プロ野球・北海道日本ハムファイターズの本拠地となる新球場「エスコンフィールド北海道」開場まで1年を切りました。隣接してJR千歳線にできる新駅の予定エリアは、まだまだ手付かず。
2023年からプロ野球・北海道日本ハムファイターズの本拠地となる「エスコンフィールド北海道」(北海道北広島市)の建設が進んでいます。
この新球場は同球団を運営する「ファイターズスポーツ&エンターテイメント」(以下FSE)によって「温泉に入りながら」「球場内の醸造所で作ったクラフトビールを楽しみながら」など斬新な観戦のスタイルが提案され、かつ球場の周囲はマンション、商業施設、農園、認定こども園などを擁する「北海道ボールパーク Fビレッジ」として段階的に整備中。これまでにない「世界がまだ見ぬボールパーク」が誕生する予定です。
建設中の新球場「北海道ボールパーク」(宮武和多哉撮影)。
そしてこのエリアの北側を通るJR千歳線には新駅設置が予定されていますが、開業は2027年度末と、まだ先の話。来年3月の開場まで1年を切った2022年4月、現在の新球場・新駅の様子を見てきました。
新球場の建設が進む北海道北広島市の共栄地区は、JR北広島駅から1.7kmほど離れた高台にあり、5月を目前に控えても山影の雪が溶けきらないほど冷んやりとしています。球場の開閉式屋根がほぼ全容を表しているものの、周囲はまだまだ整地中の場所ばかり。工事車両がせわしなく動いているためか、周囲は土ぼこりに包まれ、あと11ヶ月でここがプロ野球球団の本拠地になるとは、まだ信じられません。
新駅は球場とJR千歳線に挟まれた通称「三日月エリア」に整備される予定ですが、現在は舗装された駐車場・資材置場の状態。ここに1面4線(通過線含む)+引き上げ線が整備され、普通列車・臨時列車を合わせ、22時台でも1時間に9本の運行が可能となる見込みです。
球場のオープンから新駅開業まで(早くても)5年のあいだ、ひとまずは北広島駅、あるいは各方面からのバス運行によって観客を迎え入れることになりそうです。北広島駅のホームを延伸する工事も進んでいます。
現在の試算では、球場が満員となる3.5万人の動員があった場合の移動手段は、以下のように予想されています。
・JR千歳線;1.35万人(多くが北広島駅~新球場間のシャトルバス利用)
・新札幌など各方面からのバス:7000人
・自家用車:1.2万人(駐車場4000台、1台3人乗車で想定)
バスは最大で2万人近くの観客を輸送することになります。その輸送力の確保は可能なのか、現在の状況を見ていきましょう。
悩ましい新球場の「バスどうする」問題 運転手足りない!まず新球場から各方面のうち、JR・地下鉄が接続する新札幌駅方面のバスは、北広島駅~札幌市内へのバス路線を運行している北海道中央バスと、ジェイ・アール北海道バス(以下、中央バス・JRバス)によって運行される見込みです。
この他にも江別・福住方面へのバス運行が検討されていますが、上記2社は現在請け負っている札幌ドーム試合開催時のシャトルバスでも、減便や系統ごとの運行休止を余儀なくされるほど、運転手不足が顕著。両社ともこれ以上の協力には難色を示しているため、FSEは貸切バス事業者に協力を仰ぐ方針です。
しかし北海道は、貸切バスの最大手でも保有台数50台程度で、安定した供給には不安を残します。かつて頻繁に起きていた繁忙期のバス不足はコロナ禍の影響で落ち着いているものの、北海道全体で見てもコロナ禍による解雇の7%を運輸関係が占めるほどの状況で、事業を既に大幅縮小しているケースも見られます。
加えて、スポーツ興行は出場選手や成績で動員数が左右されることも多く、かつ新駅が開業すると、これらの需要の大幅な減少は必至。

現在の新球場へのアクセスは北海道中央バス「総合体育館前」で下車(宮武和多哉撮影)。
また、JR北広島駅~球場間バスの運行に向けて、北広島駅では2023年3月までに乗り場が整備され、その背後に地上18階建ての複合施設(2027年度完成予定)が建設される予定です。このシャトルバスは千歳総互観光バス、北海道バスを中心に運行される見込みとなっています。
北広島駅から徒歩の場合は1.7km(遊歩道「エルフィンロード」経由)かかることもあり、歩行者の比率を増加させるのは難しそうです。仮に、定員が50人少々の大型車両を使ったピストン輸送でも、それなりのバス待ちが生じるでしょう。
他地域の事例は参考になる?他地域を見ると、シャトルバス依存度が高い福岡PayPayドームは、地下鉄の最寄り駅(唐人町)まで1km少々。加えて、各方面から球場へ30~40台のバスを試合ごとに出せるのは、バス業界最大手「西鉄バス」の営業エリアだからこそでしょう。駅と本拠地が離れているチームも多いサッカー・Jリーグでは、球団が鉄道の延伸活動に向けて署名を行ったり(浦和レッズ)地元の最大手バス会社との協定を結び、普段から関係を深めたりと(清水エスパルス&静鉄バス)、交通機関との連携を深めている例があります。
輸送力の確保に課題を残す北海道の新球場ですが、乗降をスムーズに行える取り組みも必須になるはずです。バスの優先運行(埼玉スタジアムなどで事例あり)などを検討してもよいのではないでしょうか。
開発が進む北広島、ファイターズとともに盛り上がるか?新球場の建設が進む北広島市は、商業地としての地価上昇率が全国1位を記録するなど、新球場以外のエリアも注目度が高まりつつあります。

JR北広島駅(宮武和多哉撮影)。
一方、現在の北海道日本ハムファイターズの本拠地である札幌ドームは、開業から20年以上が経過しています。先ごろ札幌市は、ファイターズ移転後に野球以外の興行開催で900万の黒字を確保する見通しを発表しましたが、サッカー・ラグビーに欠かせない天然芝のグラウンドを収納する可動ステージが近年故障に見舞われるなど、今後の不安も残ります。かつ、他地域ならラグビーの試合が多い冬場には、そのピッチが屋外に出されるためゲーム開催が難しいなどの問題もあります。
しかしサッカーJリーグ・北海道コンサドーレ札幌は、これからも札幌ドームを本拠地として使用します。ルヴァンカップで4年連続のグループステージ突破を決めるなど実力は安定し、これからも熱い声援が送られることでしょう。“BIG BOSS”こと新庄剛志監督が率いるファイターズ、“ミシャ”ことミハイロ・ペトロヴィッチ監督が率いるコンサドーレ、どちらも多くの観客で賑わうためにも、お互いに観客輸送の充実が求められそうです。