ロシアのウクライナ侵攻後、黒海に敷設された機雷について、ロシアとウクライナは「どちらが敷設したのか」という点などで批難の応酬をしています。本稿では侵攻当初からの状況を検証し、その実態と今後の課題を探ります。

黒海の漂流機雷、トルコやルーマニアにも到達

 ロシアの海上封鎖でウクライナの穀物や石油の輸出が停滞、世界に影響が及んでいます。そのようななか、海上封鎖に関しては黒海北部の制海権を握るロシア艦隊だけでなく、機雷も大きな原因となっています。いま黒海で何が起こっているのか、機雷に着目してみました。

 そもそも黒海に仕かけられた機雷は、ロシアによるウクライナ侵攻の早い段階から問題になっていました。侵攻そのものは2月24日に始まりましたが、3月初頭、エストニアの貨物船がオデーサ沖で沈没、乗組員4名が行方不明となりました。3月18日には黒海東部のロシア領ノヴォシロスクの港湾局が、オデーサなど西部沖にウクライナが設置した機雷のうち約420個の鎖が緩んで漂流していると警告を発しています。

 ウクライナは、そのうち372個のR-421-75機雷は、すでに2014(平成26)年のクリミア紛争でロシア軍に接収されているとしたうえで、自衛権の行使により機雷を敷設したと公式に認めています。

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ウクライナに供与される予定のイギリス製サンダウン級掃海艇(画像:アメリカ海軍)。

 そうしたなか、3月26日にボスポラス海峡の入口付近でトルコの漁船が最初の機雷を発見。28日には2つ目、4月6日にはトルコ北岸のケフレン島付近で3つ目が確認されました。これによってトルコ沿岸では漁業に影響が出ています。また、ルーマニアでは3月29日にコンスタンツァ沖で機雷が報告されています。

この機雷は突起にキャップが付いたままで、いずれも旧ソ連製でした。

 3月末にロシア国防省は、2月25日から3月4日にかけてウクライナの掃海部隊が黒海に370個、アゾフ海に50個の係維機雷を敷設しており、そのうち10個が漂流していると発表、ウクライナを非難しています。その後ロシアは5月26日、アゾフ海のマリウポリ港から機雷を掃海したと発表しました。ところが、6月30日にロシア軍のオンダトラ級上陸用舟艇D-106がマリウポリ沖で触雷して沈没しています。

 上記のようにウクライナは機雷の敷設を認めていますが、ロシアは一方的にウクライナによるものと主張しています。ただ、そうはいっても戦術的に機雷の位置と数は、あとで掃海するために記録し、戦時中は機密とするはずのなか、なぜロシアが機雷の数を把握できているのか、疑問は残ります。

黒海の機雷、大半はロシアが敷設?

 そもそも機雷には大きく分けて「沈底式」「係維式(けいいしき)」「浮遊式」の3種類が存在します。

「沈底式」はその名のとおり、海底に沈降させておくタイプのもの。「係維式」は機雷本体が海底に沈んだ係維器に鎖で繋がれているため、潮流などで流されることはありません。それに対し、「浮遊式」は海面を漂うタイプの機雷で、潮流で広範囲に拡散し、船舶の航行に支障をきたすので厄介です。浮遊式はハーグ条約で禁止されており、今回見つかった浮遊する機雷については触角にキャップが付けられたままなので、威嚇目的なのか手違いで漂流したのか不明です。

 機雷はウクライナにとって敵の上陸阻止の役割を果たします。

一方、ロシア軍にとっても、黒海艦隊による海上封鎖に加え、機雷による港湾の閉塞という二段構えの策として、大きなメリットがあります。

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ウクライナに供与される予定のイギリス製サンダウン級掃海艇。2008年にペルシャ湾で掃海中の様子(画像:アメリカ海軍)。

 前述のとおり2月24日に侵攻を開始したロシア軍は、28日にアゾフ海のベルジャンシクを占領し、東のマリウポリは3月9日から攻撃を開始しています。西部ではオデーサ沖から砲撃やミサイルを撃ち込みました。アゾフ海では、ウクライナ海軍は早期に艦艇をロシア軍に鹵獲(ろかく)されており、機雷を敷設する余裕はありません。

つまり、進攻当初から黒海艦隊が制海権を握っており、西部でウクライナが機雷を敷設できるのは沿岸の水路に限られているという状況です。

 ロシアにもウクライナにも、機雷敷設艦はありません。第2次世界大戦後、機雷敷設艦を使っている国はほとんどなく、通常は補助艦艇や潜水艦、航空機が主体となって機雷敷設作業を行っています。

 その流れを受け、ロシア黒海艦隊には機雷敷設も行える汎用性に富んだ補助艦艇が多数あり、加えて所属するキロ級および改キロ級の通常動力型潜水艦は、24基の機雷を魚雷発射管から射出できるほか、船体外部のラックにも搭載できるようになっています。

 上記のような両国軍の現状に加え、機雷の敷設は危険を伴うため数百個もの数となると、その作業には時間がかかるといえるでしょう。したがって、敷設を行う艦艇の数や制海権を考えると、機雷の大半はロシアのものと考えるのが妥当なのです。

現状、ウクライナに掃海艇は無し

 さらに、機雷を除去する掃海艇についても検証してみましょう。

 ロシア黒海艦隊は2022年7月現在、9隻の掃海艇が現役です。対して、ウクライナ海軍は旧ソ連からの独立後に掃海艇5隻をロシア黒海艦隊から譲渡されています。そのうち2隻は2012(平成24)年と2013(平成25)年に相次いで退役、2隻は2014(平成26)年のクリミア紛争でロシア側に拿捕されており、最後の1隻も今回のロシア侵攻直後の2022年3月に鹵獲されています。

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2011年にリビア沖でイギリスの掃海艇が「シーフォックス」を使って機雷の探査と爆破処理を行う様子(画像:イギリス政府)。

 ただ、このようななかウクライナは、2021年6月にイギリスからサンダウン級掃海艇2隻を供与してもらうことで合意しています。とはいえ、この2隻は2022年秋と2023年に引き渡される予定であることから、今回の戦争中の実現は難しい状況といえるでしょう。

 なお、2022年4月にデンマークからドイツ製の対機雷無人探査機「シーフォックス」を供与されており、ウクライナにとって、2022年7月現在、これが唯一の掃海装備となっています。

 ロシアはオデーサ沖の機雷をウクライナが掃海すれば、穀物などの海上輸出を認めるとしていますが、これは、ウクライナに掃海能力がないのを承知で、暗にロシアが把握できていないウクライナ側が敷設した機雷の掃海を要求しているとも取れます。つまり輸出を再開したければNATO(北大西洋条約機構)で掃海しろという政治的意図もうかがえそうです。

もしかしたら海上自衛隊にも声掛けが…

 ウクライナ政府は、黒海の機雷の影響で84隻の外国船が足止めされており、およそ2000万tにのぼる穀物輸出に影響が出ていると発表しています。イギリスは西側諸国による輸送船団の派遣を提案しましたが、これを実行するには、まず掃海作業が必要でしょう。

 しかし、黒海の掃海は休戦にならないと開始できず、仮に始めても数か月にわたる大規模な作業になります。現在確認されている機雷はオーソドックスな係維式と考えられますが、ロシアが筐体(きょうたい)に誘導魚雷を内蔵したホーミング機雷を使用している場合は、かなり厄介なことになりそうです。

 そうなると、誰が掃海するのか。黒海沿岸で有力なトルコは、ウクライナ沿岸に艦艇を派遣するのはロシアとの関係から難しいでしょう。NATO内で最も可能性が高いのはイギリスですが、黒海における機雷除去は、湾岸戦争後のペルシャ湾で行われた掃海作戦並みの大規模な活動になるといわれています。

 そのような大規模な活動の場合、イギリスだけでは手に余る状況になると考えられることから、この喫緊の課題を解決するために、もしかしたら歴史的にも経験豊富な海上自衛隊に声がかかる可能性も捨てきれないといえるでしょう。