世界最大の航空ショーのひとつ「ファンボロー航空ショー」の実施が近づいています。ここで注目されるのがボーイングの動向です。

現在苦境に立たされている同社はどうするのでしょうか。

シンガポール航空ショーはまさかの欠席

 2024年7月に、イギリスで世界最大の航空ショーのひとつである「ファンボロー航空ショー」が実施されます。ここで注目されるのが、米国の大手航空機メーカー、ボーイングの動向です。それは同社の“欠席”が2回続くかどうか、ということです。

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ボーイング737MAXシリーズのひとつ、737-9のイメージ(画像:ボーイング)。

 ボーイングは、2024年2月に行われたシンガポール航空ショーで、屋内ブースを構えたものの、旅客機の実機展示は見送りました。

欧州やアジアで開かれる航空トレード・ショーでの実機展示は、巨大メーカーであるほどなかば“義務”です。メーカーにとっても、いわゆるテスト機カラーの自社機を展示することが、開発力や進捗具合のアピールにもなるのです。

 ボーイングもこの例にもれず、2023年6月のパリ航空ショーで青色の曲線を描いた自社機カラーをまとった開発中の新型機「737-10」「777-9」を展示し、777-9は11月のドバイ航空ショーでも展示飛行を披露しています。

 そのような同社がシンガポール、ファンボローと2度連続で展示を見送るとなれば、異例の事態といえるでしょう。

 同社がシンガポールで展示中止を決断した契機は、航空ショー直前の2024年1月5日に、アラスカ航空の737-9でドアプラグが吹き飛ぶ事故が起きたことです。このことで、737-9をはじめとする同社の主力製品のひとつ「737MAX」シリーズは減産を強いられています。

 そして、1月31日に発表した、2023年12月期決算の最終損益は22億4200万ドルの赤字に。最終赤字は5年連続とされ、かつての民間航空機の覇者である同社が、勢いを失っている状況です。

もちろん「体質改善」には動いているが…

 もしファンボロー航空ショーで実機展示が見送られるとなれば、ボーイング自身が危機的状況を世界のひのき舞台で一層知らしめることになりかねません。

 シンガポール航空ショーでは、中国がボーイング737とエアバスA320のライバルに仕立て上げようとするC919を展示し、海外マーケットに向け一種の“勝負“に出ました。ボーイングはそれとは対象的な状況です。

 ところで近年、ボーイングは企業体質が変化したと指摘されてきました。

 2000年代中頃は経営改革により株価が回復したと評価されましたが、昨今は技術力より経営利益を重視するようになったとされ、新型コロナ禍後の技能者の再雇用が進んでいないとも指摘されています。航空機メーカーの技術力は安全確保に直結するため、こういった風潮はボーイングの信頼へ疑問を投げかけているといってもよいでしょう。

苦境のボーイングどうなる? 異例の「航空ショー2連続欠席」はマズイ理由 第三国のライバルは勝負に出た
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シンガポール航空ショーで展示飛行を行った中国製旅客機「C919」(相良静造撮影)。

 こうした中で、パリ航空ショーと並ぶ世界の2大航空ショーであるファンボローでも実機を展示しなければ、信頼をさらに失うことになりかねないのです。

 シンガポールでの展示見送りとなった「737MAX」シリーズのひとつ737-10の展示は難しいにしても、安全性に定評のある大型機「777」シリーズの新型派生型777-9は、需要があるマーケットも異なります。後者であれば、展示によりアピールができるはずです。

 ボーイングではこうした経緯もあって、デビッド・カルフーン現CEO(最高経営責任者)が2024年末までに退任する意向を示しています。しかし、同社の方向性に変化が訪れるのは先になるでしょう。そのため、ファンボロー航空ショーで実機が展示されたとしても、ボーイングの社内事情が好転したと見るのは早計かもしれません。しかし実機展示がなければ、もっと深刻な状況にあるといえるでしょう。

 大型機から小型機をレパートリーにそろえる開発メーカーが1社のみになると、世界中の航空会社への販売価格がメーカーの“言い値”になり、これは将来的に航空運賃に反映され、こちらも高値になる可能性があります。1社のみではメーカー間の競争がなくなり、ひいては技術的な発展が鈍くなるかもしれません。

米国にとっても基幹産業が大きな打撃を受け、雇用にも影響し、大国米国の経済悪化、そして世界経済に悪影響を及ぼす可能性も否定できません。現在苦境に立たされているボーイングですが、将来の航空業界に影を落とさないよう、踏ん張ってほしいものです。