警察予備隊からの歴史ある戦車部隊が2022年3月をもって廃止になる予定です。そのため、所属隊員たちは目下、新装備である16式機動戦闘車の運用訓練中。
2021年末から静岡県御殿場市にある駒門駐屯地所属の第1戦車大隊に、16式機動戦闘車が配備されている姿が目撃されるようになりました。
一見すると、第1戦車大隊に最新の「装輪戦車」である16式がニューフェイスとして加わったように思えますが、そうではありません。この16式機動戦闘車の配備は、第1戦車大隊の終焉を明示しているのです。
暫定的に第1戦車大隊へ配備された16式機動戦闘車。第1偵察戦闘大隊に改編したあとすぐに任務に対応できるよう公道走行訓練をしている(武若雅哉撮影)。
そもそも第1戦車大隊は、1954(昭和29)年7月1日の陸上自衛隊発足の直後、同年9月25日に相馬原駐屯地(群馬県)で創設された第1特車大隊が母体。その源流は、さらに遡ること2年前、1952(昭和27)年4月に同駐屯地で編成された「警察予備隊総隊特別教育隊(特科および特車教育)」になります。このように第1戦車大隊は、陸自屈指の歴史を持つ戦車部隊なのです。
警察予備隊時代から数えると70年の歴史を有する第1戦車大隊、それだけ長きにわたって存続してきたため、配備された戦車についてもアメリカ軍から供与されたM4A3E8戦車やM24軽戦車から始まり、M41軽戦車、そして戦後初の国産戦車である61式戦車から最新の10式戦車までと幅広いです。唯一、北海道に集中配備されている90式戦車だけは運用したことがないものの、それ以外の車種を運用してきた歴史を持っています。
そんな第1戦車大隊がもうすぐ姿を消そうとしているのです。
防衛省と陸上自衛隊は、2018年に定められた現在の防衛大綱に基づき、本州から戦車を全廃する計画です。その流れにより陸自屈指の伝統を持つ第1戦車大隊も姿を消すのです。
そのため、今回の第1戦車大隊に対する16式機動戦闘車の配備は暫定的なものでしょう。これは、第1戦車大隊に所属する隊員が、第1偵察戦闘大隊へ異動する前に16式機動戦闘車に慣れておく必要があるための処置です。また噂によると、従来の戦車部隊では滅多になかった人事管理の動きもあるそうです。
そもそも、戦車を運用するのは陸上自衛隊のなかでも機甲科と呼ばれる職種に属する隊員です。ちなみに職種とは、旧日本軍や他国軍などでは「兵科」と呼ばれるもので、それ専門の技術を擁するプロ集団とでもいえるでしょう。
ただ、機甲科のなかにも「戦車」と「偵察」という2種類の領域があります。前者はその名のとおり、戦車を動かすためのジャンルであり、いうなれば機甲科の王道。それに対して後者の「偵察」は、装甲戦闘車両にも乗るものの、積極的な戦闘は極力せず、オートバイなどを駆って情報収集や敵情解明などを行うジャンルになります。

74式戦車(手前)と10式戦車(奥)に描かれた第1戦車大隊のマーク。このマークもそろそろ見納めとなる(武若雅哉撮影)。
話を元に戻すと、従来までの人事管理の動きとして、機甲科職種に指定された幹部自衛官は「戦車」と「偵察」の両部隊を行き来することができました。なぜなら、幹部自衛官は機甲科職種の幹部として「戦車」と「偵察」の異なる領域で活動する、2つの部隊の特性を理解する必要があったからです。
一方で、機甲科職種に配置された曹士隊員は、新隊員のうちに「戦車」か「偵察」に分かれ、その後はいずれかの分野のプロになれ、というのがセオリーでした。そのため「戦車」に指定された新隊員は戦車部隊へ、「偵察」に指定された新隊員は偵察部隊へと配置されたら、その後は基本的に両部隊を行き来することはなかったのです。
「偵察戦闘大隊」への移動で隊員の任務も変化ちなみに、戦車に乗るためにはMOS(Military Occupational Specialty)、通称「モス」と呼ばれる部内資格である「特技」を取得する必要があります。よって「偵察」に指定された新隊員は戦車に乗ることがないものの、逆に偵察隊員として必要なMOSを取得することが求められます。
これについては、全陸上自衛官が例外なく自分の職種に関する何らかのMOSを取得する必要があります。たとえば職種ごとに区分されている「主要MOS」は全隊員に必須です。そのほかにも、自衛隊車両を運転するためや、それこそラッパを吹奏するにあたっても、そのために必要な「付加MOS」を取得しなければ扱うことは許されません。
陸上自衛隊では、このようにMOS(特技)で隊員個々の能力を管理しています。戦車部隊と偵察部隊に分かれている機甲科も、職種として特有の人事管理体系が整理されていたのですが、今回、第1戦車大隊から第1偵察戦闘大隊へ改編するにあたって、それまで「戦車一筋」で仕事をしてきた隊員が「偵察」のMOSを取得する動きが出ているそうです。なぜそうなっているのかというと、新編される部隊の特性が「偵察戦闘」を任務とする部隊だからだといえるでしょう。

公道で走行訓練中の第1戦車大隊の16式機動戦闘車。操縦訓練は連日行われているため、地域住民からすれば見慣れた光景になりつつある(武若雅哉撮影)。
第1偵察戦闘大隊は、第1偵察隊に16式機動戦闘車を追加で配備する形で、より強力な偵察部隊として生まれ変わるものです。第1戦車大隊が装備していた戦車を運用することはありません。そのため、長年戦車に乗り続けていた隊員は「偵察」という新しい分野へと駒を進めることになるのです。
第1戦車大隊も残す所、あと1か月半程度で廃止されてしまいます。東富士演習場で行われる「富士総合火力演習」や、習志野演習場で行われる「第1空挺団降下訓練始め」の常連であった由緒ある部隊ですが、その部隊の終焉も間近に迫っています。