航空自衛隊の最新装備であるKC-46A空中給油・輸送機は、一見すると従来のKC-767と変わらないように思えます。なぜ似たような機種ながら、名称が違うのでしょうか。
2023年5月28日(日)、鳥取県の境港市に所在する美保基地航空祭で、航空自衛隊の最新装備KC-46A空中給油・輸送機が初めて展示飛行を行いました。
KC-46Aは、ボーイング767旅客機がベースの軍用機です。元々はアメリカ空軍向けに開発されたもので、日本も航空自衛隊向けの新たな空中給油・輸送機として2015年に採用を決定。初号機は2021年10月29日に日本へ到着、2号機も2022年2月24日に到着したものの、このころはコロナ禍の最中であったため、航空祭などは開催されず、今年(2023年)の航空祭でようやくお披露目されたのです。
ただ、航空自衛隊にはすでにKC-767という空中給油・輸送機があります。しかも同機もKC-46Aと同じくボーイング767が原型です。なぜ同じような機体ながら型式名は全く異なるのでしょうか。そこには、アメリカであった一大汚職事件が大きく影響していました。
2023年の美保基地航空祭で一般公開されたKC-46A空中給油・輸送機(布留川 司撮影)。
従来アメリカ空軍にはジェットエンジン搭載の大型空中給油機として、KC-135とKC-10の2種類が存在しました。ただ、前者は初飛行が1956年8月であり、1990年代後半に入ると老朽化が顕在化します。
そこでアメリカ空軍は、まず約100機のKC-135を更新する調達計画を立ち上げます。そこで選ばれたのが、KC-767だったのです。
2003年頃には100機のKC-767をリース契約で空軍が運用する案が持ち上がりました。しかし、このリース契約はボーイングだけの単独指名で進められたことから議会に問題視され、さらに導入に関連した調達スタッフの汚職問題まで発覚したことで、最終的に契約自体が撤回されてしまいます。
ボーイングの執念? 紆余曲折を経て新型機へ進化したKC-767こうして、汚職と契約内容の問題から採用中止となったアメリカ空軍向けのKC-767でしたが、KC-135の老朽化問題から新しい空中給油機の導入は急務であることは変わりませんでした。そこでアメリカ空軍は2007年に新たなKC-X計画(便宜上、新KC-Xと呼称)を再び立ち上げ、次世代空中給油機の導入計画をリスタートさせます。
新KC-Xには、アメリカのボーイングのほかに、ヨーロッパのEADS(現エアバス・グループ)が参加。EADSはエアバスA330型機をベースにした空中給油・輸送機A330 MRTTを、アメリカ企業であるノースロップ・グラマン社を主契約社としてKC-30の名称で提案します。一方のボーイング社はKC-767の機体を大型化し、コクピットやフライングブースシステムを発展させた新型KC-767「アドバンスト・タンカー」を提案します。

2023年の美保基地航空祭で一般公開されたKC-46A空中給油・輸送機(布留川 司撮影)。
当初、新KC-Xで選ばれたのはA330ベースのKC-30の方で、アメリカ空軍からKC-45Aという名称まで与えられました。しかし、この決定にボーイングが異議を申し立て、アメリカ会計検査院がこれを支持。
その後、ノースロップ・グラマンとEADSは、KC-30の提案を取り下げて、KC-X計画からの撤退を決定。最終的に残ったKC-767ベースのボーイング案がアメリカ空軍の次世代空中給油機として採用されます。こうして採用された機体こそが、現在アメリカ空軍や航空自衛隊が導入を進めているKC-46A「ペガサス」なのです。
KC-767運用するイタリア空軍も導入を検討このようにKC-46Aは、KC-767よりも新しく、かつ再設計されているため、一見すると似ているものの、全長と全幅の両方で大型化しており、燃料搭載量についてはKC-767の72.877tに対してKC-46Aは96.297tと約24tも増えています。
航空自衛隊では2013年に策定された25防衛大綱に基づいて新しい空中給油機の追加購入を決定。新しい機体の選定を行った結果、この新しいKC-46を購入することを決めました。

航空自衛隊のKC-767空中給油・輸送機(画像:航空自衛隊)。
アメリカ空軍はKC-46Aを約170機以上も導入する予定で、2023年6月現在ですでに68機が納入されています。また、イスラエル空軍も4機の購入を契約済となっています。
KC-767を運用する航空自衛隊も、KC-46をすでに2機導入して鳥取県の美保基地にて運用中です。また、さらに4機が契約済となっており、これらは2024年までに納入される予定です。
なお、日本とともにKC-767を導入したイタリア空軍については、サポート契約をボーイング社と2025年まで契約しているため、当面は運用を続ける予定です。しかし、将来的にはKC-767AをKC-46相当の性能に引き上げる近代化改修を実施するほか、さらに2機のKC-46をKC-767Bの名称で新規導入して、航空自衛隊と同様にこれらを組み合わせて運用することを計画しているそう。
ただ、KC-767Aを改修するのは費用や技術面で問題があり、現在ではKC-767Bを6機導入して、従来のKC-767Aをボーイングに下取りとして出す案もあるそうです。