シンガポール航空ショーでF-15SG戦闘機がデモ飛行の際に「フレア」という火の玉を連続射出していました。使い方についてシンガポール空軍パイロットのハナシを聞いたら、バリエーション豊富な射出方法を教えてくれました。

見た目キレイ、でも花火じゃないからね

 今年(2024年)2月下旬に開催された「シンガポール航空ショー2024」では、地元シンガポール空軍のF-15SG戦闘機がデモ飛行を行いました。

 その際、機体から花火のような火の玉を何度も投下、迫力ある飛行にさらに派手さを足すことで、会場から大きな歓声を得ていました。

 この火の玉は「フレア」と呼ばれるもので、映画「トップガン マーヴェリック」でも戦闘機が敵の地対空ミサイルの猛攻撃を受ける場面で使用していたので、見たことある人も多いのではないでしょうか。

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シンガポール空軍のF-15SGがデモ飛行中に短い間隔でフレアを連続投下。閃光と煙が束になっているのがわかる(布留川 司撮影)。

 フレアの役割は、敵のミサイルやセンサーを騙すための囮(デコイ)で、機体表面の投射装置(ディスペンサー)から射出されると、それ自体が約2000度という高温で激しく燃焼し、こちらに向けられたミサイルやセンサーを誤作動させる狙いがあります。

 また、ミサイルにはレーダーを使ったものもありますが、こちらの場合はレーダー電波に効果がある「チャフ」が使用されます。チャフはガラス繊維にアルミなどの金属を蒸着したもので、空中に散布されるとレーダー電波を反射します。これによってフレアと同じ仕組みでレーダー波を使ったミサイルやセンサーを誤認させます。

 ただ、チャフは見た目が派手なフレアと異なり、投下されても目視は難しいことから、映画やイベントで使われるのはもっぱらフレアだけとなってしまっています。

フレアの投下パターンは事前プログラムOK

「トップガン マーヴェリック」では、乱射という言葉がピッタリな感じでフレアを連続投下していました。今回のシンガポール航空ショーのデモフライトでも、シンガポール空軍のF-15SGはアクロバット飛行に合わせて様々なパターンでフレアを投下し、映画に負けないほどのインパクトある飛行を観客に見せつけていました。

 とはいえ、フレアの投下パターンは多種多様で、一定間隔で連続射出する以外にも、複数のフレアをほぼ同時に射出して巨大な火の塊を出現させることも可能です。

 また、デモフライトのラストには、フレア射出を続けながら低空からの垂直上昇機動を行い、会場正面にはフレアの煙によって地上から大空まで伸びる巨大なスモークの柱を描くといったことまで行っていました。

戦闘機の“火の玉”どうバラ撒くの? F-15のパイロットに聞いた 炎の温度は驚異の2000度!
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シンガポール航空ショー2024に展示された同国空軍のF-15SG戦闘機。垂直尾翼には同空軍の55周年を記念した特別塗装がされていた(布留川 司撮影)。

 いうなれば、フレアをショーの演出として見事に活用していたシンガポール空軍のF-15SGですが、会場には同型機が展示されるとともにパイロットも来場者の質問に気さくに答えていたので、筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)はフレアの操作法について聞いてみました。

 すると、彼は次のように答えてくれました。

「フレアの投下はスイッチを連打しているわけではなく、投下パターンを事前にプログラムすることができ、エアショーではそれを使っています。今回のエアショーでは見せるために連射したり同時投下したりしていますが、実戦では状況に応じてフレアだけを投下したり、チャフと組み合わせる場合もあり、状況に応じて投下パターンを設定する必要があります。F-15SGには前席にパイロット、後席にWSO(兵器システム士官)の2名が乗っていて、フレアやチャフの投下操作はどちらでも可能ですよ」。

「小指で押す」か、それとも「ひっぱたく」か?

 では、実際にフレアとチャフの投下操作はどのように行われるのでしょうか。それは機体によって異なります。

 F-15SGの場合は、パイロットはスロットルの左側面にあるスイッチで操作することが可能で、場所の関係から小指、すなわちピンキーで操作するために「ピンキー・スイッチ」という愛称で呼ばれています。

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デモ飛行の最後にフレアを投下しながら垂直上昇するF-15SG(布留川 司撮影)。

 一方、「トップガン マーヴェリック」を見ると、F/A-18「スーパーホーネット」のパイロットたちは赤ボタンを拳で叩いてフレアを投下していました。これは「スラップ・スイッチ」と呼ばれるもので、本物のF/A-18はもちろん、空軍のF-16「ファイティングファルコン」にも装備されています。

 スラップとは「ひっぱたく」や「平手打ち」という意味があり、劇中のように荒っぽい使い方はある意味で正確といえるでしょう。これだと、突発的なミサイル攻撃を受けたときに素早くフレアやチャフを投下することができます。

 もっとも、投下に関しては、パイロットだけでなく機体側が自動で行うこともできます。

フレアやチャフが装填された投射装置には自動モードと半自動モードがあり、機体のセンサー(相手のレーダー波を探知するレーダー警報受信機など)がレーダー照射やミサイルの飛来を探知した場合、その脅威度や状況に合わせて自動的にフレアとチャフを投下してくれるのです。

 映画ではミサイルの飛来をパイロットや他の編隊の仲間たちが目視で確認して警告を出していましたが、実際の戦闘で飛んでくるミサイルを人間の目、すなわち肉眼で見つけるのは難しく、このような自動モードも使われます。

 フレアはその見た目から、イベントを盛り上げるための演出的なものと考える人もいるかもしれません。しかし、実際にはただ花火のようにバラ捲く、というような簡単なものではなく、戦闘において本来の目的を達成するためには、専門的な知識と技術が要求される「軍用の装備品」であることがわかります。