日本国内の鉄道の軌間(線路幅)は、狭軌と呼ばれる1067mmが主流で、新幹線や一部の私鉄で標準軌と呼ばれる1435mmが採用されています。そしてごく少数、ナローゲージと呼ばれる762mm軌間の鉄道路線もありますが、上記3種の軌間をまたぐ踏切が1か所だけ存在します。

狭い順に三岐、JR、近鉄

 3つの鉄道路線が並走する踏切、その線路の幅が3路線とも違う、という日本唯一の踏切が三重県にあります。
 
 全国に線路を張り巡らせるJR在来線の多くは、1067mm軌間(狭軌)を採用しています。軌間とは2本のレール間の幅のことです。日本では狭軌がスタンダードになっていますが、国際的には、新幹線で採用されてる1435mm軌間(標準軌)がスタンダードです。

国内唯一「3種類の線路幅」をまたぐ珍踏切とは 1435/10...の画像はこちら >>

JR関西本線の列車が通過中。軌間は1067mm(小川裕夫撮影)。

 そのほか、国内には少数ながらも幅の狭い762mm軌間を採用している鉄道事業者もあります。そのひとつが、三重県桑名市といなべ市を結ぶ三岐鉄道北勢線です。この軌間は、一般的にナローゲージと呼ばれます。

 冒頭の踏切は、桑名駅(三岐鉄道は西桑名駅)付近の北勢線、JR関西本線、近鉄名古屋線が並行する区間にあります。つまりナローゲージ(三岐鉄道)、狭軌(JR)、標準軌(近鉄)と3種類の軌間をまたぐわけです。

 同踏切は一見すると、どこにもあるような風景です。

数字で見ると線路の幅の違いは明白ですが、実際に渡ってみても、それほど大きな差を感じることはないでしょう。

 とはいえ、踏切両端の北勢線と名古屋線とでは倍近くの差があります。これを念頭に入れてから渡ると、3種類の「線路の幅」の違いをより実感できるかもしれません。

 ところで、なぜ北勢線は珍しいナローゲージを採用しているのでしょうか。

北勢線は国内数少ない現役ナローゲージ

 三岐鉄道は北勢線と三岐線の2路線を有しますが、北勢線は2003(平成15)年に近畿日本鉄道から営業譲渡された路線です。ルーツをたどると、北勢線は沿線の旅客輸送、三岐線は藤原岳から産出される石灰石の輸送です。

 20世紀初頭、政府は全国に物資輸送のネットワークを拡大させようとしていました。そのため、地方にも鉄道計画が次々と持ち上がります。しかし、人口が少ない村や産業がない町などに鉄道を建設しても採算がとれません。そこで、政府は「軽便鉄道」の建設を奨励しました。

 軽便鉄道は軌間が762mmなので、買収する土地が少なく済みます。また、付帯する設備も走らせる列車もコンパクトになります。

高スペック、高負担の鉄道はキャパオーバーになってしまうものの、軽便鉄道は鉄道が欲しいと考える地方から歓迎されたのです。北勢線は1914(大正3)年に部分開通しました。

 こうして続々と軽便鉄道が建設されましたが、すでに日本の幹線鉄道の大半が狭軌で敷設されていたためナローゲージでは乗り入れができず、遠くへ物資を運ぶ際には貨車を積み替える手間が生じました。これらの手間が忌避され、特に戦後、ナローゲージの鉄道は次々と姿を消します。つまり北勢線は、数少ない「762mm軌間」の生き残りなのです。


※一部修正しました(4月14日11時48分)。

編集部おすすめ