新宿から電車とバスを乗り継いで2時間ほどの大山(神奈川県)には、大山観光鉄道というケーブルカーがあります。紅葉シーズン、山頂からの眺望もさることながら、ケーブルカー版「小田急ロマンスカー」といえる車両にも注目です。
神奈川県の北西部、日本三百名山として知られる伊勢原市の大山には、大山観光電鉄というケーブルカー(通称:大山ケーブルカー)があります。大山は2200年以上の長きに渡って霊山として崇められ、その眺望はミシュラングリーンガイドの二つ星も獲得したほど。ケーブルカーは大山参りの大切な足となっています。
ケーブルカーは通常、観光地への輸送を目的にした急斜面を上る登山鉄道であり、車窓も通常の鉄道とは大きく異なります。大山ではそこに、「小田急ロマンスカーの兄弟」とも言える車両が走っているのです。小田急ロマンスカーと言えば、ウリは先頭展望車の車窓ですが、そのケーブルカー版……?どのようなものなのでしょうか。
大山ケーブルカー。車両デザインは、小田急の特急ロマンスカー「GSE」などを手掛けたデザイナーと同一人物(2021年10月18日、安藤昌季撮影)。
秋の行楽シーズンの2021年10月半ば。東京在住の筆者(安藤昌季:乗りものライター)は大山ケーブルカーを訪れました。始発となる大山ケーブル駅へは、まず新宿駅から小田急小田原線の急行で1時間ほどの伊勢原駅に向かい、ここで「大山ケーブル」行きの神奈川中央交通バスに乗り換えます。25分ほどかけて終点に着き、さらに15分ほど歩きます。
道中、旅館や土産物屋が並ぶ門前町、こま参道を進みますが、「商店街全体が階段になって」おり、いかにもアニメの舞台になりそうな雰囲気です。
大山ケーブル駅は、駅舎の前に行列用のスペースが設けられており、繁忙期の人気ぶりが感じられます。駅舎にはミニショップがあり、グッズや記念撮影用の帽子貸し出しも行われていました。
きっぷは昔ながらの硬券でした。駅舎内には、大山への登山計画書を投函する箱が置かれています。
車窓を遮るものがない!←取り払ったんです改札を抜けホームに行くと、足元が階段状となっていて、早くも急勾配を実感できます。停車している車両は、前頭部のガラスが天井まで広がっているお洒落なデザインです。
大山ケーブルカーの車両は、小田急の特急ロマンスカー「GSE」や「VSE」、箱根登山鉄道のアレグラ号を手掛けた、岡部憲明アーキテクチャーネットワークがデザインしたもの。つまり、最近のロマンスカーと生みの親を同じくする「兄弟」というわけです。
コンセプトとして「大山の特色ある眺望・景観を取り込んだ展望車両」とあり、山下側は屋根まで大型曲面ガラスが広がる展望席です。側窓も大型ガラスのため、車内に入ると車両全体が風景となっているような雰囲気です。
天井はロマンスカー「VSE」を彷彿とさせる円形のもので、上品な落ち着きを感じます。

山下側の展望席(2021年10月18日、安藤昌季撮影)。
さて、車掌が乗り込むと出発です。列車は3分ほどで中間駅の大山寺に到着します。ケーブルカーは多くの場合、途中に行き違い用の設備がありますが、そこに駅が設置されているのは、珍しい風景です。急勾配のため、ホーム全体が階段状になっているのはケーブルカーならではです。標高400mの大山ケーブル駅に対して、大山寺駅は512m。ここまで280‰(1000m進むと280m上る)の急勾配を上った計算となります。
なおこの駅は行き違いの関係で、列車により発着番線が異なります。線路にケーブルがない方に下り列車が、ある方に上り列車が来るのです。大山寺観光のために同駅で途中下車した場合、列車を降りたホームに行っても、同じ方向の列車が来るとは限らないのでご注意を。
境内の脇にある阿夫利神社駅大山寺駅を出発した列車は、3分ほどで標高678mの阿夫利神社駅に到着します。
同駅は大山阿夫利神社の下社の脇にあり、駅から神社までが参道となっています。大山阿夫利神社は、実在した可能性がある天皇としては最初の天皇となる崇神天皇の御代に創建されました。崇神天皇は、今から1800年前の人物ですから、極めて古い神社と言えます。山頂からは古墳時代からの土器も出土しているとのことです。

大山山頂からの景色(2021年10月18日、安藤昌季撮影)。
せっかくなので、筆者も阿夫利神社駅から山頂に登ってみました。山頂までは上り90分、下り60分とされていますが、運動不足である筆者はかなりの急坂に息切れし、休み休み登ったので2時間近くかかりました。
山頂には大山阿夫利神社の本社と、軽い食事ができる食堂があります。ここからの風景は、関東平野が一望できる素晴らしいものでした。都心からじゅうぶん日帰り圏内。