ロシアの国営メーカーが新型軽戦闘機「LTSチェックメイト」を発表しました。そのプロモーション動画は、「売り込み先」が清々しいほどよくわかるものです。

新型戦闘機の性能と、それを欲する国々の事情を探ります。

スホーイの新ステルス戦闘機「チェックメイト」

 2021年7月20日(火)、ロシアの国営航空機メーカーユナイテッド・エアクラフト・コーポレーション(UAC/統一航空機製造)が、国際航空宇宙総合イベント「MAKS2021」(7月21~25日、モスクワ・ジューコフスキーラメンスコエ空港にて)、新型軽戦闘機「LTSチェックメイト」を発表しました。

 UACの傘下企業のひとつであるスホーイが開発を担当している「LTSチェックメイト」は、高いステルス性能を備えた単発戦闘機です。ロシア国防省系メディアのズヴェズダはUACのユーリ・スリウサール氏の話として、「軽量な機体に強力なエンジンを組み合わせたことにより、兵装搭載量は同じ単発戦闘機であるF-16と同程度の7tに達し、STOL(短距離離着陸)性能を持つ戦闘機」であると報じています。

露骨すぎない!? ロシア新戦闘機のプロモ動画で名指しされた国...の画像はこちら >>

発表された「LTSチェックメイト」(UACの動画より)。

 UACの親会社であるロシア国営コングロマリットのロステックは、「LTSチェックメイト」発表1週間前の7月13日(火)に同機のプロモーション動画を発表していますが、この動画から、同機の今後のセールスを占うことができます。

というのも、ロステックがどこに「LTSチェックメイト」を売りたいと考えているのか、あまりにもわかりやすい内容だからです。

 動画は、UAE(アラブ首長国連邦)のドバイ、インドのデリー、ベトナムのハノイ、アルゼンチンのアンデス山脈地帯から、新型戦闘機が発表されることを知ったそれぞれの国の空軍パイロットがロシアへ駆けつけ、その機体の前に集結するというものです。このストレートさに筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は、ある種の好感を覚えてしまいました。

新戦闘機発表で「ロシアへパイロットが駆けつけた国々」それぞれの事情

 UAEは2017(平成29)年2月にロシアとの間で、高いステルス性能を持つ軽量級の第5世代戦闘機を共同開発することで合意していましたが、アメリカのトランプ政権(当時)が2021年1月にF-35A「ライトニングII」戦闘機50機をUAEに売却することを承認。一から開発することなく高いステルス性を有する第5世代戦闘機を入手できる目途がついたため、UAEにとってロシアと共同開発する必要性は低下していました。

 しかしトランプ政権の後を受けたバイデン政権は、中国からも無人航空機「翼龍」などの兵器を導入しているUAEへF-35Aを売却することに慎重な姿勢を示したことから、ロステックはこの間隙を突いて、「LTSチェックメイト」をUAEに売りたいと考えているのでしょう。

露骨すぎない!? ロシア新戦闘機のプロモ動画で名指しされた国とは 各国が抱える事情

航空ショー「MAKS2021」の様子(画像:UAC)。

 インドは2021年7月の時点でも老朽化したMIG-21戦闘機を100機近く保有しています。これは旧ソ連が開発し、インドでライセンス生産されたものです。インド空軍はMiG-21の後継として外国製の単発戦闘機を導入しようと計画しており、アメリカのF-16戦闘機がベースのF-21と、スウェーデンのJAS39E/F「グリペン」戦闘機が候補に挙がっています。ロシアは、F-21やJAS39E/Fよりも設計思想の新しい「LTSチェックメイト」で、MiG-21の後継機市場に殴り込みをかけたいのかもしれません。

 ベトナムは2015(平成27)年にMiG-21を全機退役させており、その後継機の導入を模索しています。

現状、その後継にはF-16の最新仕様であるF-16Vなどの名前が上がっているものの、アメリカ製のF-16にポストMiG-21の座を奪われるわけにはいかないロシアは、「LTSチェックメイト」をMiG-21後継機商戦の切り札と位置づけていると思われます。

もう1か国「アルゼンチン」は経済よろしくないけれど…

 アルゼンチンはかつて、南米でも屈指の航空戦力を保有しており、1982(昭和57)年に発生したフォークランド紛争では、アメリカから導入したA-4「スカイホーク」攻撃機、イスラエルから導入した「ダガー」戦闘機、フランスから導入した「シュペル・エタンダール」攻撃機などが、対戦相手のイギリス軍に少なからぬ損害を与えました。

 実のところフォークランド紛争の時点でアルゼンチンの税制は破綻状態にあり、1980年代末には経済そのものが崩壊状態に陥っていました。このためアルゼンチン空軍と海軍は、その後「ダガー」や「シュペル・エタンダール」の後継機を導入することができず、2021年7月の時点でアルゼンチンが保有しているジェットエンジン搭載の作戦機は、空軍のA-4に近代化改修を施したA-4AR攻撃機23機と、国産の「パンパ3」軽攻撃機6機にまで減少しています。

 ドン底の状況からは脱却しつつあるものの、諸外国に対して2001(平成13)年に同国は債務返済が不可能だと宣言。そのことが尾を引いているのか、旧西側諸国のメーカーは戦闘機の売り込みに消極的な姿勢を示しています。

一方、中南米での影響力を強化したいと考えているロシアと中国は、過去にも何度かアルゼンチンに戦闘機の売り込みを行ってきました。

 一部の報道によれば、「LTSチェックメイト」の価格は中国がアルゼンチンに提案したJF-17戦闘機と同程度(25~30億円)だといいます。アルゼンチン空軍はこれまで、ロシア(旧ソ連)製戦闘機を導入したことはありませんが、アルゼンチンが購入費用を用意することができ、かつ「LTSチェックメイト」が第5世代戦闘機の「価格破壊」を実現できれば、同機が同国空軍初のロシア製戦闘機になる可能性も皆無ではありません。ゆえにロステックは「LTSチェックメイト」のプロモーション動画のなかで、アルゼンチンを売りたい国の一つに挙げたものと思われます。