JR東海が発表した東海道新幹線の将来的な取り組みに「グリーン車の上級クラス座席」「ビジネス環境を一層高めた座席」との記述がありました。どのような背景と意図があるのか、JR東海の思惑を探ります。
JR東海が2022年10月31日、将来の取り組み方針として「グリーン車の上級クラス座席」「ビジネス環境を一層高めた座席」の検討を明らかにし、ネットを中心に大きな話題を呼んでいます。
最新の新幹線車両N700S(乗りものニュース編集部撮影)。
SNSなどでは「JR東日本の『グランクラス』がついにJR東海にも」という声が多くみられ、「東海道新幹線にこそ必要」「上級のビジネス層の受け皿としてあってもいい」と、好意的な反応が散見されます。
この「上級クラス座席」「ビジネス座席」は一体どのような座席となるのか? 車両運用は?――話題が過熱する中、JR東海の広報担当者は「あくまでひとつのイメージとして挙げています」と話します。
「今回は、新幹線をより快適にする取り組みのひとつとして『多様なニーズに応じた高付加価値サービスの提供』という方針をまず、打ち出しました」
なぜ今この方針発表に?今回この方針を打ち出した背景として、JR東海はコロナ禍によって変化した人々の行動様式への対応を挙げています。対面でのビジネスシーンは引き続き行われていくとしながらも、Web会議などの浸透により、「移動中にも仕事をする」というスタイルが定着しつつあるとしています。
それをいち早く試行したのが、昨年10月に「のぞみ」7号車へ導入された「S Work車両」、そしてことし5月にN700Sの一部車両へ導入された「ビジネスブ―ス」です。
「S Work車両」はより利便性の高いWi-Fiを提供し、キーボードの音や通話なども許容するというコンセプトの車両。「ビジネスブ―ス」は7号車と8号車のあいだのデッキ部にあった喫煙スペースを改装し、個室のテレワーク空間としたものです。
JR東海によると、ことし5~9月の「ビジネスブ―ス」の利用実績は、「のぞみ」777本で1084回、「ひかり」126本で96回、「こだま」126本で127回。「のぞみ」では1回の運転あたり平均して1.4回の利用がある計算になり、走行中に入れ替わり複数の利用に供されているといいます。
この結果をふまえても、以前とは明らかにニーズが多様化していることが見て取れ、それが新しい発想による「高付加価値サービス」の提供で対応していきたいと、JR東海は今回の発表で見立てています。
とはいいつつも、あわせて「上級クラス座席」には、潜在的な収入拡大の余地を探っている様子が見て取れます。それが発表資料の最後に挙げられた「経営体力を最強化し、投資とサービス改善の好循環を実現します」というものです。
ここで気になるのが、先に導入された「グランクラス」です。JR東日本とJR西日本が東北・北海道・北陸新幹線で導入している「グランクラス」は、高級感ある座席設備だけでなく、軽食やドリンクなどが提供されるのが特徴です。
しかし変化が訪れたのがことし10月、北陸新幹線の「グランクラス」で料金値下げとともに、軽食と飲料の提供が終了となったのです。これについてJR西日本は「ご利用状況に鑑み」としています。
JR東海は資料で発表した「高付加価値サービス」について、先述のとおり「サービス充実の一つの検討例」とするにとどまっています。「グランクラス」が当初の姿から変化していく中、東海道新幹線はまず「『多様なニーズ』の何を正解とするか」の見極めに迫られています。