2023年に市場投入を目指すヤマハの新モビリティ「トリタウン」の市販直前モデルが公開されました。その場所は、必ずしもモビリティとは関係しない、イベント関係者が集う展示会場。
2022年6月29日、東京ビッグサイトで開催された「イベント総合EXPO」で、ヤマハ発動機の「トリタウン」(TRITOWN)が展示されました。
ヤマハ「トリタウン」乗車イメージ(画像:ヤマハ発動機)。
トリタウンはヤマハが2023年に市場投入を目指す立ち乗りタイプの3輪(前2+後1輪)電動モビリティです。電動キックボードにも似ていますが、乗り味はまったく別。スキーに似た体重移動でひらりと方向を変えることのできるのに安定感がある。乗って楽しい新しいモビリティです。今回展示されたのは、2019年に実証実験で使われたナンバー取得済み車両と、白黒のカモフラージュ柄に覆われた市販直前モデルの2台。
一見してわかるのは、同社のバイク「トリシティ125/155」や「NIKEN」でも使われている前2輪の機構「LMW(Leaning Multi Wheel)」の部材強化です。コンセプトモデル→実証実験車→市販直前モデルと進化する過程で、デザインから耐久性重視に軸足を移し、特に市販直前モデルでは前2輪の傾斜(=Leaning)を支持する水平方向の鋳造部材が太く肉厚になっていることがわかります。
トリタウンの加減速は、同社のスノーモビルや四輪バギー(ATV)で採用される親指でレバーを押し下げて加速する方法。転倒などのアクシデント時に、すぐに指が離れることを考えていますが、市販直前モデルでは、このレバーが大きくなって、より操縦しやくなっています。
カモフラ柄で覆われた車体は、実証実験車よりホイール周りを含めてカバーされる面積が増えて、スクーターのような親しみやすさが増すような気がします。
電動キックボードが出回る前から発表されていたトリタウンは、世界的なバイクメーカーであり、電動アシスト自転車のパイオニアというパーソナルモビリティの二極を担うヤマハが、そのはざまにある新しいモビリティを模索した結果でした。
「ラストワンマイルを楽しく快適にする」をテーマに、2017年の東京モーターショーでコンセプトモデルを世界初出展。国内で電動キックボードが出回る前に新しいモビリティとしていち早く提案し、2019年には岐阜県のJR高山駅前で公道実証実験を行うなど各地でテスト走行を繰り返し、市場投入のチャンスを伺っていました。しかし、その後は新型コロナ禍の影響もあり目立った動きがないままとなっていました。
展示したのが「イベント総合EXPO」だったワケ潮目が変わったのは2022年2月。新中期経営計画(2022~2024年)が発表され、トリタウンが「新規事業のモビリティ新領域」と位置付けられたからです。トリタウンはここで初めて表舞台に。2023年中にグローバル市場で投入されることが目標として掲げられました。
では、日本国内での市場投入はどうなるのか。今回トリタウンが展示された場所が、ヤマハの姿勢を端的に示しています。
「イベント総合EXPO」の来場者は、イベント主催者、企画会社、レジャー・商業施設、自治体等の関係者です。足を止める来場者の多くは、トリタウンを初めて目にしていたはず。
トリタウンや電動キックボードなどの新しいパーソナルモビリティは、都市部でのシェアリングで知られていますが、視点を遊園地などの商業施設関係者に移すと、利用者が広大な敷地を快適に回れる移動手段として注目されているのです。
ただ、期待先行で交通環境委整備が追い付いていない側面は否定できません。電動キックボードなどの新モビリティをめぐっては、2022年4月に改正道路交通法が国会で成立し、一定の条件で歩道も走行可能になるなど、現在の交通ルールより簡単に利用できるようになると目されています。しかし、その実行は2024年頃になりそうなうえ、詳細な車両規定も未定です。
ヤマハは、こうした国内事情をにらみ、まずはレジャー施設などでの市場投入を考えました。トリタウンの市場投入を担当するヤマハのPLEV事業推進部 桂雅彦主務はこう話します。
「このトリタウンは、歩いている人と同じ極低速でも安定して移動でき、乗ったまま停止することも可能です。乗って楽しいだけでなく、こうした特徴を活かして空港、工場など施設の巡回警備などにも活用できます」

イベント総合EXPOに出展された市販直前モデル。前2輪機構の部材強化などがなされている(中島みなみ撮影)。
トリタウンはミニサイクルと同じ14インチタイヤを採用。
「イベント総合EXPO」は7月1日まで。会場で運転はできませんが、この眺めの良さを実証実験車で体験することが可能です。