2021年8月にベルギーを飛び立った19歳の女性パイロットが、5か月を経て無事戻ってきました。彼女は女性最年少の単独世界一周飛行の記録を打ち立てましたが、この飛行は超軽量スポーツ機の優秀さを実証するものにもなりました。

最先端技術で小馬力でも最大300km/hを発揮

 2022年1月20日、19歳のザラ・ラザフォードがベルギーのフランダース国際空港に着陸し、女性による単独世界一周飛行の最年少記録を達成しました。ただ、快挙はこれだけではありません。もうひとつは、この飛行が「LSA(軽量スポーツ機)」と呼ばれる新しいカテゴリーの飛行機で達成されたという点です。

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愛機「シャーク・アエロ」に乗ったザラ・ラザフォード(画像:AOPA)。

 記録達成に使用された機体はスロバキア製の高性能LSAである「シャーク・アエロ」です。同機は、アメリカ規格LSAの固定脚仕様と、速度制限のないヨーロッパ規格LSAとして引き込み脚仕様の2タイプが生産されており、後者の引き込み脚仕様は速度性能に優れているのが特徴です。

 機体の構造は、ほとんどが炭素繊維複合材料からなり、主翼も尾翼も丸みを帯びた翼端が特徴的で、空力的に洗練された形状になっています。エンジン出力はわずか100馬力ですが、引き込み脚のヨーロッパモデルは巡航速度250km/h、最大速度は300km/hを誇ります。

 加えて、ロータックス社製のエンジンは自動車燃料が使えるため、航空ガソリンがない空港でも給油が可能です。この自動車燃料が使えるというポイントは、世界一周飛行を企画・達成するにあたり、重要な要素になったのではないでしょうか。

中国フライトは新型コロナで断念

 ザラの世界一周飛行は2021年8月21日、ベルギーから西回りで始まります。イギリス、アイスランド、グリーンランドのルートで大西洋を横断しカナダへ。

そして、アメリカ東海岸沿いに南下してバハマ、バージン諸島を経由してコロンビアまで南下。そこからパナマ、コスタリカ、メキシコを経て今度はアメリカ西海岸を北上。アラスカからベーリング海を横断してロシア東部へ入りました。

 ロシアからは中国経由で東南アジア方面に行く計画でしたが、新型コロナ対策により中国が厳しい入国条件を打ち出していたため、そのルートは断念。ウラジオストクからは日本海を飛行して韓国に着陸。その後、台湾、マレーシア、シンガポールを経由してインドネシアへ行き、そこからインド洋を飛行しスリランカ経由でインドへ向かいました。

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ロサンゼルスのホーソン空港に到着したザラ・ラザフォード(向かって左)。右側の女性はロサンゼルスにあるベルギー総領事館の副領事(画像:在ロサンゼルス・ベルギー総領事館)。

 インドでは西海岸を北上し、再び洋上を飛行してアラブ首長国連邦、サウジアラビアを経由してエジプトへ。そして、エジプトのアレキサンドリアから地中海を縦断してクレタ島へと至ります。

 そこからブルガリア、スロバキア、チェコを経由してドイツのフランクフルトに到着。さらにベルギーまで一気に飛行し、2022年1月20日、女性として最年少での世界一周単独飛行という偉業を19歳で成し遂げたのです。

 ちなみに、男性による最年少の単独世界一周飛行は、イギリス国籍のトラビス・ルドローが18歳という若さで、ディーゼルエンジン搭載のセスナ172型を使用し、2021年に達成しています。

日本未認可のLSA 毎年1500機ペースで増加中

 ザラは、世界一周飛行の途中で天候の回復や渡航手続きのために足止めを食うことはあったようですが、機体の不都合は報告されていません。つまり、今回の世界一周飛行はLSAの信頼性と安全性を証明した記録だともいえるのです。

 LSAの特徴は最新の空力設計による飛行性能だけではありません。コックピットには小型ながら高機能な画面表示式の計器を備え、正確な航法も可能な性能を有しています。事実、ザラの飛行経路の中には4~5時間にもおよぶ洋上飛行が幾度となく含まれていましたが、問題なくこなしています。これもシステムの高い信頼性と操作性の裏付けだといえるでしょう。

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サウジアラビアに到着した際のザラ・ラザフォード(画像:在サウジアラビア・ベルギー大使館)。

 ザラは各国で歓迎を受け、サウジアラビアでは王族や著名なパイロットとの交歓もあったようです。極東地域において日本を経由しなかったことは残念でしたが、これは日本でLSAが航空機として認められていないことも関係しているようです。もし、日本が欧米などと同じ基準でLSAの飛行を認めていたら、ザラは日本にも立ち寄ったのではないでしょうか。

 全世界ではLSAが毎年およそ1500機のペースで増え続けています。

優れた飛行性能とともに、信頼性と安全性が証明されたLSAを、日本でも早期に制度化することが望まれます。

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