シアトルを母港とするアメリカ沿岸警備隊の大型砕氷船「ポーラースター」が、アメリカ海軍横須賀基地に寄港しました。主任務は南極海周辺で氷を砕き航路を切り開くこと。

なぜ来日したのか、船長に話を伺いました。

アメリカ沿岸警備隊の大型砕氷船「ポーラースター」

 2024年3月11日、神奈川県にあるアメリカ海軍横須賀基地へ、非常に珍しい艦艇が寄港しました。アメリカ沿岸警備隊の大型砕氷船「ポーラースター」です。現在アメリカ沿岸警備隊が保有している唯一の大型砕氷船で、母港はアメリカのワシントン州シアトル。同船の横須賀基地寄港は、少なくとも直近25年間では初めてのとのことです。

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アメリカ海軍横須賀基地に寄港した、アメリカ沿岸警備隊の大型砕氷船「ポーラースター」(2024年3月12日、稲葉義泰撮影)。

「ポーラースター」は、南極にあるマクマード観測基地に物資や燃料、人員などを輸送するため、氷に閉ざされた南極周辺の航路を開き、後続の輸送船ための通り道を作ることを任務としています。「ディープ・フリーズ作戦」と名付けられたこの活動に、「ポーラースター」はこれまでに27回従事しており、今回の来日前にも南極で同作戦に従事していました。

 12日に行われた取材陣への船内公開に際してインタビューに答えたケイス・ロペラ船長によると、今年は厚さ最大4mもの氷を砕きながら、数週間かけて約60kmにおよぶマクマード基地までの航路を開いたとのこと。

 ちなみにロペラ船長によると、来日の理由は「南極での活動を終え、アメリカに帰国するまで少し余裕があり、そこで以前から日本に行きたいと思っていたので寄港を要請したところ、それが叶いました」とのこと。1976(昭和51)年就役の「ポーラースター」は、帰国後に長期の艦齢延伸工事に入りますが、その前の自由時間を過ごすための来日だったわけです。

「ポーラースター」にしかできない仕事とは

 前述の通り、「ポーラースター」は氷を砕きながら南極基地までの航路を切り開くのが仕事です。

氷が薄い海域であればそのまま突き進むことができますが、ときには厚さ数mもの氷を砕かなくてはなりません。その場合には、一度船をバックさせ、そこからエンジンの推進力を最大限にいかして氷に乗り上げ、自重により上から氷を砕くのだそうです。

 そうした特殊な仕事をこなさなければならないため、「ポーラースター」ではほかの船では味わえない快感を味わえるといいます。

「ぶつかるのが仕事です」アメリカの超レア艦艇が来日! ダイナミックすぎる“仕事のやりがい” 船長に聞いた
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取材陣の質問に答えるケイス・ロペラ船長(2024年3月12日、稲葉義泰撮影)。

「通常、船を操船する場合は何かにぶつかることを極力避けるようにします。しかし、我々の場合はぶつかっていくのです。

氷を砕いて進むのが仕事ですからね。これが非常に楽しく、面白いのです」(ロペラ船長)

 また、船内の食堂の壁には1枚の写真が飾られています。氷に閉ざされた南極を撮影した衛星写真です。よく見ると、うっすらと1本の線が見えるのですが、実はこれは「ポーラースター」が切り開いた航路を撮影したもの。乗員によると、自分たちの仕事を衛星から見られるというのも、この船ならではのやりがいなのだそうです。

北極海航路により変わる沿岸警備隊の体勢

 この「ポーラースター」を含め、現在アメリカ沿岸警備隊は2隻の砕氷船を保有しています。

もう1隻は1999(平成11)年に就役した中型砕氷船「ヒーリー」で、こちらは主に北極海での科学調査活動などを実施しています。

 しかし、近年の地球温暖化の影響もあり、北極海に関しては、船舶の航行が可能な新たな航路である「北極海航路」が注目を集めています。これにより、ヨーロッパとインド太平洋地域とを従来よりも格段に短い距離で結ぶことができるため、経済的なメリットが期待されていますが、同時に安全保障上の問題も浮上してきています。

 そこでアメリカ沿岸警備隊では今後、砕氷船の数を増やしていくことを計画しており、主に北極海での警備などを担うカッター(巡視船)として3隻の「極域警備船(Polar Security Cutter)」の整備を進めています。

 これは、「ポーラースター」と同じく大型砕氷船ではありますが武装しており、30mm機関砲などが搭載されます。2023年には、1番船「ポーラーセンチネル」の建造が開始されており、就役は2028年の予定です。

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今回の航海に関する行程表。母港であるシアトルを11月に出港し、帰国するのは4月の予定(2024年3月12日、稲葉義泰撮影)。

 この極域警備船が就役するまでは、「ポーラースター」は引き続きアメリカ沿岸警備隊唯一の大型砕氷船です。カリフォルニア州サンフランシスコで行われる艦齢延伸工事が終わると、「ポーラースター」は再び任務に戻ることになります。いつかまた、日本に寄港する機会が訪れることを願ってやみません。