関西と紀伊半島を結ぶ特急「くろしお」に使われている381系電車が、2015年秋に同列車から引退すると報道されました。この381系という電車は日本の鉄道史において重要な車両で、その証が洗面所に存在しています。
2014年12月末、特急「くろしお」から381系電車が2015年秋に引退すると、毎日新聞が伝えました。京都駅、新大阪駅と和歌山県の白浜駅や新宮駅など紀伊半島方面を結ぶ、JR西日本の特急列車です。
この381系電車は、日本の鉄道史にとって重要な車両です。そして381系特急「くろしお」の洗面所には、誰でも見られる「その証」があります。
それは「エチケット袋」です。特に変わった利用方法があるのではなく、普通にそれが必要になった場合に使います。飛行機やバスではよく見られますが、列車では珍しいものです。なぜ381系特急「くろしお」には、それが設置されているのでしょうか。
日本で初めて車体を傾けた381系381系という電車が、なぜ日本の鉄道史において重要なのか。それは、現在では全国各地、在来線のみならず新幹線でも使用されている「車体傾斜」というシステムを、日本で初めて実用化した車両だからです。
列車のカーブ通過速度を上げると、乗客に働く遠心力も増大して乗り心地が悪化します。そのため車両自体は安定してカーブを通過できたとしても、スピードアップはできません。
そこで登場するのが「車体傾斜」です。カーブ通過時、まるでオートバイのように車体をカーブの内側へ傾けることで、スピードアップで増加した分の遠心力を相殺。従来と変わらない乗り心地のまま、より高い速度でカーブを通過可能にするシステムです。
特急「くろしお」から引退する381系電車は1973(昭和48)年、この車体傾斜を日本で初めて実用化。そして車体傾斜のシステムは現在、東海道・山陽新幹線「のぞみ」などのN700系電車や東北新幹線「はやぶさ」などのE5系電車、特急「南風」などのJR四国2000系ディーゼルカー、特急「ソニック」のJR九州883系電車といった様々な列車で使用されるようになっています。
ただ車体傾斜のシステムにはいくつかの方法があり、381系が採用するのは「自然振子式」というもの。N700系とE5系の「空気ばね式」、2000系と883系の「制御付き自然振子式」です。
エチケット袋は技術発展の生き証人現在、在来線から新幹線まで広く使われている車体傾斜システム。それを1973年に日本で初めて実用化した381系は日本の鉄道史において重要な存在ですが、ある「弱点」も持っていました。
381系が採用した自然振子式の車体傾斜システムはカーブでの遠心力低減、通過速度向上を実現しましたが、カーブ進入時など不自然な揺れが発生することがあり、それによって気分を悪くする乗客が見られました。そのため381系で運転される特急「くろしお」、特急「やくも」(岡山~出雲市)の洗面所には、エチケット袋が用意されているのです。
そしてこの問題を解決したのが、先述した「南風」などの2000系(1989年登場)や「ソニック」などの883系(1994年登場)が採用している「制御付き自然振子式」の車体傾斜システムで、これらにエチケット袋は備えられていません。
車体傾斜システムを日本で初めて実用化しながら、「弱点」もあった381系。現代の車体傾斜システム採用車両では見られなくなった洗面台にあるエチケット袋は、鉄道とその技術の発展を静かに物語る「生き証人」なのです。
最後にこの381系について、もしかすると「エチケット袋がある電車なんて」と不安を抱くかもしれません。しかし、そう簡単にそのお世話になってしまう車両が登場から40年以上も走り続けるわけがないことは、言うまでもないでしょう。