アイルランド沖にロシア軍の潜水艦が潜伏し、イギリス軍がそれを追跡していた事象が判明しました。同国は対潜装備がなく、どうするのか論議が起きています。

対潜戦能力が皆無でロシア潜水艦が度々出没

 2023年6月、アイルランドのコーク港沖合に潜伏していたロシア軍の潜水艦をイギリス海軍が監視・追跡した事象を、2023年12月12日にアイルランド軍関係者が明かしました。このことがアイルランドで波紋を呼んでいます。

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ロシアで代表的な潜水艦のひとつであるヤーセン型原子力潜水艦(画像:ロシア国防省)。

 第二次世界大戦から現在に至るまで、アイルランドは一貫して軍事的中立政策を取り、戦後に発足された北大西洋条約機構(NATO)にも非加盟です。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、フィンランドやスウェーデンが相次ぎNATOへの加盟申請を行うなか、アイルランドは未だ軍事的中立の立場をとり続けています。

 しかし、アイルランド海軍は漁業保護を中心とする艦艇が中心で、その装備はどちらかといえば沿岸警備隊に近いものです。

対潜戦能力は皆無なうえ、対空戦能力も極めて貧弱となっています。

 そのため、アイルランドの排他的経済水域や公海上では、脅威が少ないと判断したロシア潜水艦の動きが活発になっているようで、アイルランド海軍に代わり、イギリス海軍が監視を行っている状態です。

国防費増額へ! ただ不十分という意見も

 ロシア艦隊はこのアイルランドの沖合を、イギリスの弱点であると認識し、付近の海底ケーブルなどを調査していると考えられています。同海域には、イギリス諸島と世界の他の地域を結ぶ十数本の海底ケーブルが敷かれているそうで、単なるロシアの嫌がらせと過少評価することはできないようです。

 アイルランドの一部メディアでは、「国民を守るために国民国家は夜間に窓やドアを施錠できる必要があるが、現時点ではそれができていない」とも批判されています。

ロシア潜水艦がウロウロ…対抗できる艦艇ない! 狙われるアイルランド沖=「イギリスの弱点」?
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対潜哨戒用のヘリも搭載するイギリス海軍の23型フリゲート(画像:イギリス国防省)。

  国際情勢の変化を受け、アイルランド政府は2028年までに国防費を年間10億ユーロ(約1600億円)から15億ユーロ(約2300億円)へ増額する方針です。しかし、沖合の哨戒で使える艦艇はわずか2隻、そして空軍に関しても、ジェット戦闘機がイギリス製のデ・ハビランド バンパイアが退役してからゼロであり、これでも足りないという声もあります。また、軍の人手不足も深刻で、装備と並行して解決する必要があります。

 そのため、NATOには加盟しないまでも、欧州諸国との適切な協調関係を構築すべきとの声も国内ではあるようです。