物流運賃の約10%引上げを含む「2030年度に向けた政府の中長期計画」がまとまりました。関連法案の改正で「物流2024問題」の解決を目指します。
物流の停滞は深刻で、何も対策を講じなければ2024年には14%、2030年には34%の輸送力不足が生じると見込まれています。直面する物流問題に政府は2024年2月16日、「物流革新・賃上げに関する意見交換会」で2030年に向けた中長期計画をまとめました。
その最も大きな中身が、ドライバーなど労働者に対する6~13%(2024年度)の賃上げです。道路貨物運送業は最も価格転嫁が進まない業種であることが、昨年度の調査で明らかになっています。
政府主導で物流の賃上げが行われる。写真はイメージ(中島みなみ撮影)。
この根拠となるのは「標準的運賃」の引き上げと、標準的運賃には含まれていない荷積みや荷下ろしなど荷役作業の料金転嫁です。荷役作業は荷主の要求のほか、物流事業者が差別化する手段としても使われていて「適正に料金を収受しきれていない」(国土交通省)ものでした。
標準的運賃は国交省が距離制・地域別に告示する運賃です。まず2024年度の運賃を8%引き上げます。
標準的運賃には、労働基準法に基づく最低賃金のような拘束力はありませんが、この運賃改正により賃上げを目指すものです。
この日の意見交換会には、全農、経団連といった荷主団体と全国トラック協会、ヤマト運輸、佐川急便など物流団体などのトップが出席。この内容が了解されています。一定規模以上の荷主・物流事業者には、これらの内容を盛り込んだ自主行動計画の作成が義務づけられます。
また、多重下請構造の是正に向けて、元請運送事業者には、実運送事業者を荷主に通知することを運送約款に明記することも義務づけられます。
「荷待ち・荷役時間」をここまで減らせ物流ドライバーの労働時間は、全職業平均より約2割長いことも明らかです。その大きな要因の一つが、荷主から荷物が出るまでの待ち時間や、運んだ荷物を受け取ってもらうまでの待ち時間、いわゆる「荷待ち時間」と、荷物の積み込みのための「荷役時間」です。
2020年度の調査で、ドライバーの拘束時間約12時間に対して、荷待ち・荷役時間は、合計で3時間。岸田首相の下にある「物流の革新に関する関係閣僚会議」(2023年6月開催)では、この荷待ち・荷役時間を2030年までに3時間から2時間以内に短縮し、さらに1時間以内とすることが努力目標としてガイドラインに定められました。
ガイドラインは「1時間減らせ」政府目標は「30分以上減らせ」…食い違い?物流ドライバーの就労日数は年間250日です。
「ガイドラインはあくまで企業の自主的な取り組みであるのに対して、政府の中長期計画は実現すべき内容で、その趣旨に違いがある。ガイドラインの内容については、一定規模の荷主となる企業の半数が実現可能と回答しているので、平均的に考えると荷待ち・荷役時間は1時間の半分、30分は達成(削減)が確実と考えられる。そのため保守的に見積もって125時間の削減目標を掲げた」
復路の荷物も「取りに行け」トラックが空気を運んでいる、という積載率の問題も、輸送力が不足する大きな要因です。営業用トラックの積載率は38%。直近の約10年で40%を下回る数字で推移しています。平均すると、しばしば高速道路で過積載が問題になるイメージとは遠い実態です。そのため積載率を50%まで引き上げることが急がれています。
個社の枠を超えた共同配送や、往路だけ荷物を積むのではなく、復路でも荷物を確保することが求められています。

2030年度に向けた輸送力強化の中長期計画について説明する斎藤鉄夫国土交通相。2月16日(中島みなみ撮影)。
発注から納品までの期間(納品リードタイム)をできるだけ短縮しようとすると、トラックは空荷のまま帰らなければなりません。納品リードタイムを十分に確保することを規制的に実施し、納品リードタイムを短くせざるを得ない特別な事情がある場合には、自ら輸送手段を確保する「引取り物流」を規制的に実施することで、積載率をアップすることができるとしました。
現状維持では必要な輸送力が失われる――具体的な施策を積み上げて、不足する輸送力を確保する必要に迫られています。