鉄道の車内販売は国鉄時代から、サービスの一環として多くの特急・急行列車で行われてきました。しかし現代は駅ナカ商業施設などの進展により、衰退の一途をたどります。

復活させる方法はないのか、商品そのものに焦点を当て考察します。

今や車内販売は一部の新幹線や特急のみ

 鉄道の車内販売は、国鉄時代から特急・急行列車の、また民鉄でも特急列車の車内サービスの一端でした。販売員が使うワゴン車にはビールなどの酒類やジュースなどの清涼飲料水以外に、駅弁やおつまみ、地域のお土産品なども搭載されていました。

 しかし、今や車内販売も駅弁と同様に衰退の一途をたどっています。その要因としてしばしば挙げられてきたのが、高速道路や空港整備の進展による輸送モードの多様化、あるいはファーストフード店の普及といったこと。最近では、各鉄道事業者が駅構内で推進する「駅ナカ」事業もその一因といわれています。

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新幹線での車内販売のイメージ(草町義和撮影)。

 駅構内にコンビニなどが普及したため、わざわざ車内販売に頼らなくても、列車に乗車する前に弁当や飲み物などを購入する人が多くなったことも事実です。車内販売の代表的な商品としてホットコーヒーが挙げられますが、現在はコンビニでも100円でレギュラーコーヒーが飲める時代。列車内で300円程度を出費してまでコーヒーを飲む必要性が薄くなっているのです。

 2021年現在も車内販売が実施されている列車は、新幹線ならば速達型の「のぞみ」「ひかり」や「はやぶさ」「みずほ」「さくら」「はくたか」など、在来線はJR九州のD&S列車(観光列車)各種、私鉄は近鉄の特急「しまかぜ」、東武の特急「スペーシア」などに限られます(新型コロナウイルスの影響で変更あり)。

 とりわけ速達型の新幹線は、対抗する輸送モードと比較して競争上の優位性があるため、車内販売の需要も旺盛な傾向があります。

またD&S列車や「しまかぜ」などは観光列車であり、その列車に乗車すること自体が目的であるため、当然ながら車内販売を含めた供食の需要も多くなります。観光列車の場合、その列車に関係したグッズが多く販売されることもあります。

クルーズトレインのノウハウを活かせないか

 では、このまま車内販売は衰退するのでしょうか。駅ナカ事業の推進による駅構内コンビニの増加は、確かに車内販売を衰退させる要因になったものの、筆者(堀内重人:運輸評論家)は車内販売の商品について検証される事例が少ないことが気になります。

 筆者は車内販売が衰退した要因として、「コンビニの商品とバッティングしている」ということを問題視しています。つまり、コンビニで販売されている商品と同じ種類のものが列車内で販売されていれば、消費者はより低価格の方を購入するでしょう。

列車の車内販売衰退はコンビニのせい? 商品がバッティング 差別化のカギも列車に

JR東日本「トランスイート四季島」のラウンジ「こもれび」(恵 知仁撮影)。

 駅弁に関しては、容器や包装紙こそコンビニの弁当と差別化されているものの、東京駅構内で全国の駅弁を取り扱う店舗「祭」や、主要駅構内の「淡路屋」など駅弁事業者の売店があるため、列車内で購入する必要性も薄れているのです。

 それでは、車内販売を復活させる方法はないのでしょうか。答えは「ある」と筆者は考えます。そしてそのカギを昨今の豪華寝台列車、いわゆる「クルーズトレイン」に求めます。

「クルーズトレインは価格が高すぎる」という意見が多数あることは承知していますが、クルーズトレインを運行するには、寝台車・食堂車・車内販売などのサービスが揃わないと成立しません。

それゆえ、クルーズトレインで得たノウハウは車内販売復活の参考になり、そしてそれらをフィードバックさせる必要があると筆者は感じています。

車内でしか味わえないという「ブランド化」

 クルーズトレインは「地産地消」が売りです。地元産の食材を使用されたりするだけでなく、季節の旬の食材を使用したり、車内や見学地などでも、地元の銘菓が提供されたりします。そしてラウンジ車でもオリジナルのカクテルが提供されるなど、コンビニなどで販売されている商品とは、完全に差別化されているのです。

 例えばホットコーヒーに限っても、「トランスイート四季島」で提供されるのは完全にオリジナルブランドです。つまりこのホットコーヒーには「トランスイート四季島」というブランドが付いて来るわけです。「トワイライトエクスプレス瑞風」でも、地元産の銘菓や抹茶が振る舞われます。このように「ブランドを売る」ことも、重要な差別化といえるでしょう。

 抹茶やオリジナルカクテルであれば、缶飲料として車内販売で提供することが可能です。抹茶を販売しているコンビニはほとんどないので、地元産の和菓子や銘菓をセットにして、車内で販売する方法は模索できそうです。弁当ならば、クルーズトレインの食堂車で提供された料理のうち、人気があった料理の一部を季節ごとに変えて提供するなどの方法も考えられます。ただし、購入層が一般利用客であることから、価格を吊り上げすぎては本末転倒でしょう。

 クルーズトレインには、車内販売を復活させるノウハウが詰まっており、それらが一般の列車の車内販売にフィードバックされてもよいのではないでしょうか。キーワードは「ブランド化」「差別化」「オリジナル商品」であると筆者は考えます。

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