「鉄道旅のお供はパンで」という人にはサンドイッチ駅弁がオススメ。コンビニとはひと味違い、郷愁さえ感じるベストセラー駅弁も多いのです。
鉄道旅のお供のひとつに駅弁がありますが、それは必ずしも和食やご飯ものとは限りません。実は「サンドイッチ駅弁」も日本各地に存在します。なぜサンドイッチが駅弁になったのでしょうか。
東京駅などに出店する「駅弁屋 祭」の「やわらかひれカツサンド」(乗りものニュース編集部撮影)。
日本で初めてサンドイッチ駅弁が誕生したのは1899(明治32)年のこと。JR東海道本線の大船駅(神奈川県鎌倉市)で、駅弁業者「大船軒」が売り出したのが始まりです。
創業者の富岡周蔵氏は妻が薩摩藩士の娘という縁で、後に第2代総理大臣となった黒田清隆氏と親しくしていました。この黒田氏が、外遊先で食べたサンドイッチがおいしかったから駅で売るように勧めたといわれます。つまり、後の総理大臣が生みの親というわけです。発売当時のパッケージを見ると「衛生 サンドウヰッチ 旅行用 金二十銭」と記されています。
西洋文化に憧れた当時の日本人は、このハイカラな旅のお供に飛びつき、売り切れ続出の大ヒットとなりました。
ちなみに、大船軒がサンドイッチのために製造を始めたハムも評判を呼び、やがて「鎌倉ハム富岡商会」として独立するまでになりました。「大船軒サンドウヰッチ弁当」は、誕生から122年たった今でも現役のベストセラー駅弁です。具はハムとチーズのみ。ふんわりと甘みのあるパンで挟んだ小ぶりのサンドイッチは、シンプルながら郷愁を誘う味わいです。
名産品を挟んだり… 全国各地のサンドイッチ駅弁今やコンビニでも手軽にサンドイッチが買えますが、駅弁屋が手がけるそれは“旅のお供感”があり、格別だと筆者(古屋啓子)は感じます。
東海道本線の静岡駅でも、サンドイッチ駅弁が買えます。大船軒と同じく120年以上の歴史をもつ「東海軒」が、1900(明治33)年に発売。フランス国旗を思わせるレトロな青・白・赤のパッケージで、具はハムと卵です。

「東海軒」のサンドイッチ。具はハムと卵(写真提供:東海軒)。
「鮎ずし」や「栗めし」で知られるJR肥薩線の人吉駅(熊本県人吉市)にもサンドイッチ駅弁があります。「人吉駅弁やまぐち」が作るひと品で、ラインナップはタマゴサンドとハムサンド。具がたっぷりで、ハムサンドにはキュウリのほか隠し味のパイナップルも入っています。人吉駅は2020年の熊本豪雨以来、乗り入れ路線の被災により閉鎖されていますが、駅弁は駅前の店舗で健在です。
駅弁ファンから聖地とも呼ばれるJR中央本線と小海線の小淵沢駅(山梨県北杜市)には、特別なサンドイッチ駅弁があります。地元の駅弁業者「丸政」が提供する「甲州かつサンド」(豚または鶏)は駅の売店には置かれておらず、購入には30分前までに電話予約する必要があります。注文すると、揚げたて熱々のカツを挟んだサンドイッチが、駅まで届けられるのです。一般のパン屋でも時間を見計らわないとなかなかお目にかかれない揚げたてカツのサンドイッチを旅先で食べられるとは、贅沢なひとときです。
地元の名産品を具材に用いたかつサンドの駅弁としては、大山豚を使った「アベ鳥取堂」(鳥取駅)の「大山豚カツサンド」や、仙台駅の弁当屋「こばやし」の「牛たん煮込みカツサンド」などがあります。おいしい旅のお供を、全国で探してみるのも楽しいでしょう。