アフリカのブルキナファソで、今年2度目になる軍事クーデターが発生しました。こうした軍事力を背景とした「国盗り」は、現代国際社会においてどのように扱われるのでしょうか。

「クーデターのその後」を国際法の観点から解説します。

今年2度目 ブルキナファソでクーデター発生

 2022年9月30日、アフリカ大陸西部に位置するブルキナファソで、イブラヒム・トラオレ大尉に率いられた軍の一部がクーデターを起こし、現政権の退陣、憲法の停止、陸路および空路の国境の閉鎖、夜間外出禁止令などを発表ないし発出しました。

 実は、それまで国内で実権を掌握していたポールアンリ・サンダオゴ・ダミバ中佐も、今年1月にやはり軍事クーデターによってその地位を得ており、つまりブルキナファソでは今年に入り2度も軍事クーデターが発生したことになります。

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ブルキナファソ空軍の練習機、レオナルドSF-260(画像:Andre Wadmanmodified by FOX 52、CC BY-SA 4.0〈https://bit.ly/3bAbs4g〉、via Wikimedia Commons)。

 その背景には、近年勢力を拡大しているイスラム過激派テロ組織による国内情勢の不安定化があるとされており、さらに同国内では、かつての宗主国であるフランスの影響から逃れ、新たにロシアによる支援を得ることでテロとの戦いを進めるべきとの意見が強く主張されるなど、国際情勢とも決して無関係ではない問題が発生しています。

ウクライナ製装甲車も運用するブルキナファソ軍

 一般的に、軍隊はその国における最強の武力を持つ集団であるため、力による軍事クーデターの鎮圧は容易ではありません。

外務省の調べによると、ブルキナファソ軍は総勢1万1200人で、その内訳は陸軍が6400人、空軍が600人、そして憲兵隊4200人となっています。

 陸軍では、アメリカ製で第2次世界大戦中に開発された「M8」装甲車をはじめ各国製の装甲車を多く運用しており、中にはウクライナのAvtoKrAZ(アウトクラーズ)社が開発した「KrAZ-Shrek-M」も含まれています。

 また、空軍ではブラジルのエンブラエル社が開発したEMB 314「スーパーツカノ」軽攻撃機といった固定翼機や、アメリカ製のUH-1汎用ヘリコプターなどを運用しています。

「クーデターで生まれた政権」は他国からどう扱われるの?

 ところで、こうした軍事クーデターなどによって新たな政権が誕生した場合、国際法上はどう扱われるのでしょうか。

 まず、クーデターや革命など「その国の憲法などに規定された手続きに則らない形」で新たな政府が成立した場合に、これを他国が承認することを「政府承認」といいます。ちなみに、これと似た言葉として「国家承認」というものがありますが、こちらは新たに誕生した新国家を他国が承認することを指します。

ブルキナファソの場合、「政府」は代わりましたが「国」としては変わっていませんので、現時点で関係するのは政府承認のほうです。

「軍がクーデターで国盗り」その後はどうなる? ブルキナファソの軍容と「政府承認」
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AvtoKrAZ社の「KrAZ-Shrek-M」装甲車。MRAP(耐地雷・伏撃防護車両)基準に従って設計された(画像:AvtoKrAZ)。

 本来、ある国の政府がどのように選ばれるのかはその国の自由であり、外国がそれを承認する、もしくは承認しないというのは、一見すると内政干渉にも見えます。しかし、非合法な手段で新政権が成立した場合、この新政権がその国を本当に実効的に支配することができているのか、言い換えれば新政権が真にその国を代表する政権であるかどうかを確認する必要が出てきます。そこで、こうした場合に「政府承認」が重要な意義を有してくることになるわけです。

そのため、たとえば選挙の結果として政権が交代するなど、国内法上問題ない形で誕生した新政権については、政府承認の対象とはなりません。

 政府承認について、かつて「革命やクーデターにより誕生した政府に関しては承認を行わない」という「正統主義」が唱えられたこともありましたが、一般的には新政府が国内を実効的に支配しているかどうかを基準とする「事実主義」に基づきその可否が判断されます。

 ただし、たとえば1991(平成3)年に南米の島国ハイチで発生した軍事クーデターに際して、同国内での人権侵害や民主主義などの観点から、国連総会においてこのクーデターの結果を受け入れないという決議が採択されたことなどを踏まえ、政府承認に際して国内における事情が全く無視されるわけではないとの見方もあります。

政府承認をしないままお付き合いするケースも…?

 しかし、近年ではこうした政府承認そのものを行わず、単に新政府との外交関係を結ぶかどうかを判断するにとどめる、いわゆる「政府承認の廃止」が、アメリカやイギリスなど主要国の間で見られるようになっています。

 これにはさまざまな理由がありますが、たとえばある国で誕生した新政府が、旧政府を打倒する際に非人道的な手段を用いた場合、政府承認をすればその非人道的な手段の実行をも承認することになりかねないことなどが挙げられます。

「軍がクーデターで国盗り」その後はどうなる? ブルキナファソの軍容と「政府承認」
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ブルキナファソ空軍も配備するEMB 314「スーパーツカノ」軽攻撃機。
写真はアメリカ空軍の軽攻撃機選定でテスト中の同機(画像:アメリカ空軍)。

 日本はこうした国々とは異なり、現在でも政府承認の実施を維持しています。

 2022年10月現在、外務省のホームページにある「ブルキナファソ基礎データ」によると、ブルキナファソ政府はラッシーナ・ゼルボ首相をはじめとする2022年1月の軍事クーデター以前の状態のままとなっており、また軍事クーデターを受けて発表された外務報道官談話においても、軍の一部兵士によるクーデターを強く非難したうえで、「ブルキナファソにおいて憲法に基づく秩序が早期に回復されるよう呼びかけます」と明記されています。

 したがって、現在のところ日本はブルキナファソにおけるクーデターの結果生じた勢力に対して政府承認を与えていないと考えられますが、今後の動向に注目が集まります。