国土交通省では現在、とある超ビッグプロジェクトを進めています。それは全国に4箇所ある航空交通管制部の対応エリアを見直し、処理機数の向上を図るというもの。

どのような仕組みで、これが実現するのでしょうか。

年間200万機まで対応可能に

 現在、国土交通省航空局では、航空管制空域の再編事業が進んでます。おもに旅客機などが飛行する高い高度の空について、国内に4か所(札幌、東京、神戸、福岡)ある航空交通管制部の管轄分けを変更するというものです。

 それぞれの管制部で定められていた空域の区分けを見直すという意味では、「空の上の市町村再編」ともいうことができるでしょう。

「空の縦割り打破」→航空便数10%増可能に 進む国の一大プロ...の画像はこちら >>

那覇空港を離陸するJAL機(乗りものニュース編集部撮影)。

 この区分変更で、航空機の処理機数は10%増加できると見込まれます。コロナ騒動以前の予測ですが、2025年には現行の空域構成における管制処理容量の限界値とされる年間180万機に到達する見込みでした。再編事業が完了することで年間200万機まで対応可能になります。

 国内空域の上下分離、航空路管制の再整備とも呼ばれるこの計画は、2022年度の西日本空域再編、2025年度の東日本空域再編に向け毎年段階的に進められる予定で、年間数百億円規模の予算が計上。令和4年度も288億円の予算要求が行われているほどの、超ビッグプロジェクトです。

 ただ、再編したところで、空間の広さそれ自体は変わりません。なぜ分割方法を変えるだけで、そこまで効率改善が期待できるのでしょうか。

 まずは、日本の空の区分分けから見ていきます。日本の空は大きく分けて4分割されており、北から順番に札幌航空交通管制部(以下、管制部)、東京管制部、神戸管制部、福岡管制部の4つの機関が、日本と周辺の上空を分割して管理しています。そして、各管制部の管轄空域は「セクター」という単位ごとに、さらに細かく分割されています。

 1つのセクターに2名の航空管制官(交信役と調整役)とレーダー表示器などの機器が配置されており、パイロットが航空管制官と交信する際にセットする周波数も、セクターごとに割当てられています。

最大の課題はどこ?再編で解決なるか

 航空管制官はレーダー表示器上で航空機がセクター境界線に近づいたことを確認すると、パイロットに対して隣接するセクターの周波数に切り替えるよう指示します。交信例としては、「Contact Tokyo Control 124.1(東京コントロールと周波数124.1メガヘルツで交信してください」といったイメージです。

 ひとつの航空便が目的地まで到着するまでの裏側では、何人もの航空管制官がリレーのようにセクター間で航空機というバトンの受け渡し(移管)を繰り返し、目的空港の管制塔にいる航空管制官、その空港周辺の空域を担当するレーダー室の航空管制官へと引き継がれているのです。

 ただ、リスクが考えられるのは、東京管制部から神戸管制部など、別の管制部へと移管される「バトンタッチ」のとき。そこで安全性を担保するため、移管の際には通常よりも航空機同士の間隔を広げるなどのルールが定められています。

「空の縦割り打破」→航空便数10%増可能に 進む国の一大プロジェクト「空域再編」とは

「縦割り」となっている現在の管制部の区分け(国土交通省の資料より)。

 空域再編の狙いは、この移管をスムーズにすることにあるのです。

 空域再編後は、地上の市町村のように水平面上に引かれていた境界線が、高度ごと、つまり垂直面上に引かれることになります。

新たな空域設定では、高度約1万200mを境目として高高度空域と低高度空域で分けます。高高度空域は全体を福岡管制部で、低高度空域は2分割して東日本を東京管制部、西日本を神戸管制部で管理します。言い換えれば、セクター分割が札幌、東京、神戸、福岡の4分割の縦割りだったものから横割りへと切り替わるというわけです。

「横割り」空域にはどんなメリットが?

 これまで「縦割り」空域では、異なる管制部をまたぐエリア、つまり「関所」もしくは「市境」を越えるたび、航空機同士の間隔を広げる必要がありました。

 一方で、「横割り」となる新たな空域であれば、ひとたび上昇して1万200mを超えてしまえば、降下するまで別の管制部に移管する必要がなくなるので、わざわざ間隔を開ける必要もありません。たったこれだけの工夫ですが、これが年間処理機数を20万機以上も増やすことを可能とする仕組みです。

「空の縦割り打破」→航空便数10%増可能に 進む国の一大プロジェクト「空域再編」とは

日本上空を飛び交う旅客機。その様子は航空機追跡サイトなどでも確認が可能だ(画像:Flightradar24)。

 そして、横割り空域でもたらされる良い効果は、効率アップだけではありません。

 たとえばシステムトラブルや自然災害の発生、テロ攻撃など、何かしらの理由で、ひとつの管制部が機能しなくなった際、これまでの「縦割り」の場合、その管制部が担当しているエリアがまるごと空白となってしまう恐れがありました。「横割り」では、残りふたつの管制部が高度を上下することで補完することができます。

「縦割り」のままでも隣接する管制部が何とかすれば良いと思うかもしれませんが、これまで見たこともないエリアの空港、航空路をいきなりやれと言われてやれるほど、航空管制は簡単ではありません。

「横割り」であれば、普段やっている領域の上(下)をカバーすればいいので、少なくとも、これまでよりは遥かに容易に対応できるでしょう。

「縦割りを廃止してマルチにこなせる体制に変える」という一般企業と何ら変わらない構造改革が、日本の空にも有効ということです。

編集部おすすめ