東海道新幹線では2014年度から、周波数変換装置を取り替える作業に入りました。この周波数変換装置は非常に重要なもので、これがなかったら「のぞみ」は東京駅まで来られません。

どのような装置なのでしょうか。

そのままでは東京駅まで走れない東海道新幹線

 JR東海は2014年度から2021年度にかけて、東海道新幹線の「周波数変換装置」について取り替えを進めることを発表しました。

 日本では、電気(商用電源)の周波数が東日本では50Hz、西日本では60Hzと異なります。東日本大震災が発生した際、このことによって西日本から東日本へ電力を融通することが難しかったことから、マスコミにより「東西で異なる周波数」へ焦点が当てられたこともありました。

 東京~新大阪間を結んでいる東海道新幹線は、この「周波数の境界」を越えて走っています。しかし初代0系から最新のN700Aまで、その車両は西日本で使われる60Hzの電気専用です。つまりそのままでは、静岡県の富士川より東側の50Hzエリアにおいて東海道新幹線は走行できない、東京駅まで来られないのです。

 このため東海道新幹線は、50Hzエリア内の沿線に「周波数変換変電所」を設置して、電力会社から届く50Hzの交流電源を60Hzに変換。それから新幹線へ送電することで、50Hzエリア内でも60Hz専用の車両が走行できるようにしています。

横浜市の綱島などに合計4ヶ所

 東海道新幹線では周波数変換変電所(FC:Frequency Conversion substation)を、沿線の4ヶ所に設置しています。東京都内の大井FCと神奈川県内の綱島FC、西相模FC、そして静岡県内の沼津FCです。

 現在、大井FCと沼津FCには「静止形」の周波数変換装置が1台ずつ設置されています。

綱島FCは「静止形」1台と「回転形」3台の合計4台、西相模FCは「回転形」3台です。つまり東海道新幹線には4ヶ所の周波数変換変電所と、9台の周波数変換装置があることになります。

 今回、JR東海が進める周波数変換装置の取り換えは、綱島FCに設置されている回転形の1台と、西相模FCに設置されている回転形の1台をそれぞれ静止形に置き換えるものです。

 「回転形」の周波数変換装置は、電力会社から届く50Hzの電気でモーターと発電機を作動させ、60Hzの電気を生み出す機械的な変換装置です。これに対し「静止形」は、50Hzの電気をコンバータとインバータを通すことで60Hzに変換するという、パワーエレクトロニクス技術を活用した機械的動作のない変換装置です。そのため静止形には機械の回転によるエネルギーの損失がないことから効率に優れ、定期点検時に機器を解体する必要もないというメリットがあります。

 JR東海によると、回転形の装置をそのような利点を持つ静止形へ置き換えることによって電力消費量を約2%削減できるほか、定期点検に伴う停止期間を短縮できるため、さらなる安定輸送を図れるとのこと。工事費は134億円です。

もうひとつの「境界ごえ新幹線」、33年間の差

 日本には東海道新幹線のほかにもうひとつ、周波数の境界を超える新幹線があります。長野新幹線(北陸新幹線)です。関東は50Hzですが、長野県では原則として60Hzの電気が使われています。

 しかし長野新幹線には、東海道新幹線のような周波数変換変電所はありません。

50Hz、60Hz両方の電気で走れる車両を使用しているからです。軽井沢~佐久平間に架線の電気が50Hzと60Hzで切り替わるポイントがありますが、列車は何事もなかったように通過していきます。

 ではなぜ東海道新幹線は両対応の車両を使うのではなく、周波数変換変電所を設置する方法にしたのでしょうか。その理由として国鉄新幹線総局に勤務していた海老原浩一氏は著書『新幹線』(成山堂書店)で「50、60Hz両用の電車では重量が大きくなる」ことを挙げています。東海道新幹線が開業した1964(昭和39)年当時、両対応の車両を制作することは不可能ではなくとも、デメリットが大きかったのです。

 その問題をクリアし、長野新幹線は1997(平成9)年に両方の電気へ対応した車両を使って開業。33年という年月で、新幹線では「電気の使い方」も変わっていました。

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