陸上自衛隊に今後、多数編成される予定の「偵察戦闘大隊」。その名のとおり、偵察活動や戦闘行動が主任務の部隊ですが、役割の一つに通信の確保というのもあるそう。
陸上自衛隊が推し進める大改革の中で、新たな部隊が多く誕生しています。その中で注目すべきが16式機動戦闘車を運用する「偵察戦闘大隊」です。
偵察戦闘大隊とは、情報収集を主任務にする新たな部隊です。従来までの偵察部隊が運用している87式偵察警戒車や偵察オートバイ、軽装甲機動車などに加えて、16式機動戦闘車も装備し、より攻撃力を高めた偵察部隊という位置付けなのが特徴です。
砲塔を後ろに向けて後退行進射撃を行う16式機動戦闘車。機動力が高いため、強行偵察時に射撃して退避するヒット・アンド・アウェイを容易に行うことが可能(武若雅哉撮影)。
また偵察戦闘大隊は、偵察部隊としての本来任務といえる情報収集のほかに、もうひとつ重要な役割が与えられています。それが「空白地帯の通信確保」です。
通信の確保というと、通信科職種の役割だと思われるかもしれませんが、一般的な通信部隊は非常に限定された戦闘力しか持っていません。また、陸上自衛隊の通信インフラを確保するため、通信科職種は司令部に近い後方地域での活動がメインになります。そこで、16式機動戦闘車を装備する偵察戦闘大隊に、通信部隊を補完する役割が与えられたのです。
こうした動きの背景には、それまで郷土部隊として地域密着型だった師団や旅団が、有事の際には最前線へと向かう「即応機動師団」「即応機動旅団」へと体制を変更している実情があります。たとえば東北地方のある師団の場合、従来は地域の防衛警備を担当する使命から、たとえば南西方面で有事があった場合に動くことはあまり考えられていなかったのですが、これからは必要に応じて向かうことになるかもしれません。こうなった場合、東北地方には平素、師団が2個あるのですが、それが実質1個師団のみになり、南西に向かった1個師団分の空白地帯が発生します。

偵察隊や偵察戦闘大隊なども装備する軽装甲機動車(武若雅哉撮影)。
偵察戦闘大隊が運用する16式機動戦闘車は、NECが開発した「広帯域多目的無線機」という高性能な無線機を搭載しています。この無線機は、既存の無線機よりも幅広い周波数帯を1台の無線機でカバーすることができるため、従来なら専用の無線機が必要であった航空自衛隊や海上自衛隊との交信も容易にできるようになっています。
また、レーダーなどの監視装置も、従来、偵察隊の主要装備であった87式偵察警戒車よりパワーアップしているため、数km先で活動する人間の動きなどもより細かくとらえることができ、広範囲の警戒監視が可能です。
加えて、通常の通信網は通信科部隊が構成しますが、通信回線の途絶は前線に出ている部隊を危険に晒す可能性があります。かといって、軽装備の通信科部隊では心許ない時などでも、偵察戦闘大隊なら火力と防御力の双方で高いレベルを有しているため安心です。
このような理由から、通信線のバックアップをするために偵察戦闘大隊が前述した空白地帯を埋めるために出動するのです。16式機動戦闘車があることで、非常に合理的な運用をすることができるようになるといえるでしょう。
今後、急速に増える予定の偵察戦闘大隊陸上自衛隊として初となる偵察戦闘大隊は、福岡県に司令部を置く第4師団隷下に2019年3月末に誕生しています。
ただ、このような16式機動戦闘車の配備拡大と入れ替わる形で、本州からは教育用を除いたすべての戦車が姿を消します。陸上自衛隊は戦車の配備を北海道と九州のみに限定する計画です。

従来の偵察部隊の主要装備である87式偵察警戒車。16式機動戦闘車が配備された後も強行偵察の花形として運用が続けられる(武若雅哉撮影)。
本州において即応機動連隊を新編しない師団・旅団の場合、偵察隊を偵察戦闘大隊へ改編することは間違いないため、5年ほどで残る第3と第9の両師団、そして第13旅団についても戦車がなくなり、16式機動戦闘車配備の偵察戦闘大隊が発足する予定です。
偵察に加えて、普通科の火力支援、そして通信の確保までマルチな運用が期待される偵察戦闘大隊、実は今の陸上自衛隊のなかで最も目が離せない部隊といえるのかもしれません。