小田急電鉄の看板車両「特急ロマンスカー」。今回は「LSE」「EXE」「VSE」「MSE」「GSE」に乗務した元運転士に、歴代車両の思い出を聞きました。

73年の歴史を持つ小田急の「特急ロマンスカー」

 斬新な特急形車両を続々と投入し、鉄道友の会から「ブルーリボン賞」などを多数受賞している小田急電鉄の「特急ロマンスカー」。その歴史は1949(昭和24)年に投入された1910形(後に2000形に変更)から始まり、2022年で73年にもなります。

 ロマンスカーは、初代1910形の時点で喫茶カウンターを備え「走る喫茶室」と呼ばれるなど、サービスレベルの高さが魅力のひとつでした。

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小田急電鉄の特急ロマンスカー「LSE」7000形電車(2016年10月、安藤昌季撮影)。

 続く特急専用車両1700形を経て、“画期的な軽量高性能新特急車”とされた3000形「SE」、運転席を2階に上げ前面展望を可能とした3100形「NSE」、前面展望室を備えた7000形「LSE」と進化していきます。その後は10000形「HiSE」、2階建て車両を連結した20000形「RSE」、分割併合を可能とした30000形「EXE」、白い車体が特徴の50000形「VSE」、地下鉄乗り入れを可能とした60000形「MSE」、そして最新70000形「GSE」と、数多くの名車を生み出してきました。

 さて今回は、「LSE」「EXE」「VSE」「MSE」「GSE」に乗務された元運転士の梓 雅樹(あずさ まさき)さんに、「HiSE」「RSE」に乗務された先輩運転士のお話も合わせて、歴代ロマンスカーの運転感覚について伺いました。

 なお「VSE」と「GSE」については、別記事でインタビュー記事を紹介しています。

初めての乗務は「LSE」でした

――梓さんは、「LSE」以降のロマンスカーに乗務されたと伺っております。運転士から見て、どのような印象や運転感覚がある車両なのか、順に教えていただけますか?

「LSE」は、ロマンスカーの研修で初めて乗務した車両でした。同時に初めての2階運転台の特急車両であり、目線や速度感覚が一般車両と異なることに衝撃を受けました。

 運転台が狭いのもさることながら、一番の違いは速度感覚です。

日頃の一般車両よりも目線が1m以上も上にあるため、速度感覚の違いに慣れるまで苦労しました。また、連接台車については音の違いがあります。通常のボギー台車は線路のつなぎ目を通る時に「カタンカタン」と2度音がしますが、連接台車だと「カタン」と一度だけなので、すぐにわかります。

――「HiSE」はどんな車両だったと聞いていらっしゃいますか?

「HiSE」は運転台が「LSE」より広く、乗務しやすかったと聞いております。

――「RSE」は先輩運転士からどんな車両だと聞いていますか? 2階建て車両も連結されており、運転感覚に違いはあったのでしょうか?

「RSE」はJR東海の御殿場線に乗り入れを行う車両なので、2階運転台ではなく、広い運転席で機器も多く搭載されていました。乗務員室には専用の空調が備わっていて、快適に運転できたと聞いております。また、運転感覚ですが、2階建て車両が連結されていることで、重量感を感じたとのことです。

「EXE」、αとで運転に違いは?

――「EXE」にも乗務されたそうですが、どのような車両でしょうか。またリニューアル車「EXEα」では走行機器も更新されていますが、その影響は感じられましたか?

「EXE」は連結運転を行うロマンスカーであり、特に中間運転台で運転する時は気を使います。曲面ガラスで部分的に視界がぼやけるので、体勢移動をしながら運転する必要があるのです。「EXEα」は自動車でいうアクセルに当たる「ノッチ」や、ブレーキ操作の反応など、格段に性能が上がりました。

小田急ロマンスカーは運転しやすい? 展望席上の運転台も 元運転士に聞く歴代車両
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特急ロマンスカー「EXEα」30000形電車の車内(2017年9月、安藤昌季撮影)。

――青いロマンスカー「MSE」はどのような車両でしょうか。

 東京メトロやJR東海と相互乗り入れする車両ですが、比較的最近に導入された車両ですので、運転感覚、乗り心地がとてもよい車両です。

――乗務された中で一番古い「LSE」を基準として、それ以降の新型ロマンスカーでは、どのような点で「乗りもの」として改善されていると感じますか?

 ブレーキ性能の向上です。運転士にとって「駅の停止位置に列車を正確に止める」ことは非常に重要です。ブレーキ性能が向上することにより、お客様にとって揺れが少なく、乗り心地のよい車両に改善されたと感じます。

――展望車のないロマンスカーでも、乗務員室越しの前面展望が可能な車両が多いですが、乗客から見られることは、運転感覚に影響しますか?

 通勤形車両でもお客様にご覧いただきながら運転していることに変わりはないものの、特急形では座席が前に向いていますので、発車するさいに後ろを見ると、お客様と目が合うなど、独特の緊張感はあります。

運転が難しい区間はどこか

――ロマンスカーと一般車両の差があるかもしれませんので、一概には言えないかもしれませんが、「運転がしやすい区間」と「運転が難しい区間」はありますか?

「お客様にとって乗り心地のよい、揺れにくい運転を実現する」という観点でお答えすると、運転がしやすい区間は「複々線区間など、踏切がなく直線が多い区間」です。「運転が難しい区間」は、曲線が多い「渋沢~新松田」と箱根登山線の「小田原~箱根湯本」ですね。

――乗車率が異なると、運転感覚は変わってくるのですか?

 新型車両の導入が進んだことで、加速時・ブレーキ時の感覚などは、ほとんど変わらなくなってきていると思います。

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インタビューにお応えいただいた、元運転士の梓 雅樹さん(写真提供:小田急電鉄)。

――最後に、昼間と夜間で運転感覚の違いはあるのでしょうか?

 夜間は駅や踏切を除き、暗い中で電車の前照灯のみで運転を行うため、注意する箇所が多いです。慣れるまでは、夜間の運転は目の疲れを覚えることがありました。

――お忙しい中、インタビューに応じていただき、ありがとうございました。

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 ロマンスカーは2022年4月現在、「EXE」「EXEα」「MSE」「GSE」の4車種が現役です(「VSE」はイベント列車などで2023年秋ごろまで運行予定)。それぞれが用途に応じたつくりをしており、また車体色も異なるなど個性豊か。イベントでは、すでに引退した車両も含めて一堂に会すことがありますが、70年以上、脈々と受け継がれてきたロマンスカーの伝統は、次にどのような車両を生み出すでしょうか。

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