第2次世界大戦後、高性能化し続ける潜水艦に対抗するためにアメリカは魚雷の高速化、長射程化を考えます。その結果、なんとロケットで空を飛ぶ魚雷が誕生しました。

しかも高性能だったので、海上自衛隊も採用し世界的にも普及しました。

高性能化する潜水艦を駆るための「長槍」として

 第1次世界大戦において多用されたことで急速に発達した潜水艦は、その後起きた第2次世界大戦で、水上艦船にとって最大の脅威となりえるまでに進化しました。とうぜん、そこまで性能が向上した「深海の殺し屋」を仕留めるため、各国では新たな対潜兵器が開発されたのですが、なかでもベストセラーとなったもののひとつが「ASROC(アスロック)」でしょう。

 アスロックとは、対潜水艦ロケットの英名である「Anti-Submarine Rocket」の略称です。

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アメリカ海軍のイージス駆逐艦「マスティン」から撃ち出されるアスロック対潜ロケット(画像:アメリカ海軍)。

 そもそも海中に潜む潜水艦を探し出すには、ソナー(水中探信儀)、ハイドロフォン(水中聴音機)、MAD(磁気探知機)などが使われますが、第2次世界大戦中は性能的な限界から探知可能範囲も限られていました。

そのため、海中の潜水艦を攻撃する兵器も、比較的近距離を攻撃できるレベルで、せいぜい自艦から最大でも200~300mほどの射程でした。

 ところが戦後、ソナーの性能が向上して探知可能範囲が拡大されると、より遠くまで届く対潜兵器が求められるようになります。

 一方、対潜兵器自体も、従来の爆雷のような無誘導のものではなく、対潜誘導魚雷の性能が向上して命中率も著しく向上していきます。しかし艦船よりは速いといっても、対潜誘導魚雷の速度は、決して俊足というほどではありませんでした。

 そこで、むしろ射程の短さやスピードの遅さを威力でカバーできる対潜兵器として、核爆弾の原理を応用した核爆雷まで造られるようになります。とはいえ、核爆雷は、近距離で起爆すると、自艦まで破壊されるほどのすさまじい威力を持っていたため、それを遠方に投射できる兵器が要求されるようになりました。

魚雷+ロケットで遠投が可能に

 こうした事情から発案されたのが、対潜誘導魚雷や核爆雷を自艦から遠く、しかも素早く投射するために空を飛ばすやり方です。水中を進ませると時間がかかるのに対し、大気中を飛ばせば距離も速度も稼げます。

 そこで白羽の矢が立ったのがロケット。この先端、すなわち弾頭部に対潜誘導魚雷や爆雷を装着し、目的海域まで飛行させればよいのではないかとなり、こうして生まれたのがアスロックでした。

「魚雷にロケットつけて空飛ばせ!」と思ったワケ 水中よりも好都合!? 60年現役のベストセラー兵器に
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護衛艦「しらゆき」(当時)のアスロックランチャー。「マッチボックス」と呼ばれる8連装の箱型のもの(柘植優介撮影)。

 アスロックの構造は、飛行推進用のMk.12ロケット・モーターがベースで、その前部に、弾頭となる対潜魚雷や核爆雷が取り付けられます。最大射程は約9000mです。

 ロケット自体は無誘導で、発射前に決められた距離を飛行すると、ロケット本体から弾頭が切り離されてパラシュートが開き減速しながら海面へと落下。その衝撃を受けて、海中では抵抗以外のなにものでもないパラシュートが外れ、対潜魚雷なら設定された深度まで沈降したあとに索敵行動を開始し、目標を捕捉します。一方、核爆雷の場合は設定深度まで沈降すると起爆します。

 弾頭に用いられるのは、アメリカ製のMk.44やMk.46といった対潜誘導魚雷、またはW44核爆雷です。

Mk.44はすでに退役していますが、Mk.46のほうは改良型が現在も使われています。また、日本ではその後、国産の73式対潜魚雷も開発されています。

 一方、W44はアスロックに搭載するために開発された専用の核爆雷で、核出力は10キロトン。こちらは575発が生産されました。

VLS式に押され、「マッチボックス」は少数派に

 開発当初、このアスロックは専用のランチャーの他に、「ターター」や「テリア」の名称で知られる対空ミサイル発射機での運用も想定されていました。しかしもっとも知られているのは、「マッチボックス」の愛称でも呼ばれる箱型の8連装ランチャーMk.112シリーズでしょう。

 これは、上下にそれぞれ1発ずつアスロックが収納された箱型のセット・ランチャーを横に4セット並べたもので、発射に際しては、選ばれたセット・ランチャーが規定の45度の仰角をとります。そしてアスロックが発射され、無誘導の状態で放物線を描いて飛行。あらかじめ設定された距離を飛んだところで、弾頭が分離されて海中へと落下します。投入されます。

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護衛艦「はたかぜ」(当時)のアスロックランチャー(柘植優介撮影)。

 アメリカ海軍でアスロックを初めて搭載したのは嚮導駆逐艦ノーフォークで、1960年に後付けされました。

海上自衛隊では、1966年に就役した「やまぐも」が、「マッチボックス」ランチャーを初めて搭載しました。

 アスロックは使い勝手と信頼性に優れた対潜投射兵器であったため、改良が加えられて現在でも発展型が現役で使用されています。

 最近では、VLS(垂直発射装置)から撃ち出すタイプのものが多くなりましたが、海上自衛隊でいうと、あさぎり型やあぶくま型護衛艦、はたかぜ型練習艦などで、いまだ「マッチボックス」ランチャーを見ることができます。

 とはいえ、これらの護衛艦も退役が目前に迫っているものがほとんどです。いかにも「投射装置然」とした旧来型のアスロック発射機を見るなら、今のうちとも言えるでしょう。