老朽化する首都高のなかでも著しい損傷が進んでいる1号羽田線「羽田トンネル」の内部に入りました。海水がトンネル内へ侵入し、構造物が広範囲に損傷している現状、今後どうするのでしょうか。

国内で2番目に古い海底道路トンネルの現状

 首都高の老朽化が進行しています。2010年代に策定された「大規模更新」「大規模修繕」に基づき、1号羽田線の一部などで“つくりかえ”に相当する工事が進んでいますが、それから約10年を経て、2021年12月からは今後の大規模更新・大規模修繕箇所の選定に入っています。
 
 その有識者会議の委員長の前川宏一さん(横浜国立大学大学院教授)が唯一、「ここだけは絶対にやる」と具体的な箇所を明言したのが、1号羽田線の「羽田トンネル」でした。2022年3月23日(水)、このトンネル内部の著しい損傷状況が報道陣へ公開されました。

首都高老朽化の象徴? 「羽田トンネル」内部に潜入 海水ドボド...の画像はこちら >>

1号羽田線の羽田トンネル羽田側坑口(中島洋平撮影)。

 羽田トンネルは1964(昭和39)年に開通した首都高初の海底トンネルで、国内の海底トンネル(道路)としては関門海峡の国道トンネルに次ぐ2例目。羽田空港の北側にある短いトンネルです。

 このトンネルは「開削部」「ケーソン部」「沈埋部」と、3つの工法で造られた躯体をつないでいるのですが、今回入ったのは両端の「開削部」のうちの羽田側、道路空間の上部にある「ダクト」と呼ばれる空間です。昔はトンネル内の排気ガスをここに流していましたが(ダクトからさらに巨大なファンで外へ排出する)、現在は火災の煙を流す場所として残っています。

 事務所内のマンホールを降りて到達するダクトは高さ1.2mほどの空間で、大人なら常にかがんでいる必要があります。

「この部分は一見してコンクリートが健全に見えますが、ハンマーでたたいてみると……軽い音がするでしょう。内部が腐食してスカスカになっているのです」

 作業員が床のコンクリートをハンマーで叩くと、ところどころで音が異なるのです。

海水が広く侵入し、その塩分が内部の鉄筋を腐食させ、コンクリート表面がはがれてしまった箇所などが点在。また上にも下にも、無数の補修跡が見られました。

 さらに奥へ進むと、海水がちょろちょろ漏れ出ている箇所がありました。「今は潮の関係で水の量が少ないですが、最大だと1分間に10Lの水が内部へ漏れてくるので、樋を渡して流しています」とのことです。

「トンネル以外」にするのも抜本対策の選択肢

 もちろん日々の点検補修により、トンネルが直ちに崩壊するような恐れはありませんが、それでも止水性能などが急速に低下しているといいます。

 それは、補修のための通行止め回数にも現れており、2016(平成28)年には4か月に1回ほどだったのが、2021年では1か月に1回になっているそう。舗装の下から水が吹き上がり、急いで通行止めにするような突発的な事象も増えており、抜本的な対策が必要になっているといいます。

 ただ、それをするには1日10万台が通行するという羽田トンネルを通行止めにする必要があり、その迂回路をどうするかも含めて、工法を検討する必要があるとのこと。

 実は羽田トンネルには並行して、使われていない可動橋(旋回橋)があります。もともと川の南側に位置する空港西入口から上り本線へ合流するランプの一部として開通し、船の通行を考慮して可動橋としていましたが、並行する湾岸線の開通により渋滞対策の役目を終え、運用を停止しているものです。

「仮に可動橋を使えば、上り線のクルマをそちらに流し、下り線のみでトンネルを使用するようにれば、断面の一方を通行止めにして工事ができます。ただ、可動橋は1車線分の容量しかありません。

並行して新たな橋を架けることも考えられます」

 首都高速道路 計画・環境部長の淡中泰雄さんはこう説明します。さらに「その橋を恒久的に使うのも選択肢」と付け加えました。

首都高老朽化の象徴? 「羽田トンネル」内部に潜入 海水ドボドボ、構造物を侵す
Large 220323 haneda 02

使われていない羽田可動橋。このような橋桁が2つあり、1本の橋としてつながる仕組み(乗りものニュース編集部撮影)。

「仮に上り線だけでも橋に替えれば、トンネル内部のサグ(下り坂から上り坂へ切り替わる箇所)も解消でき、渋滞緩和にもなります」

 大規模更新は、単に老朽化の抜本対策というだけでなく、道路をよりよくする意味もあると、淡中さんは話します。

 首都高速道路は今後、1年ほどかけて技術検討委員会で工法を決め、2024年度から速やかに、羽田トンネルの大規模更新に取り掛かる構えです。

編集部おすすめ