第2次世界大戦が終わるまでの潜水艦は、魚雷や大砲で輸送船を沈めるのが役割でした。しかし戦後、アメリカと旧ソ連は潜水艦にミサイルを搭載したことで、今日では海軍で最も重要な軍艦にまで昇華しています。

黎明期の潜水艦はどんなものだったか

 2021年末、日本政府が海上自衛隊の潜水艦に射程1000kmの巡航ミサイルを搭載する案を検討し始めたという報道がありました。

 現代の潜水艦は、魚雷だけでなく弾道ミサイルや巡航ミサイルも搭載するものが少なくありません。いまや潜水艦は各国海軍において最も重要な装備のひとつであるといっても過言ではない存在になりつつありますが、かつてはあくまでも“脇役”にすぎませんでした。潜水艦はどのようにして、その地位を向上させたのでしょうか。

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アメリカの原子力潜水艦「オハイオ」の弾道ミサイル垂直発射管(画像:アメリカ海軍)。

 近代の潜水艦は19世紀中ごろに登場しましたが、戦いで本格的に使われるようになったのは第1次世界大戦からです。

このときは、敵の輸送船などを攻撃するのが潜水艦のおもな役目でした。

 いまの潜水艦は長い時間常に、潜航し続けることが可能になりつつありますが、当時は、攻撃を加えたり、敵に見つからないようにしたりするとき以外は浮上し、ディーゼルエンジンで航行していました。水上航行の間にバッテリーを充電し、その電力で水中を航行するため、潜れる時間はおのずと限られます。

 そのため普段は浮上して行動し、標的が単独なら潜らずにそのまま魚雷や大砲を使って攻撃する、というのが当時のやり方でした。したがって、「潜水艦」は、水中に潜ることができる「可潜艦(潜航できる軍艦)」というのが、正確な呼び方といえるような状況だったのです。

航空機を搭載するようになった潜水艦

 第1次世界大戦後に日本とアメリカ、イギリス、フランスは潜水艦への偵察機の搭載を試みます。

これを実用化したのはフランスと日本だけでした。

 フランスでは「シュルクーフ」1隻だけでしたが、日本は複数の潜水艦に航空機を搭載しています。さらに日本の潜水艦に搭載された航空機は、偵察だけでなく爆撃も行っていました。やがて日本は、さらにこれを推し進め、航空攻撃に特化した潜水艦として、伊400型と伊13型という2種類の大型潜水艦の建造まで計画します。

潜水艦はいかにして「ミサイルのデパート」になったか 脇役から最重要兵器への超絶進化
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伊400型潜水艦の搭載機「晴嵐」の格納庫(画像:アメリカ海軍)。

 ちなみにドイツは、潜水艦で敵国の沿岸まで行き、そこで敵基地を攻撃するための小型ロケット弾を開発、その水中発射実験も行っています。

加えて、同国では世界初の弾道ミサイルと呼ばれるV2ロケットを収めたコンテナー(格納筒)を潜水艦に曳かせて、アメリカ本土を攻撃する計画まで立てていました。

 こうした潜水艦に魚雷以外の兵器を持たせる方向をより発展させたのが、第2次世界大戦後のアメリカと旧ソ連でした。

海中のミサイル基地に生まれ変わった潜水艦

 第2次世界大戦末期の1944(昭和19)年に、ドイツで巡航ミサイルの元祖といわれるV1飛行爆弾を捕獲したアメリカは、すぐさまV1をコピーしたJB-2「ルーン」ミサイルを開発。大戦後の1948(昭和23)年1月28日には、それを潜水艦「カスク」から発射するという実験を行っています。

 ただ本格的な巡航ミサイルは、この次に開発された「レギュラス」でした。「レギュラス」は1951(昭和26)年から発射実験が行われ、1953(昭和28)年7月に潜水艦「タニー」からの洋上試射を成功させています。

なお、当時はまだ船体内部にミサイルを収納することはできず、「JB-2」「レギュラス」とも甲板に増設されたコンテナーに収納する形でした。

 ちなみに、「レギュラス」のルーツは日本の伊400型潜水艦といわれており、実際にアメリカは伊400が搭載していた水上機「晴嵐」の格納庫に関する密閉構造を参考にしていました。

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JB-2「ルーン」の発射実験(画像:アメリカ海軍)。

 一方、アメリカと覇を競っていた旧ソ連は、V2ロケットをベースに開発した「スカッド」ミサイルの改良型を潜水艦に搭載します。なお旧ソ連は1950年代後半に完成したズールー型潜水艦の船体内にランチャー(発射管)を内蔵することに成功。こうして世界初のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)が誕生しています。

 対するアメリカも、1970(昭和45)年に垂直発射式のランチャーから撃ち出す「ポラリス」ミサイルを実用化しました。こうして弾道ミサイルは船体へ垂直に収容されるようになっていった一方、巡航ミサイルはやがて魚雷発射管から撃ち出されるようになります。

 なお、これらアメリカとソ連の弾道ミサイルは核爆弾を搭載していたことから、冷戦時代に潜水艦は核戦力の一翼を担うようになったまた、燃料補給なしにない無補給で長期間活動できる原子力潜水艦が登場すると、戦争の初期に地上基地が使用不能になっても生き残る確率が高いとして、核戦力の要となりました。

潜水艦はここまで万能兵器になった!

 現在、世界規模で潜水艦を展開するアメリカやロシアは、核戦争に備えて中・長距離の垂直発射型弾道ミサイルを核戦力の軸にしています。

 一方、巡航ミサイルは核弾頭だけでなく通常弾頭も使えるため、地上基地や水上艦の攻撃用として核兵器を使わない通常戦闘にも投入することができます。また巡航ミサイルに準ずるものとして対艦ミサイルがありますが、これも現代の潜水艦では魚雷発射管などから撃つことができるようになっています。

 こうして見てみると、潜水艦の武装はかなりバラエティに富んでいることがわかります。かつては魚雷と大砲を使い、また短時間しか潜ることができなかったため、海軍戦力のなかでは脇役的存在でしたが、今日では万能兵器になったともいえるでしょう。

 とくに島嶼国家(海洋国家)である日本は海が主戦場になることは間違いありません。だからこそ、潜水艦は国防上、重要な役割を担う装備となっているのです。