一般的な踏切には警報機のほか、「→」「←」といった通過列車の方向を示す表示器が備わっています。しかし広島駅近くにある愛宕踏切は、「山陽貨下り」「芸備」「山陽上り」「車庫入」など計7種類を表示します。

何のためでしょうか。

いわゆる「開かずの踏切」

 警報機と遮断機を備えた踏切は「第1種踏切」と呼ばれます。歩行者や自動車の往来が激しい場所でよく見かけるのはこのタイプです。

 ほかにも第1種踏切には「→」や「←」といった、どちらから列車が近接しているのかを示す方向表示器がついています。通常、列車は「のぼり」「くだり」、「内回り」「外回り」など路線ごとに2種類しかありませんから、方向表示も2つあれば十分です。

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「芸備」のみ、ひとつの枠に「→」と「←」が納まっているので、実質的に7種類もある方向表示器(小川裕夫撮影)。

 しかし広島駅の近くには、6つの方向表示が備わった踏切があります。「愛宕踏切」です。それぞれを細かく見てみると、上段から順に「山陽貨下り」「山陽客下り」「車庫出」「芸備」「山陽上り」「車庫入」とあります。芸備のみ、ひとつの枠に「→」と「←」が納まっているので、実質的に7種類の方向表示があるわけです。なぜ多くの表示があるのでしょうか。

 先述の通り、同踏切は広島県の代表駅に近接しているので、ひっきりなしに旅客列車が通過します。

加えて貨物列車や留置線に入出庫する回送列車も通りますが、旅客列車とそれ以外の列車では通過する速度や時間に差があるため、踏切の遮断時間にも影響を及ぼします。ここはいわゆる「開かずの踏切」なのです。

横断者に伝えて何の意味があるのか

 そうした事情から、7種類の表示は待っている人に対して「次に通過する列車が何なのか」を伝えているといえるでしょう。

 ではそれを伝えたところで、どのような意味があるのでしょうか。実は、踏切の脇にはエレベーターを備えた大きな跨線橋があります。つまり、踏切を通過する列車の種類を知らせることで、横断者は踏切の遮断時間も推測でき、遮断時間が長いなら跨線橋を使って迂回するという判断ができます。

「→」「←」だらけ! やけに表示が細かい広島駅横の巨大踏切 現地で分かった“親切さ”

踏切脇には立派な跨線橋が設置されているが、利用者は少ない(小川裕夫撮影)。

 しかし、同踏切の前で通行人を眺めていても、跨線橋を利用する人は少なく、ゆっくりしか歩けない高齢者が利用している姿は目撃できましたが、多くの人たちは踏切が開くのをひたすら待っていました。

 とはいえ、全国津々浦々の踏切を訪ねてきた筆者(小川裕夫:フリーランスライター・カメラマン)は、これほど多くの表示がある踏切をここ以外で見たことがありません。

 跨線橋と反対側には職員の詰所のような小屋もあり、時折、職員が旗を振って列車や横断者を誘導する姿も見られます。横断距離が長いため、入念な安全確認が行われているようです。