「途中下車」は、鉄道旅行における大きな魅力のひとつです。しかし昔に比べ、きっぷのルール変更や長時間停車の減少などにより、やりづらくなっている面もあります。

そうしたなかいま、「新しい途中下車の旅」が増えているようです。

途中下車は「出会い」

 鉄道旅行の魅力、そのひとつに「途中下車」が挙げられると思います。そんな題名の長寿テレビ番組があるように。

 気軽に寄り道しながら、移動していける鉄道。クルマのほうが自由度は高いですが、乗り換えや発車待ちなどの都合で図らずも途中下車し、歩いた街で、味のある建物を見つけたり、地元の人からそこで採れたミカンをもらったりなど(経験談)、偶然の発見や出会いもあります。

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駅前食堂が味わい深いJR長崎本線の肥前浜駅。奥に見えるのが駅(2021年7月、恵 知仁撮影)。

 観光地でもなんでもない街を散策しながら、この乗り換えがなかったら来ることもなかっただろなぁ……などとしみじみすると、また旅情が湧き出します。「適度な不自由さ」がまた、旅を面白くしてくれるのです。

 ただ近年は、JRの規則変更(東京近郊区間の拡大)で途中下車できなくなったり、途中駅での比較的長時間になる停車が減ったりなど、昔より「途中下車」を楽しみづらくなっている面があるかもしれません。

 しかし近年、「新しい途中下車の旅」も生まれています。

列車行き違いと追越しを待つあいだ「新しい途中下車」してきました

 JR長崎本線の単線区間にある肥前浜駅(佐賀県鹿島市)。

 JR九州の観光特急「36ぷらす3」は、博多発長崎行きのコースで同駅に約50分停車。そこで対向列車と行き違いをし、特急「かもめ」と普通列車に追い越されるあいだ、乗客は「途中下車」を楽しめるようにされています。

 肥前浜駅周辺は港町・宿場町として栄えてきた土地だそうで、経済力と豊富な地下水、米の調達のしやすさから、酒造りが盛んに。町家や蔵が現在も残り、「重要伝統的建造物群保存地区」に指定されています。

変わる「途中下車の旅」 より手軽になった鉄道旅行の醍醐味

肥前浜駅近くの古い町並みをガイド付きで散策(2021年7月、恵 知仁撮影)。

 酒造りは現在まで続き、地元では「鹿島酒蔵ツーリズム」を推進。富久千代酒造の「鍋島」などがここ、肥前浜です。

 観光特急「36ぷらす3」ではこの駅で、地元ガイド付きの散策、日本酒の利き酒、特産品の販売といった「おもてなし」を楽しむことが可能。「HAMA BAR」という日本酒を楽しめる施設も駅にあります。

 約50分になる肥前浜駅での長時間停車。2021年7月、実際に「36ぷらす3」で体験してみましたが、散策に行くも良し、日本酒を楽しむも良し。自由でいて濃密な「途中下車」を楽しめるようにされていました。

いま増えている「新しい途中下車の旅」 めでたい出会いも

 観光列車には、車内で飲食などを楽しみつつ特に寄り道はせず走るタイプも多く見られますが、いま、このJR九州「36ぷらす3」やJR西日本「WEST EXPRESS 銀河」など、きっぷのルールや列車ダイヤなど難しいことを考えず、いわばお任せで楽しめる「新しい途中下車の旅」が増えてきています。

 ちなみに私(恵 知仁:鉄道ライター)は今回、肥前浜駅で散策のほか利き酒(無料)に挑戦。正解するとできるガラポンで、純米吟醸の四合瓶が当たってしまいました。もちろん、肥前浜の日本酒です。

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肥前浜駅で行われていた利き酒(2021年7月、恵 知仁撮影)。

 こうした「地元のおもてなし」も近年、鉄道の旅で増えているものです。商売エリアを容易に変えられない鉄道会社は、いわば沿線と一蓮托生。お互いが協力して地域に人を呼び、PRし、活性化する狙いがあります。

 また今回の肥前浜駅途中下車では、小さな出会いもありました。駅舎内部にツバメの巣があり、子ツバメがちょこんと顔を出していたのです。

 ツバメは一般的に縁起が良いとされますが、1930(昭和5)年に登場し東京~神戸間を前代未聞の速さで結んだ超特急「燕」、プロ野球球団「国鉄スワローズ」など、鉄道ファンにとってはより縁の深い鳥です。観光特急「36ぷらす3」に使用されている787系電車も元々、1992(平成4)年に特急「つばめ」としてデビューしています。

 色々と幸せな気持ちになれた「新しい途中下車の旅」でした。

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