しばしば「鉄道が好きなのに鉄道に乗らない」などと言われたり、目立つ割に経済効果がないのではないかともされる「撮り鉄」。本当にそうなのでしょうか。

三脚に「鉄ちゃんバー」、脚立と

 鉄道の写真撮影を趣味とする「撮り鉄」。しばしば「鉄道が好きなのに鉄道に乗らない撮り鉄」「鉄道会社に貢献しない撮り鉄」と言われることがあります。なぜそう言われるのか。要因としては以下のものなどが考えられます。

●撮影機材が重い。

 例えば、撮り鉄に人気が高いキヤノンのデジタル一眼レフカメラ「EOS 7D」はボディだけで重量約820g。そこに標準レンズと望遠レンズを1本ずつ加えただけでも、簡単に2kg程度かそれ以上になってしまいます。また撮り鉄の世界では同時に複数台のカメラを操作して写真を撮る人が少なくなく、重量もそれだけ増加。多くの人が使う三脚についても、撮り鉄に人気の「ハスキー4段」は4.2kgです。さらに脚立を持参する人も珍しくありません。

 ちなみになぜ同時に複数台のカメラを使うのかというと、望遠でアップにしたカットと広角で風景と絡めたカットなど、異なる構図で撮影したいからです。三脚に複数台のカメラを装着できる道具を使い、レリーズという有線リモコンを併用するなどすることで、同時に複数台のカメラで写真を撮れます

●撮影ポイントが駅から遠い。

 走行している列車を中心に撮ろうと思った場合、周辺がゴミゴミしていると列車が目立たなくなったり、画面が騒々しくなるため、背景が森で手前が田園であるなど、列車が映える場所が適しています。また綺麗な風景と列車を絡めた写真も人気があります。しかしそうした場所は、便利な駅の近くにはなかなかありません。

●列車に乗っていたら列車の写真が撮れない。

 列車に乗りながら、そうした駅間にある撮影ポイントで撮影することはできません。そのため運転本数の少ないローカル線の場合、それだけ撮影機会が減ることになります。また単純に車移動のほうが機動性、自由度が高いというのもあります。

 もちろん鉄道移動を主体にしていたり、駅ホームでの撮影「駅撮り」がメインであったり、鉄道移動と車移動を上手く組み合わせるなど一般的な旅行者に近い撮り鉄も少なくないため、「撮り鉄」=「鉄道に乗らない」は、必ずしも当てはまるわけではありません。

 ただ確かに鉄道にはあまり乗らないかもしれないが、撮り鉄は経済効果を生み出しているという声もあります。

乗らない切符を購入

 まず鉄道にあまり乗らないとしても、そのときは車を使うのでガソリン代やレンタカー代がかかります。そして撮影ポイントを車で移動するにあたってコンビニや道の駅などに寄りますし、食事代はもちろん必要。泊まりがけの場合は宿代も支払います。

学生は車中泊で食事も簡素だったりもしますが。

 写真業界に経済効果を与えているという声もあります。キヤノンは2014年11月、鉄道ファンに人気の高いデジタル一眼レフカメラ「EOS 7D」の後継機種「EOS 7D MarkII」を発売するにあたり、様々なジャンルの写真ファン向けに個別のカタログを制作しました。スポーツとモータースポーツ、野生動物、野鳥、飛行機、そして鉄道です。つまり少なくともその程度には、写真業界において「撮り鉄」の存在感があるわけです。ちなみに「EOS 7D MarkII」の2014年10月18日におけるネット上の最安価格は、ボディだけでおよそ20万円。ただしそれを使うには、別にレンズを用意せねばなりません

 また鉄道に乗らないで撮影に出かける場合でも、必ず駅に立ち寄ってその鉄道会社のグッズや乗らない切符を買うなど、被写体となる鉄道会社の売上に多少でも貢献しようと考えている人も少なからず存在します。

 珍しい列車が走るなどし撮り鉄が増えれば、その沿線に何らかの経済的影響があることは確かでしょう。その規模や費用対効果、メリットデメリットなどについては、また別に考える必要があると思われますけれども。

撮り鉄を「客」にした鉄道会社

 筆者は1990年代、次のような状況に遭遇したことがあります。

 ある車庫へ蒸気機関車が入ることになり、その様子を撮影したいという鉄道ファンが多数いました。そこでその車庫では、住所氏名を記入し安全を守ってくれれば車庫に入って撮影してもいいよ、という体勢がとられます。

筆者もお願いして入れてもらうことにして、住所氏名を記入していたとき、鉄道会社の方は言いました。

「弊社の路線で使えるプリペイドカードの限定版があるのですが、いかがですか?」

 また珍しい列車が走るため、山間の有名な撮影ポイントに大勢の撮り鉄が集結していたときのこと。そこへ鉄道会社の方が来て、言いました。

「皆さま、お疲れさまです。くれぐれも安全には気をつけてください。それと現在、限定プリペイドカードを販売しております」

 安全やテロ対策などに対する危機意識が昔と比べ高まった現在、そう簡単に車庫へ部外者を入れることはできませんし、鉄道会社の敷地外に集まっている撮り鉄に対し商売を行うことは、鉄道会社がそれを公認したなどと受け止められかねないせいか現在、こうしたことは耳にしません。そのためここでは、その鉄道会社名の明示を控えたことをご了承ください。

編集部おすすめ