半世紀以上続く「ボーイング737」最新派生型「737MAX」が、相次ぐトラブルに遭遇しています。半世紀ベース設計が同じであることも関係していそうですが、別のモデルの派生型を作るという手段はなかったのでしょうか。

ボーイング単通路機は「757」も

 アメリカの航空機メーカー、ボーイングの歴史上もっとも売れた民間機「737」シリーズの最新派生型「737MAX」が、相次ぐトラブルに見舞われ、存続の危機に立っています。同社は過去に、737と同じ単通路機(客室通路が1本)ながら、かつ設計も新しい「757」という旅客機を開発していました。こちらの設計を活用する手段はなかったのでしょうか。

安全性懸念の「ボーイング737」もう限界? 古い基本設計、繰...の画像はこちら >>

ボーイング737MAX「737-8」。サウスウエスト航空仕様機(乗りものニュース編集部撮影)。

 2024年1月5日、アラスカ航空1282便、ボーイング737MAXの「737-9」がポートランド国際空港を離陸後、上昇中に機体後部の固定されていた緊急ドアが突然機外に吸い出される事故が発生し、離陸したばかりのポートランド国際空港へ緊急着陸しました。

離陸からわずか20分のフライトでしたが、乗客たちは生きた心地がしなかったでしょう。怪我人を出してしまったものの、幸いにも全員が生還できました

 この事故で注目すべきは、事故機が約3か月前にボーイングから引き渡されたばかりの新しい機体であったこと。そして、アラスカ航空の仕様では後部緊急ドアは使用しないため、閉まった状態で固定されていたドアが吹き飛んでしまったことです。

 事故を受け、FAA(アメリカ連邦航空局)は迅速に対応。全世界の航空会社に向けて緊急航空改善命令を出して該当する機体の緊急点検を発令しました。さらに、事故原因の究明を行い、かつ中立性の観点から運輸省・FAA(アメリカ航空局)からも切り離された独自機関「NTSB(アメリカ国家輸送安全委員会)」もメーカーのボーイング社に対して90日以内に改善計画を策定して提出するよう求めました。

 そんな中、更なる問題が起きました。

 同年2月6日、メンフィスからヒューストン向かったユナイテッド航空2477便、同じく「737MAX」シリーズの737-8の機長が着陸後、方向舵が効かないことに気づきました。機体は滑走路をはみ出し草地の上で停止。乗客は全員無事でしたが、方向舵はボルトの欠落が発見されています。

 こうして2024年に入り、まさに“災難続き”となっている737MAXシリーズですが、製造時における品質管理の以外にも737シリーズの設計を現代にあてはめること自体が限界に来ているのでは……といった声が聞かれているのも事実です。

見えてきた「ボーイングで最も売れた旅客機」の限界

 初代737は1967年に初飛行。

以来、737シリーズは、57年にわたり、脈々とその歴史が続いてきました。

 ただこの間、エンジンの進歩が燃費向上・出力増加をもたらし、胴体も延長することが業界的に一般的になりつつあり、737シリーズもこれで乗客数を増やしてきました。しかし、改良は何度も行われていたものの、基本設計のなかにはそのまま踏襲せざるを得ない部分もあります。

 たとえば、主翼の位置が低いことです。初代737は乗客の乗り降りと荷物の積み下ろしを容易に行えるよう胴体の位置が低くなるよう設計されました。そのため、初期タイプのエンジンはパイロン(主翼とエンジンをつなぐパーツ)を介さず、直接主翼に取り付けられました。

 しかし、後に737シリーズは、この主翼の低さがエンジンサイズを制限してしまうことになります。

 近年、ジェット旅客機のエンジンは、大型であるほど燃費効率が上がる傾向にあるものの、現在の737シリーズではこれ以上直径の大きなエンジンを装備することができません。

 そのようななか、737の比較的新しいモデルでは、特殊なエンジン形状を用いて、十分なスペースを確保する取り組みを行いました。エンジンナセル(カバー)の下部を地面と平行になるように平らな形にし、「おむすび型」のような形状に変形させたのです。

 とはいうものの、エンジンナセルと地面のクリアランス(離隔)が少ないことは、横風に弱いことを意味します。というのも、横風の中では着陸時や離陸時に風向きに合わせて機体を傾ける必要があるからです。

ライバル「エアバスA320」に勝つには

 737シリーズのもう一つの問題は、ブレーキの制動能力の制約です。

 同シリーズの初期設計では機体の総重量は50トン前後でした。しかし、737MAXの最新タイプで、歴史上最も胴体が長い737シリーズである「737-10」では75トンまで増加しています。

 さらに初代737は飛行時間の短い短距離路線への投入が想定されていたため、着陸時に加熱したブレーキを飛行中に冷却できるよう、車輪格納時にもタイヤ部分は露出する設計を採用しています。

安全性懸念の「ボーイング737」もう限界? 古い基本設計、繰り返された魔改造… “選択肢”は他にもある
Large 02

ルフトハンザ航空のボーイング737-100(画像:Aero Icarus[CC BY-SA〈https://bit.ly/2YK9fua〉])。

 航空機の着陸滑走距離は離陸滑走距離に比べ短いため、これまで737のブレーキ容量は問題になることはありませんでした。

しかし、胴体延長にともない機体の重量が増してくると無視できない状態になります。

 ライバルの欧州エアバス社は、基本設計が新しい「A320」を主力製品としてきました。実はA320とボーイング737型シリーズを比較すると、着陸距離に大きな差が出る場合があるのです。

 エアバスA320では着陸後、滑走路の途中で誘導路に入るところ、ボーイング737は滑走路の先まで行ってから誘導路に入ることがあります。混雑空港においては少しでも速く滑走路から出ることが求められるため、前者の方がメリットは大きいです。これは2モデルの制動までの距離に差があることを示しています。

 737シリーズは「もっとも売れたボーイング旅客機」であり、根強い需要を持っているものの、制約も多く存在します。

 このような制約を克服する一つの方法として、737型後継機として、この半世紀で同社が開発した単通路機である「757」の新シリーズを開発することも、有効な手段ではないかと筆者は考えています。

 757は国内での導入はなかったものの、737より長距離飛行を見込んだ「727」の後継機種として生産され、アメリカではメジャーな旅客機モデルのひとつです。しかし2024年現在、ストレッチ(胴体延長)を繰り返した737最新シリーズは、もはや727と同じサイズにまで達しています。

 基本設計の余裕は安全面でも有利です。直径の大きな新型エンジンやウイングレット、「フライバイワイヤ(パイロットの操舵指示を電気信号で伝える仕組み)」などの最新技術を盛り込むことで、経済性・安全性の両面で優れた新型機になるのではと、筆者は想像しています。