北陸・北海道新幹線の開業が前倒しされる見通しとなり、山形県知事が「朗報だ」と発言しました。それらが通らない山形県が、なぜ喜ぶのでしょうか。
2015年1月8日、政府・与党のワーキンググループは北陸新幹線の金沢~敦賀間、北海道新幹線の新函館北斗~札幌間について3年から5年、開業を前倒しする方針を決定しました。
これを受けて13日、山形県の吉村知事は記者会見で「朗報だと思っている」と発言。北陸新幹線とも北海道新幹線とも無関係な山形県がなぜ、朗報だと思うのでしょうか。それは山形県が「ポスト北陸・北海道」を見つめているからです。
山形県には奥羽新幹線(福島市~山形市~秋田市)と羽越新幹線(富山市~新潟市~(山形県酒田市)~秋田市~青森市)という、1973(昭和48)年に政府によって「基本計画」が決定されたふたつの新幹線計画があります。ですがこれらについて、実現へ向けた運動が行われているものの、計画決定から40年以上経過した現在も具体的な進展はありません。
しかし北陸新幹線と北海道新幹線の建設が一段落すれば、次は奥羽新幹線や羽越新幹線の整備に順番が回ってくるのでは、という「ポスト北陸・北海道」を考えた見通しがあり、北陸・北海道新幹線の開業前倒しは山形県にとって朗報となるわけです。
山形県の吉村知事は13日の会見で「北陸・北海道新幹線は奥羽・羽越新幹線の1年前に基本計画が決定したもの」と発言。その次は奥羽・羽越の順番であるという考えをにじませました。
こうした「ポスト北陸・北海道」を狙う取り組みは、他の地方でも動き出しています。2015年2月3日には愛媛県西条市で四国の鉄道高速化を考えるシンポジウムが開催され、「四国への新幹線導入の意義と課題」をテーマにした基調講演などが行われる予定です。
会見で山形県の吉村知事は、奥羽・羽越新幹線が必要な理由についても述べました。
そのまずひとつは、山形県に「フル規格新幹線」が通っていないことです。現在、すでに山形新幹線が運行されていますが、これは在来線を新幹線直通可能に改良した「ミニ新幹線」というもので、最高速度は130km/h。名称こそ「新幹線」ですが、法的にも性能的にも実態は在来線です。
この「ミニ新幹線」に対し、200km/h以上で高速走行できる東海道や東北などの新幹線を「フル規格新幹線」といい、吉村知事は「フル規格新幹線が通ったところに都市が発展しているという歴史的な事実がある」と発言。「地方創生」を最重要課題に位置づけている政府の方針と照らし合わせても、奥羽・羽越新幹線の整備が大変重要だという認識を示しました。
フル規格新幹線が、基本的に太平洋側だけで走っていることも理由として挙げられています。吉村知事は、日本海側と太平洋側はお互いに補完機能を果たさねばならないこと、東日本大震災で「リダンダンシー(冗長性)の確保が再認識された」ことを挙げ、日本海側にもフル規格新幹線を通すことの意義を主張しました。
「平均レベル」に追いつきたい山形県奥羽・羽越新幹線の整備を目指す理由について、山形県の吉村知事は企業誘致やビジネス的な観点についても理由に挙げました。東京~青森間がフル規格新幹線の東北新幹線によって3時間少々で繋がる時代、東京から距離的にほぼ半分の山形まで同じぐらいの時間を要することについて、企業誘致などビジネスの観点から不満が上がっていると吉村知事は発言。県としてそうした不利な事情はしっかりと打開し、「早く(山形県は)平均レベルに追いつかねばならない」と述べています。
山形県は2015年1月、鉄道分野、国土政策分野、県内経済産業事情の専門家からなる奥羽・羽越新幹線の整備推進に向けたワーキングチームを設置し、13日に第1回の会合を開催。
また山形県内では奥羽・羽越新幹線のほか、現在運行されている山形新幹線を、その終点である新庄駅から日本海に面した山形県庄内地方へ延伸させようとする動きもあります。2015年1月7日の記者会見で庄内地方にある酒田市の本間市長は、「人口減少に歯止めをかけるためには山形新幹線の庄内延伸が大事」という認識を示しました
フル規格の奥羽・羽越新幹線の実現ではなく、山形新幹線の延伸を目指すこうした酒田市の動きについて、山形県の吉村知事は「一生懸命地域のために活動するのは良いこと」「尊重すべき」としながら、「(いま)『フル規格』に取り組まないとまたまた遅れてしまう」という危機感もあらわにしています。