JR列車のレアチケットを入手したい場合に行われる「10時打ち」。北陸新幹線の一番列車や「トワイライト」最終列車でも多く実行され、全国から、しかもほぼ同時に申し込みが殺到しました。

しかし、特に問題は起きていません。JRのきっぷはどのようなシステムで発売されているのでしょうか。

約25秒で934席が完売

 2015年3月のダイヤ改正で延伸開業する北陸新幹線の一番列車、また運行を終える寝台特急「トワイライトエクスプレス」「北斗星」のきっぷが発売され、申し込みが殺到。JR東日本によると、北陸新幹線の一番列車である東京発金沢行きの「かがやき」501号、金沢発東京行き「かがやき」500号とも約25秒で、各934席が完売しました(「北斗星」は3月以降も臨時で存続)。

 これらの「きっぷ争奪戦」は各メディアで話題になり、「10時打ち」という鉄道ファンにはよく知られている用語が広く紹介されました。JRの指定券は基本的に、その列車が運転される1か月前の午前10時ちょうどに発売が開始されます。

「10時打ち」とはその発売開始の瞬間、窓口の係員に端末を操作してもらいレアチケットの入手を図るというものです。

 北陸新幹線の一番列車や最終「トワイライト」のきっぷ発売開始では、この「10時打ち」が全国で行われ、1列車に百数十人しか乗れない「トワイライト」は発売とほぼ同時に、1列車934席ある北陸新幹線「かがやき」でも30秒足らずで完売しています。

 ただ逆にいえばこの「10時打ち」、10時になると同時に、ごく短い瞬間に、全国からきっぷの申し込みが集中することになります。インターネットのウェブサイトや電話では、アクセスが集中すると処理能力を超えてしまい、うまく表示されないことがありますが、JRのきっぷを発売するコンピュータシステムは大丈夫なのでしょうか。

国立科学博物館に収蔵されているきっぷ発券システム

 JRの指定券などを発売するコンピュータシステムは「MARS(マルス)」と呼ばれており、それを管理するJRグループの鉄道情報システムによると、全国の駅、旅行会社におよそ9500台ある端末から一斉にきっぷの発売要求があっても、応えられる性能が持たされているとのこと。仮にすべての端末が「10時打ち」を行っても、問題ないわけです。

ピーク時でも毎秒250コールを処理し、平均6秒で応答することが可能といいます。

 「MARS」は「Multi-Access Reservation System」の略で、日本語で表すと「旅客販売総合システム」となります。誕生したのはJRがまだ国鉄だった1960(昭和35)年で、東海道本線の特急「こだま」(東京~大阪)4列車、2320席の販売から始まりました。

 以来「MARS」は「日本最大規模のオンライン・リアルタイム・システム」として、鉄道のきっぷ以外にイベントのチケットなども取り扱えるようになったほか、インターネット経由で個人利用も可能になるなど、半世紀にわたってより便利に、高性能に進化。1日平均で170万枚も発券しています。

 またトラブルも非常に少なく、稼働率は99.999%。

鉄道の安定運行にはきっぷの安定発売も大切で、それに大きな役割を果たしているのがこの「MARS」なのです(各数字は2010年時点のデータ)。

 日本の鉄道とオンラインコンピュータシステムの発展に貢献した「MARS」。その最初のシステムであった「MARS1」は2008年度、電気学会から「でんきの礎」として表彰されたほか、情報処理学会からは「情報処理技術遺産」に認定されました。また国立科学博物館には、1964(昭和39)年に登場した「MARS101」という機械が収蔵されています。

 ちなみに「MARS」が導入されるまで、国鉄の指定券は電話と台帳を使い、手作業で販売されていました。