例年、多客期に運行される臨時寝台特急「サンライズ出雲91・92号」。2024年の「92号」は、出雲市~東京間で16時間31分もかかるそうです。
東京~出雲市間953.6kmを走る寝台特急「サンライズ出雲」には、多客期のみ運行される臨時の「サンライズ出雲91・92号」があります。2024年春は、東京発「91号」が5月2日と6日に、出雲市発「92号」が5月1日と5日に運行されました。
この臨時「91・92号」は近年、年を追うごとに運行時間が長くなっています。下りの「91号」は、2016(平成28)年時点では東京21時21分発、出雲市13時7分着でした。今年は、東京発は変わりませんでしたが、出雲市着が13時39分と32分長くなり、所要時間は16時間18分となりました。
出雲市駅に入線する臨時の寝台特急「サンライズ出雲92号」(2024年5月、安藤昌季撮影)。
上りの「92号」はより顕著で、同じく2016年には出雲市15時33分発、東京6時0分着(所要14時間27分)だったのが、2024年には出雲市13時52分発、東京6時23分着となりました。
定期列車の上り「サンライズ出雲」は所要12時間11分。停車時間を含む平均速度である表定速度が78.3km/hであるのに対して、16時間31分かかる臨時「92号」は57.7km/hです。なぜ時間がかかるのかを探るべく、筆者(安藤昌季:乗りものライター)は出雲市発の「92号」に乗車しました。
この列車は食堂車や車内販売がないこともあり、出発前の出雲市駅のコンビニは食料調達者で長蛇の列。
13時47分、「92号」が入線し、70名ほどが乗車します。出発までわずか5分。筆者は今夜の宿になる4号車25番A個室寝台「シングルデラックス」に荷物を放り込み、編成写真を撮るため3番線に移動しました。もっと運行時間が増えてもいいので、始発駅の停車時間は余裕がほしいところです。
まるで「静かな事務室」13時52分、「92号」は出雲市駅を出発。車内放送は肉声で、「『人気の』サンライズ出雲92号にご乗車いただきありがとうございます」と車掌のアドリブが入りました。
5分後、出雲市駅の隣の直江駅に着き、客扱いのない運転停車として、14時14分まで17分停車します。検札に来た車掌から「シングルデラックス」のアメニティを渡され、冷房温度を聞かれました。停車中に特急「スーパーまつかぜ10号」に抜かれます。
14時23分、最初の停車駅である宍道駅に到着。定期列車なら12分の距離を、31分かけて走りました。
ちなみに振動計の値は最大震度3.1、平均震度1.8、騒音計は最低45.5db、平均57.7db、最高67.3db。「静かな事務室」並みです。定期列車より揺れない印象でした。

宍道駅を出ると宍道湖が広がる(2024年5月、安藤昌季撮影)。
14時33分に玉造温泉駅に運転停車し、35分に発車。ほどなくして松江市の観光案内放送が流れました。松江駅着は14時41分。
14時47分に松江駅を出ると、56分、揖屋駅に運転停車。59分、普通列車が入線すると同時に出発しました。続けて隣の荒島駅に運転停車で15時4分着。上り特急「スーパーおき5号」と列車交換し、9分に出発しました。荒島駅を出発すると足立美術館の案内放送が流れ、15時13分に安来駅に到着。ここは15分には出発です。
次の米子駅にも停車するので、実に4駅連続。さながら「各駅停車サンライズ」です。JR米子訓練センターや扇形機関庫を見つつ、15時23分に米子駅着。
当日は雲がかかっていましたが、伯備線に入ると車窓に大山が現れます。野本川や日野川が並行して流れ、江尾駅付近ではこいのぼりの飾られた橋が見えました。

根雨駅で運転停車(2024年5月、安藤昌季撮影)。
15時52分、根雨駅に運転停車。58分に新型273系特急「やくも22号」に抜かれ、16時4分に381系特急「やくも15号」とも列車交換しました。発車は16時10分。以後も次の通り、小刻みな運転停車が続きます。
・16時18分:黒坂駅(普通列車と交換)→22分に発車
・16時40分:上石見駅(381系「やくも17号」と列車交換)→45分に発車
・16時54分:足立駅(普通列車と交換)→56分に発車
17時8分、新見駅に到着。8分間の停車中にはホームに降りる乗客も見られ、筆者も2番線に移動し編成写真を撮りました。15分に381系「やくも19号」と列車交換後、16分に発車しました。
すでに出発から3時間以上が経過していますが、実はここ新見駅から岡山駅までが「特に遅い」区間です。「92号」で2時間5分かかります。表定速度にすると38.5km/h。普通列車でさえ1時間30分で走破するので、「各駅停車より遅い特急」というわけです。
普通列車にさえ抜かれる!新見駅を出ると高梁川を連続で渡り、17時33分、方谷駅に運転停車。35分に普通列車と交換後、47分出発しました。17時52分、備中川面駅に運転停車し、ここでは273系「やくも21号」と列車交換。発車は56分でした。
18時7分、備中高梁駅に到着。14分間停車します。多くの人がホームに降りたのは、381系特急「やくも24号」の追い抜きを見るため。なお、普通列車とも交換しました。
「やくも24号」は国鉄色で、20名以上の撮影者がホームに集まっていました。先頭は改造車のクモハ381形、最後尾はオリジナルのクハ381形で、後ろの方が国鉄感高め。日没にならず、ほっとしました。18時なのにカーテンが降りた個室があるのが不思議でした。

倉敷~岡山間で多くの列車とすれ違う(2024年5月、安藤昌季撮影)。
備中高梁~倉敷間は所要29分で、定期「出雲」の26分と大差ありません。これは複線区間で、列車交換に伴う停車がないためです。18時50分に倉敷駅着。水島臨海鉄道の国鉄形キハ37・38形が停車していました。51分に発車すると日没です。
18時57分、中庄駅に運転停車。6分後の19時3分、なんと「普通列車」に抜かれました。発車は19時8分でした。
岡山駅着は19時21分。ここでは5分間の停車です。停車した3番のりばには5・7号車付近に自販機がありましたが、売店はありません。
車内放送では満席 実態は…?山陽本線に入りましたが、岡山~姫路間も普通列車が1時間23分で走破するのに対し、「92号」は1時間36分。各駅停車より遅いです。19時40分、瀬戸駅に運転停車。しかし何も来ないまま20時1分に出発しました。筆者はシャワールームへ。
列車が遅いので定期列車より揺れず、入浴は楽でした。震度計は最大震度2.1、平均震度0.8と小さく、線形がよいのでしょう。なお以前の乗車時よりお湯はぬるく感じました。
21時2分、姫路駅に到着。気動車を模したホーム上の「えきそば」スタンドの目の前に停車しましたが、2分停車では買いに行けません。
21時34分、西明石駅を過ぎるころから速度は100km/h程度になります。ほどなくして明石海峡大橋が見えました。そして21時46分、普通列車を抜きます。これが本日で唯一の「追い抜き」でした。
21時51分、三ノ宮駅に到着。可動式ホームドアが2階個室窓の高さから降りるのが面白いです。停車時間は1分でした。
22時15分、大阪駅に到着。20名以上が「92号」を待っていました。14分停車なので、エスカレーターを上がった先のコンビニで食料が買えます。22時29分、発車。車内を回ってみたところ、空席は「シングル」3室、「ノビノビ座席」5席でした。車内放送では「満席」だそうで、きっぷコレクターでもいるのでしょうか。

車窓が首都圏になって来た(2024年5月、安藤昌季撮影)。
以降、米原駅や浜松駅などで運転停車があるものの、5時56分着の横浜駅までは乗降できません。東京駅着は6時23分。これは例年の「92号」と同一時刻でした。
所要16時間31分のうち、停車時間の合計はなんと3時間14分。長く乗っていられるという意味では、乗り応えのある列車でした。