東京ビッグサイトで開催された危機管理産業展に、法務省の特別部隊「SeRT」が初めて装備品展示で姿を見せました。警察ではなく法務省の実力組織、どのような業務をしているのか、隊員に直接ハナシを聞きました。

東京ビッグサイト初展示のSeRT指揮官車

 2022年10月5日から7日にかけて東京ビッグサイトで開催された危機管理産業展で、珍しい「法務省の特殊車両」が展示されました。

 鮮やかなスカイブルーを基調に白いラインが入ったこのクルマは、同省矯正局の実動部隊「特別機動警備隊」に配備されている指揮官車で、ベースに用いられているのはマツダ「CX-8」、その車体には「MOJ」と「法務省矯正局」の文字が描かれています。

 ハナシを聞くと特別機動警備隊はまだ発足してから3年余りしか経っていない、ルーキー組織だとか。ただ、すでに警察や消防、自衛隊と共に災害復旧や救援活動にも出動しているそう。この新しい組織と新しい車両について見てみましょう。

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法務省の特別機動警備隊が運用するマツダCX-8ベースの指揮官車(深水千翔撮影)。

 法務省の特別機動警備隊は2019年4月1日に、同省矯正局長の直轄部隊として東京拘置所(東京都葛飾区)に設置されました。

 略称は「SeRT(Special Security Readiness Team)」もしくは「特機」。刑務官で構成され、規模は隊長以下2個小隊約60人です。おもな任務は矯正局が管理する刑務所や拘置所、少年院などの矯正施設で、暴動や逃走、災害など緊急の対応が必要となる「非常事態」が発生した場合、迅速に展開して対処に当たることで、その役割を果たすために指揮官車をはじめ資材輸送用のトラックや人員輸送車両を保有しています。

 活動の範囲は日本全国になるため幅広く、暴力団幹部の出所に伴う施設警備から、災害時の復旧や警備活動まで行っています。2021年7月に熱海市で起きた伊豆山土石流災害では、熱海警察署などと連携して立ち入り禁止区域周辺の交通規制などを実施。

2022年9月に起きた静岡県清水区の大規模断水では静岡刑務所と協力し、入浴場の開設や臨時のシャワーブースの設置などを行いました。

法務省「特別機動警備隊」の役割

 特別機動警備隊が作られた背景には、東日本大震災で矯正局職員が被災地救援で実績を残したことと、頻発・激甚化する自然災害や将来起こり得る巨大地震に備えるため、高い能力を持った自己完結型の常設部隊が求められていたことが挙げられます。

パトカー? 赤灯付けた青いCX-8に乗る“刑務官” 法務省の実力組織「特別機動警備隊」とは
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特別機動警備隊に配備されているレスキューキッチン(深水千翔撮影)。

 矯正局はこれまで、刑務所などの矯正施設で非常事態が発生した場合、あらかじめ指名された職員によって臨時に組織される管区機動警備隊を派遣して対処していました。

 しかし、これは非常設の部隊で、隊員はそれぞれ所属する刑事施設にて本来の業務に従事していることから、隊員の招集や必要人員の確保に時間がかかり、一体的な運用に支障が出ていたのです。

 一方で、刑務所は建物が頑丈にできているうえ、独自に非常食を蓄えていることから、地方自治体が矯正施設を防災拠点とする動きも広まっています。加えて災害発生時に、矯正施設が持つ保安警備力を地域住民のために提供することも求められつつありました。

 このため特別機動警備隊は、「警備」と「災害」の両方に対処が可能な専門部隊として位置づけられています。ゆえに危機管理産業展では、警察の機動隊などが用いる出動服とプロテクターを組み合わせたもの以外に、消火活動で使用する防火服が展示されていました。

指揮官車にCX-8が選定されたワケ

 全国に展開する必要がある特別機動警備隊には、隊長などが乗車して現場に急行する指揮官車としてディーゼルエンジンを搭載したマツダCX-8が配備されています。

 マツダによれば、選定理由は「がれきなどがある災害現場でも確実に到達できる走破性能」「指揮官を含め多人数乗車ができること」「特別機動警備隊の認知を高めるに相応しい、スタイリッシュさと存在感」この3点が高く評価されたからだといいます。

パトカー? 赤灯付けた青いCX-8に乗る“刑務官” 法務省の実力組織「特別機動警備隊」とは
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特別機動警備隊が用いる消防服。
ヘルメットに「法務省」の表記がある(深水千翔撮影)。

 CX-8は、3列シートを備えるため最大7人が乗れるほか、災害時でもガソリンに比べて入手しやすい軽油を燃料とするディーゼル車だというのがメリットで、その点もマツダは長所として明記していました。

 外観は、スカイブルーに白いラインが入ったカラーリングと、ルーフ上部に設置された赤色警光灯が目につきます。これは特別機動警備隊が運用するトラック(資機材運搬車)などとデザインを合わせることで、車列を組んださいの統一性を持たせつつ、先頭を走る指揮車として相応しい雰囲気を持たせるためだそう。

 なお、フロントグリル内側には点滅灯が埋め込まれており、加えて設置場所は衝突時に歩行者の頭部を保護する「アクティブボンネット」のセンサーを邪魔しない位置となっています。

 法務省矯正局特別機動警備隊は、2022年6月に総務省消防庁が策定した「大規模災害時の救助・捜索活動における関係機関連携要領」において、消防、警察、海上保安庁、自衛隊といった実動部隊を補完する機関として位置づけられました。

 これまで刑務官といえば刑務所の中だけで仕事をしているイメージでしたが、今後は災害対処など矯正施設の外側で見かける機会が増えそうです。

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