場合は、古川飛行士がうまいこと言っていまして、「クルマで30km/hくらいのスピードでバックして壁にガンと当たるような、そういう衝撃でした」と。

遺書を用意ってホント?

――帰還もなかなか大変なんですね。最後にお伺いしたいのですが、宇宙飛行士の方は、飛行前に万一に備えて遺書を書くと聞いているのですが、これは本当なのでしょうか?

 はい。これは人によると思いますが、遺書とまではいかないまでも、何かあったときにどういう対応をして欲しいとか、どういう資産を持っているとか、それはリストアップしておいて、家族が困らないようにするための準備はしています。

――なかなか答えづらい内容ですが、ありがとうございます。ミッションの成功をお祈りしています。

 ありがとうございました。

引き続き応援よろしくお願いします。

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クルードラゴン(画像:SpaceX/NASA)。

※ ※ ※

 宇宙船の乗り心地は、実際に乗った人でないとわからない話ばかりでした。スペースシャトルは車輪で陸上に、ソユーズはパラシュートで陸上に、「クルードラゴン」はパラシュートで海上に降りるので、星出飛行士は3回の飛行すべてにおいて各々異なる着陸方法を体験することになります。帰還後に機会があれば、改めて感想を聞いてみたいと考えます。

 2021年は、旧ソ連の宇宙飛行士ガガーリンによる人類初の宇宙飛行からちょうど60年、スペースシャトルの初飛行から40年という節目の年です。ガガーリンの飛行時間は108分間でしたが、星出飛行士のISS(国際宇宙ステーション)滞在はおよそ半年間の計画です。宇宙に滞在可能な時間は60年の間におよそ2400倍になったといえるでしょう。

 現在、月に有人宇宙ステーションをめぐらせ月面や火星探査の基地にしようという月ゲートウェイ計画も立ち上がっています。ここを目指して2021年秋から新たな宇宙飛行士の募集も始まる予定です。実際に宇宙船に乗ってみたい方はチャンスといえるかもしれません。

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