渋谷駅のハチ公前広場に置かれていた元東急5000系電車、通称「青ガエル」は2020年8月に撤去され、秋田県大館市の地に移りました。現在はどのような姿で展示されているのでしょうか。

渋谷から去った「青ガエル」の現在は

 2020年8月まで渋谷駅のハチ公前広場で展示され、待ち合わせ場所としても親しまれてきた元東急5000系電車、通称「青ガエル」。現在は秋田県大館市の観光交流施設「秋田犬の里」に移設されています。

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秋田県大館市の「秋田犬の里」に展示されている元東急5000系電車(乗りものニュース編集部撮影)。

 丸みを帯びた下ぶくれの前面形状がユーモラスな「青ガエル」は、1954(昭和29)年に東急東横線で運用開始。大井町線や田園都市線などでも活躍しましたが、1970年代後半から後継車に置き換えられていき、1986(昭和61)年に東急での運用を終了。その後は、長野電鉄や岳南鉄道、熊本電気鉄道をはじめ地方各地のローカル私鉄で「第二の人生」に就きました。

 渋谷駅に置かれていた「青ガエル」は、上田交通(現・上田電鉄)に移籍後、1993(平成5)年に引退。東急へ返還され、しばらく車庫に眠っていた後、再塗装や修繕を施されて2006(平成18)年からハチ公前広場に登場するという「波乱の人生」を送っていました。

 2021年現在で残っている元東急5000系電車は、渋谷に置かれていた車番5001のほか3か所、計6両の保存車両のみとなっています。

秋田での余生は「ハチ公」が結ぶ架け橋

「青ガエル」が余生を送る「秋田犬の里」は、奥羽本線大館駅のほぼ向かい側に位置します。施設の入口では真っ先にハチ公の像が出迎えてくれます。秋田犬「ハチ」の生まれ故郷がここ、大館なのです。

「ハチ」が生まれたのは1923(大正12)年11月で、まもなく生誕100年を迎えます。

渋谷から秋田へ 絆の証となった東急「青ガエル電車」の今 そばにはハチ公と廃線跡も

「秋田犬の里」の入口にあるハチ公像(乗りものニュース編集部撮影)。

「青ガエル」は、そこからほどなくして視界に現れます。芝生広場に小さなプラットホームが設けられ、そこにパンタグラフを下ろした姿で「停車」しています。「渋谷⇔桜木町」というサボ(行先標)は渋谷にいた頃からそのままですが、さらに窓にイラストで「渋谷-大館」という方向幕が描かれています。

 かたわらには記念碑があり、そこには「この車両は、忠犬ハチ公を縁として交流を続ける渋谷区との更なる親交の象徴として、渋谷駅前から移設されたものです」とあります。

 渋谷駅にあった頃は観光案内所となっていたこの車両、現在はこの、ハチ公を通じた大館と渋谷の交流のあゆみをパネルやポスターで紹介する場となっています。

 去年まで置かれていた渋谷の街とは異なり、人はまばら。長野県から自動車で来たという30代の男性は「かつて熊本電気鉄道で乗ったことがある。(車体を指して)ドアの下のほうも側面に合わせて大きく湾曲している形状に、最初は驚いた。引退は残念だったが、こうして再会できたのは嬉しい」と話します。

 なお、すぐ横には一本の線路が伸びています。

これはかつて大館駅から伸びていた小坂製練小坂線の廃線跡です。小坂線は大館駅から約22km東の小坂駅までを結んでいた鉄道路線で、鉱山で採掘された銅や亜鉛などの運搬も行っていましたが、1994(平成6)年に旅客営業が廃止、残った貨物営業も2009(平成21)年に廃止されました。

 この廃線跡は今も往時の雰囲気を比較的とどめているほか、旧大館駅周辺では遊歩道とともに「鉄道パーク」として整備され、冬季を除く土・日・祝日には観光用の手漕ぎトロッコで廃線路を300mにわたり走行することができます。しかも「秋田犬の里」ならではでしょうか、リードなどをつけた状態であれば犬との同乗も可能です。