静岡県熱海市で発生した豪雨の影響による大規模な土砂崩落により、同市周辺の道路が寸断されています。海沿いの主要道路、熱海ビーチラインと国道135号で、復旧作業の難しさが見えてきました。
長雨で、しかも豪雨。静岡県熱海市伊豆山で2021年7月3日(土)に発生した大規模な土石流により、多くの人命が失われています。また、激しい雨の影響で主要な道路は寸断されたままです。土石流とは別に、東名高速ではのり面の崩落も発生しました。救出作業と並行し、幹線道路の復旧作業は7月8日(木)現在も、降り続く雨と戦いながら行われています。
国道135号と熱海ビーチラインが分岐する湯河原温泉入口交差点。ビーチラインは地元の人のみ通れるように。2021年7月8日(中島みなみ撮影)。
7月8日朝8時、国道135号「湯河原温泉入口」交差点には、信号待ちの車両に警察官が話しかける様子が見られました。
「9時には通行できる予定だけど、地元の人だけだから。(通行できるか)どういう判断になるのか、我々には何とも言えない」
開放を待つ車両の中は、緊急車両や工事車両に混じって、地元ではないが是が非でも通りたい、という軽自動車も待っていました。
この交差点は神奈川県湯河原町にあり、静岡県側に交差点を渡ると、有料道路の熱海ビーチラインが分岐します。6日ぶりの再開は、利用を地元ドライバーに限定。8日9時から10日17時までは、通行の際、地元に住んでいることがわかる証明書などが必要です。
この道路の運営責任者が、条件付きとなった背景を説明してくれました。
「ビーチラインの通行止めは土石流が直接原因ではありません。発生前日の2日に規定値を超える豪雨で通行止めを実施し、県から通行できないかという打診があったのは6日だったと思います。土石を撤去するとともに、警備員の配置などである程度の安全が確保できるようになったため、地元の人のために、まず当社ができることを、実行させていただきました」。
ほとんどの道路は国や地方自治体が所有・管理していますが、ここはホテルや観光施設を所有運営する「グランビスタ ホテル&リゾート」(東京都千代田区)が道路を証券化して、管理運営する私設道路です。企業の立場として、どんな利用者でも無料化して開放するというわけにはいきませんでした。
ビーチライン&国道135号 復旧作業の難しさ地元の人のみ通行可能となった熱海ビーチラインですが、前出の責任者は、「仮復旧のため土砂崩れ対策が完全ではありません。依然として地盤の保水量が多いです。そのため通行止めの基準降雨量は通常の半分に設定しています」と話します。
詳細は後述しますが、生活の基盤としての役割をビーチラインは期待されています。しかし、通常時は観光道路のため原付バイクが走ることができないなど課題があります。8日17時現在、10日以降のことは何も決まっていません。復旧対策にあたる静岡県の難波喬司副知事は、次のように語りました。
「3日間限定で通すことにしているが、この後も継続して通行いただけるように調整中。赤羽国土交通大臣にお願いした。原付バイクが通行できるようにという要望が熱海市からあったが、警察も含めて規制について整理いただけると思っている」

赤羽国交相(左手前)も現地入りし、静岡県・難波副知事(右奥)、齊藤熱海市長(左中)とも意見交換。行方不明者の発見と復旧に全力を尽くすことを約束した。2021年7月8日(中島みなみ撮影)。
●国道135号、想定以上に復旧に時間が必要
土砂が路面を埋め尽くしただけであれば、通行止めは短い期間で終わらせることも可能です。しかし、人為的に積み上げられた盛土が流れ出た今回、復旧には想定以上に時間がかかることが明らかになりました。
「路面にある土砂の撤去は終わらせることができるが、135号の土砂を取り去ると、土石流が他から流れてくる可能性がある」(県道路保全課)
伊豆山の土石流は、逢瀬川に沿って急斜面を約2kmにわたって滑り落ち、家屋を押し流し、国道135号や熱海ビーチラインを超えて海まで到達しました。土石流の発生は大量の雨に加えて、山の高いところに運ばれていた盛土が被害を拡大させたことが推測されています。静岡県は衛星を使った測量の差分をとって、盛土の量を数字で把握し、安全な復旧作業に役立てようとしています。
東名上り線は「今週中」を目標に「国道より上(斜面の上部)に車両が入って、土石を撤去しないと、路上の土砂を取ることは簡単だが上から落ちてくるかもしれない。今のところある程度、大規模崩壊は抑えられそうだが、大量に雨が降るとどうなるかわからない」。静岡県道路保全課は、作業の難しさをこう説明します。
復旧作業は、再び大規模崩落が発生するかもしれないという疑心暗鬼の中で進められているのです。
「135号の一般開放はかなり先になる可能性がある。そのためビーチラインを一般開放していただく。有料開放でなく無料開放していただくことが必要だが、有料道路の管理者と調整している」(静岡県 難波副知事)

東名高速101.5kmポスト付近の崩落現場。長さ30mにわたって路上に土が押し出された(画像:NEXCO中日本)。
東名高速でも3日、崩落が起きました。発生場所は上り線の裾野IC~沼津IC間、101.5kmポスト付近で、約30mにわたって、のり面2段分が崩れている状況です。
NEXCO中日本は復旧の進み方を知らせる自社のツイッターで、のり面がさらに崩れることを防ぐ仮柵を設置する作業までの写真を掲載しましたが、開通の具体的な目途は示していません。
「今週末を目途に作業は行っているが、雨も降り続き、発表できることは何もない状況。長距離輸送車両の新東名への切り換えが進んでいることや、発生場所からは自動車道(伊豆縦貫道)を使って、新東名の長泉沼津ICへ向かえることもあり、大きな渋滞は起きていないようで安堵している。できる限り復旧を急ぎたい」(同社関係者)
今回、被災した熱海などは、国内有数の温泉地でもあります。感染対策の自粛に重なる被害。切実に安全安心な通行を取り戻すことが求められています。